街へ向かおう
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個体名:クウ
種族:獣人類 鳥種 ハチドリ
レベル:1
スキル:『鑑定』『言語習得』『不死』『回復魔法Lv.1』『支援魔法Lv.1』『毒薬作成Lv.MAX』『短剣術Lv.MAX』『隠密行動Lv.MAX』『投擲術Lv.MAX』『苦痛耐性Lv.MAX』『毒耐性Lv.MAX』『麻痺耐性Lv.MAX』
HP:28
MP:1574
STR:7
DEX:352
VIT:6
INT:158
AGI:8
MND:358
LUK:1
状態:筋力低下(極)《解除不可》
称号:『人殺し』『元暗殺者』『見捨てられし者』『虐殺者』『攻撃力ゼロ』『支援特化者』『回復特化者』『シスコン』『男の娘』
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見事に微妙なスキル構成と嫌がらせとしか思えない称号。
しかも見事に魔法使いですよと言わんばかりのステータス。
やっぱり昔、生活にぎりぎり支障がない程度の筋肉弛緩剤を敵に注入されて、歩くので精一杯になったのが原因だろう。
お陰で家族からは見捨てられるし、今まで培ってきた戦闘技術の大半が使えなくなるし、それにこの先一生戦闘することは出来ないと断言できるしな。
だからオレは本格的にこれからずっと美海の援護に回る事に決めた。
と言っても奇襲ぐらいなら辛うじて出来るはず。
そういえば、肝心の美海のステータスはどうなんだろう。
鑑定を使えば見えるだろうけど、許可無しに除くのも失礼だな。
「……見てもいい?」
「えっ? 私の裸を? くーちゃんもだいぶ年頃の男の子って感じになってきたね」
ステータスを見終わったと思われる美海が変なことを言ってくるが、オレは二十歳だから年頃でも男の子でも無く自他ともに認める立派な大人である。
それにしてもなんでこの状況で裸をみたいという心理に働くと考えたんだ?
まあ、からかっているのだろうが。
「……ステータス」
「そんなに怒らなくても分かってるよ。見てもいいけど、私にもお兄ちゃんの見せてね」「了解」
「「『鑑定』」」
オレと美海は同時に見た。
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個体名:ミウ
種族:竜人類 龍種 アルクラ
レベル:1
スキル:『鑑定』『言語習得』『不死』『龍魔法Lv.1』『全魔法Lv.1』『大剣術Lv.1』『剣術Lv.MAX』『弓術Lv.MAX』『全状態異常耐性Lv.MAX』
HP:27652
MP:5374
STR:685
DEX:754
VIT:954
INT:532
AGI:869
MND:725
LUK:99
状態:健康
称号:『攻撃特化者』『古代龍の血を宿し者』『ブラコン』
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オレ完璧に要らないな。
支援魔法で筋力五上げたところで誤差程度。
回復魔法を使ったとしても到底美海が治ったとは言えないほどの数値の大きさ。
ヒールって確か回復量十だったか……。
三万近くに十ね。
砂漠に水を垂らすようなもんだよ。
それに『全状態異常耐性Lv.MAX』はもともと龍種に付いていたものか。
小さい頃に毒飲まされながら徐々に耐性つけていったオレはいったい……。
「――ちゃん。お兄ちゃん。大丈夫? ものすごく落ち込んでいるようだけど」
「オレ、いる?」
「当然お兄ちゃんは必要だよ。私、戦い慣れていないから、昔色々していたお兄ちゃんのアドバイスが役に立つはず。そもそも私の好きな人をそんな簡単に見捨てたりはしないよ」
「少し安心した」
でも面と向かって好きと言われるとやっぱり恥ずかしい。
顔がにやけていないか心配だ。
「あれー? くーちゃん顔が赤くなってるよー」
「うるさい」
顔はにやけてなかったようだけど、あんなことを言う美海が悪い。
しかも顔を近づけてきてオレの目を真っ直ぐ見るものだから、思わず目を背けてしまったのも、しょうがない事だろう。
「お兄ちゃんってなんか器用だよね。顔の表情筋は動かないくせして、顔色は変わるんだから」
「変わってない」
「えー、嘘だあ。私がこの目ではっきり見たんだから」
「……変わってない」
「まあ、そういうことにしておいてあげるよ」
美海のしょうがない子供だねという生暖かい視線に納得出来ないものがあるが、そんなのにいちいち反応していたら話が進まない。
「そうそう、お兄ちゃんのステータスってなかなか悲惨だけど私が守ってあげるよ。ついでに私が辛い過去を思い出せないくらい愛してあげる」
「……ありがとう?」
悲惨な過去を同情だけで終わらせること無く愛を囁かれ、自分よりも年下の女の子に守ってもらうという男、としては屈辱的な事だけどそんなに悪い気分ではない。
でも流石にヒモは勘弁してほしいが。
「なんで疑問形なの? まあいいや。それでお兄ちゃん街にたどり着くことは出来そう?」
「勘」
「勘かあ。まあ、私はお兄ちゃんを信じて進むだけだよ」
オレの勘は膨大な実戦経験と土地感覚で研ぎ澄まされた精度の高いものである。
だからあまり勘は外れない。
そんなオレの勘がそのまま真っ直ぐ行ったらいつかは草原を出られると判断していたから、美海の服をちょんちょんと引っ張って正面を指差す。
まあ、目には広大な草原しか映らないだろうけど。
「あっちね。じゃあ早速行きましょう」
美海がオレの手を繋いで龍の翼を羽ばたかせ、草を風圧で飛ばしながら、上昇した。
急に飛び立つものだから美海の手を離さないようにぎゅっと握っているものの怖すぎて声が出ない。
それでも比較的危ない目に遭ってきたオレは、次第に冷静になる。
オレ自身も龍の翼よりは一回り小さいハチドリの羽を懸命に動かして飛ぶことが出来た。
「飛べた」
「なんで飛ぶのよ。このまま手を繋いでおきたかったのに」
「怖い」
「まあ、それならしょうがないわね」
美海が心底残念そうに言うが、こっちからすればたまったもんじゃなかった。
それに羽を動かすって慣れるまでは、意識を羽に回さないといけないから飛びにくい。
なんで美海はなんの苦労もなく飛ぶことが出来たんだろう?
「翼の操作、上手」
「ああこれ? これは『古代龍の血を宿し者』のお陰で自分の体は思い通りに動かすことが出来るみたいなの。しかも体の仕組みも何となくわかるから直ぐに飛べるようになったわけだよ。お兄ちゃんも飛べるようになるの早かったけど、やっぱり私と同じような効果があるスキルか称号があるの? 見た限りではなかったと思うのだけど」
「無い」
昔鍛えた驚異的なバランス感覚と集中力で必死に食らいついているだけだ。
しかもハチドリって何気に羽ばたく回数が多い。
どうにも羽を動かすにもある程度の筋肉は使うみたいで、もう体力が切れそうだ。
昔だったら余裕で耐えきれたのになあ。
「抱っこして」
このまま飛び続けていたら直ぐに落下してしまうだろうし、手を繋ぐのは自分を長時間支えておかないといけないから筋肉が持たない。
だから筋肉を使わなくてもいい手段を考えるとこれしか残っていなかったわけだ。
「だから最初にだっこして上げたのに」
「ごめん」
「別にいいよ。頼られている感じがして嬉しいし、私にとっても役得だから」
美海は、ホバリングしている僕の方に近づき一気に抱き上げる。
当然ながらお姫様だっこ。
不満を感じない訳では無いが、それも空から見える光景を一望した瞬間に吹っ飛んだ。
「綺麗」
「確かに綺麗だね」
空は所々に雲があり、地球よりも白と水色が明確に見え、そこで自由に飛び回っているオレ達のまだ知らない生物。
太陽は雲の隙間から直線のような光を放ち大地を照らす。
下を見れば草原が広がっているが、湖らしきところには様々な動物が集まり水を飲んでいて、風が吹くごとに草が靡く。
そして視線をもっと先に伸ばせば何も見えないものの、多くの未知を予感させる。
オレは本当の意味で異世界に来たことを自覚すると同時に、これからの冒険が楽しみになること間違いないと確信した。
「目指せ街へ、だねっ!」
「ん」
美海も感動してテンションが上がってきたのか、拳を天に突き上げながら声を張り上げている。
つまりオレは片手だけで抱えられているわけで、兄としての威厳が……。
もはや何度も自覚して失墜していた。
「じゃあ、加速するからしっかり捕まっていてね。離すと落ちちゃうから気をつけてよ」
美海は更に翼を動かし上昇して、一気に下降する要領でスピードをアップ。
風が顔に直接当たるのを避けるために顔を美海の後ろに向ける。
そしてオレは振り向いたことを後悔した。
先程まで美しい景色だと思っていたのが一瞬の出来事みたいに、今は動物同士が争い、捕食者が被食者に喰らいつき、大型の魔物らしきものは周りのことも考えずに殺し合っている。
しかもオレ達がさっきまでいた場所には中型の魔物が続々と集まり出してので、あのままずっとあそこにいたら襲われていたかもしれないという危機感を抱いた。
なるほど、だから『異世界転生に招待された哀れな諸君。この世界は凶暴な魔物が闊歩し、種族と種族が対立し、位の低い身分が高い身分に虐げられ、今日もどこかで悲鳴が聞こえる場所』って手紙に書いてあったんだな。
文章が決して誇張ではないことは理解出来た。
要するに人間だろうが魔物だろうが多分本質は変わらない。
人間は理性があるから少しはましだとは思うが、中には理性すら働かない人もいるだろう。
そんな中で、
『そんな世界に俺達、神は更に無茶苦茶にする事を希望する。
勇者になるのも良し、魔王になるのも良し、有名な冒険者になるのも良し。
但し、何も世界を震撼させる気が無い奴は即効不幸になるだろう。
好きだった子が殺され、家族が殺され、住んでいた所が滅ぼされるかもしれない。
そうなりたくなければ、とにかく目立て』
というのは相当難題になってくる。
しかも不幸に遭ってもそれが神によるものなのか、偶然なのかが判断しづらいのも神の性格の悪さが伺える。
もし、一番世界でトップレベルの実力を持った転生者が不幸な目にあってそれを神によるものだと勘違いでもしたら、それこそ世界が崩壊するまで大変なことをしでかしそうだ。
――ドンッ。
「わぷっ」
美海が着地する瞬間、体を捻って衝撃を殺すようにしたせいで、オレの顔が美海のたゆんとした胸にポフッって埋まる。
どうやら思考にふけっているうちに、街の手前まで着たようだ。
オレは胸から逃げるように美海の腕から逃れ、大地に腕を組み仁王立ちで降り立った。
自分の羽で飛べず、いつ落下してもおかしくない状態にあったからか、地面に降りると足が安定して安心する。
「うむ」
「何が『うむ』なの? あんまり似合ってないよ。それより、そんな所で突っ立っていないで早く行こう」
地面に立つという行為がなんとなく感慨深いような気がしてボーズを決めて重々しく頷いたつもりだったが、全く似合っていなかったらしい。
頭を前に向けると、古いよりは年季が入っている建物が数多く並び、人が忙しそうに働いている活気に溢れた街が見えた。
ここからでも分かるほどの大きい西洋風の城もあるので、恐らくこの街は城下町ではないかと予測。
まあ、これは門の所からのぞき見た風景だが。
周りは城壁に囲まれていて、全体像までは見えなかった。
それでも初めての異世界の街がどういうものかは楽しみでしょうがない。
「早く」
「急にどうしたの?」
今度はオレが大人らしく美海の手を引っ張って、幸い誰も並んでいなかったので門の前まで進んだ。
「身分証を提示してください」
門の前で待機している兵士に声を掛けられるが、気分上昇中のオレの耳に届くことはなく、そのまま通り過ぎる――。
――なんて出来るわけがなく、手を繋いでいた美海に止められて渋々立ち止まる。
「お兄ちゃん、どうしよう」
当然ながら身分証なんて持っていないオレ達は兵士の指示には従えない。
街に着いてすぐに詰んだか、これ?
「身分証なし」
「すみません、身分証持ってないのですが」
「そうですか。それではこちらに来てください」
俺の言葉を翻訳して伝えてくれた美海は、兵士にまたかと言わんばかりの表情を見せられ、表情が強ばる。
オレ達は兵士に手慣れた様子で、門から少し街に入ったところにある駐屯所みたいな場所の建物に連れてこられた。
オレはいきなり牢屋に入れられなければいいんだけど、と思いながら扉を開く。
――中は特に何も無かった。
いや、一つだけ真ん中のテーブルには占い師が持っていそうな水晶玉が置かれていた。