手帳2-12
沈黙と謝罪
私と一緒に空中に、浮くゴム鞠を見た幼稚園の時から一緒だった、女の子が引っ越した。
あれから彼女とは何回か話をしたが、私はどうにも話が下手で、何と会話していいのか分からず、ただただ「はい」とか「いいえ」とか、彼女に敬語で話をしていたのを覚えている。
そして彼女が何を考えていたのかも分からず、お別れの挨拶も無しに、彼女は私の前から姿を消した。
彼女の事を思い出してみると、彼女の家にお呼ばれして、彼女の部屋で本を、主に漫画を見せて貰ったのが印象深い。
内容は、今で言うホラー物ばかりで、私は彼女の本が怖くて、絶句以外の表現が出来なくて、「こわいよ」という言葉以外の表現出来なかった。
そんな彼女は引っ越した。
私は彼女が居なくなった家を見ていたのだが、空家になった外の家の壁に、黒い空中に浮いた、人影のようなものを2つ見た。
何だか怖くて、その人影が恐ろしくて、私は彼女が居た家の側には、それが見えるから、絶対に近寄らなかったのを覚えている。
当時、引っ越した彼女は「親戚に引き取られる事になった。」とだけ聞いた。
彼女には両親が居た。
両親が居るのに、親戚に引き取られるのは変だと思ったが、子供の事情など「子供には大人の事情に、何の抵抗も出来ない」のが世間様の考えであり、普通であり、一般的なのだ。
価値観を共有出来たかもしれない異性だった。
後に分かった話だが、彼女の両親は自宅で自殺してしまった。
その為に、彼女を親戚が引き取る事になったと、両親が話しているのを、引っ越した話を含めて聞いたのだ。
私はどういう理由で、どうやって彼女の両親が死んだのか、それは全く分からなかった。
ただ、引っ越した彼女の家の壁に、黒い人影が2つ、壁に張り付くように、それが浮いているのが、とても怖かった。
私の邪推だが、「首を吊って死んだのではないか?」などと余計な事を今考えている。
人様の家庭の、しかもかなりデリケートな話に、口を挟むものでは無かったし、何より私は嘘つきと呼ばれるのが嫌で、親に話そうにも聞いて貰えず、これは誰にも話さなかった。
私は沈黙という嘘をついている。
しかし沈黙は私を嘘つき呼ばわりしない。
両親は私の沈黙を好んだ。
そして両親が「私が謝る言葉と態度」を好んだ。
沈黙と謝罪をしていたら、私は安全だった事が多かった。
文章に書き起こして、それを見せびらかす事などをしなければ、私は嘘をついている事にはならない。
沈黙と謝罪は私にとって、世間様にとって、正しい事なのだと今でも思う。
2017.7.24 月曜日 平成29年




