日記12
愚連隊
即応予備自衛官制度により、私が配属された部隊は、現役自衛官たちに通称「愚連隊」とよばれていた。
私は耳だけは他人よりも良かった。
他にも雑品部隊、ポンコツ共の寄せ集め、社会(しゃかいk)不適合者の矯正部隊などなど、聞くに堪えないひどい悪口を言われているのを、私はこの耳で聞いた。
その悪口がどうにも気に入らなかった。
ある日のペーパーテストの時間、隣に座っていた先輩、お世辞にも優しそうとは言えない顔の、つまりは普通の人ならば道ですれ違ったら、道を譲ってしまいそうな顔の先輩に、私は小声で声を掛けられた。
「おい、お前、答案見せろ。」
学生時代にもこんなシュチュエーションがあって既視感を覚えた。
「間違ってても知りませんよ。そして、この答案を出来るだけ回してください。」
私は顔が恐い隣の先輩に、教官が余所見した瞬間に渡して、はた目から見て答案用紙に見えるよう問題用紙に書き込んでいるフリをして、テストの時間を過ごした。
私の答案はメモと共に隣の先輩から返って来た。
「ありがとう!たすかった」
「まじありがてえ」
「あたまいいんだな」
筆跡が違う文字が、メモに複数書いてあった。
私はテストの後、隣に座っていた顔の恐い先輩に喫煙所に呼び出された。
「お前、何でテストの答案見せた?」
まるでヤクザのような先輩が、蒸気機関車のように紫煙を噴きながらベンチで聞いてきた。
「うーん…」
私は言葉を選んで考えて先輩に答えた。
「悪口が気に入らないんっすよ。」
「は?」
先輩が少々驚いたような声を出した。
「私はね先輩、この俺らの部隊が雑品共とか、ポンコツ共とか言われてるのが、かなり気に食わないんっすよ。」
私はタバコの箱を出しタバコを咥えたが、ライターがどこにも無かった。
「おら。使え、続けろ。」
先輩がライターを貸してくれた。
「どもっす。」
私はライターを先輩に返して話を続けた。
「私がテストの答案を回して、それで平均点数が上がれば、この部隊の評価が上がるじゃないっすか。」
私は紫煙を吐き出しながらそう言い、更に言葉を続けた。
「評価が上がれば私のここでの居心地が良くなる。みんな居心地が良くなってみんなも気分が良い。それは良い事じゃなかなと思うんっすよ。」
私は片方の口角を上げて笑顔を作った。
今思うと多分かなり悪い顔に見えたんじゃないかと思う。
「お前、悪い奴だな!」
先輩は大爆笑していた。
私も同じく笑っていた。
とても楽しい時間だった。
この記憶は私を責めない。
だが常識、つまりは世間様が正しいと認めない記憶だ。
「世間様は認めない」その事が私を責めている。
だが私にとって、最高に楽しい時間だった。
2017.7.29 土曜日 平成29年




