表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/24

異世界と手紙とステータス

 背中に感じるチクチクとした草に、心地よい風がオレの頬を撫でていく。

 目を閉じていてもまぶたの裏が赤い。

 そして耳に様々な動物達の鳴き声が聞こえた。

 オレはゆっくりと目を覚まし、首をキョロキョロさせて周りを確認する。

 どうやら異世界に無事に来れたようだ。

 妹である美海はまだ隣で気持ちよさそうに眠っている。

 一瞬、誘拐でもされたか? と思ってポケットに手を入れると、見事に財布がなくなっていた。

 ちっ、スリか。

 まあ、居酒屋の飲食代で財布が寂しくなっていたから、そんなに支障はないのだが。

 他にも何かされていると仮定して、体の異変から性別までしっかり調べたが、特に変わりはなく、せいぜいポケットに紙が入っていただけである。

 オレはその肝心な紙の内容を読んで、これを美海にも伝えるために、とりあえず美海を起こすことにした。


 美海は白いワンピースを着ていて、いかにも上流階級のお嬢様が爽やかなところで寝ているようにしか見えない。

 しかし、いつまでも眺めているわけにはいかないので、草原の上に寝ている美海の肩を掴んで左右に揺さぶると、胸がたゆんたゆんーーではなくて、ううっと小さなうめき声が出る。

 美海はぼんやりとした目で上半身を起こし、オレと同様にあたりを見回して、落ち着いたところでオレを見た。

 美海の見た目も特に変わりはなく、服装も清潔な白いワンピースのままだった。


「ここ、どこなの?」

「……」

 まだちょっと寝ぼけている顔でオレに聞いてきたが、オレにその答えがわかるはずもなく答えることが出来ない。


「あれ? お兄ちゃん、背中に何か付いてるよ」

 オレは気になって手を背中に回し確かめる。

 すると、肩甲骨辺りに羽らしきものがあり、それを触ると甘い痺れが全身を走った。


「んっ」

 二十歳になってこんな声が出たのはだいぶ恥ずかしい。

 できるだけ声を我慢しながら羽を触って輪郭を触ると大体の形は把握出来た。

 思ったよりも薄かったが、ハチドリを調べたことがあるオレは、すぐにハチドリだという確信が生まれた。

 後、ハチドリの長い嘴は付いてはいないみたいで、羽以外は人間の姿のままである。


 自分の確認をし終わったオレは次に、自分で確認している美海の姿をジロジロと凝視してみた。

 美海は龍と所望していたが、東洋の龍ではなくて、西洋のドラゴンがベースみたいで、角張ったカッコイイ翼と、艶々とした尻尾が生えている。

 どちらも漆黒の色で、中身は活発だが、外見は和風美少女の美海に、上手いこと肌の白さとドラゴンの漆黒さとのコントラストが絶妙なバランスで釣り合っていた。


「どうしたの? 変なところでもあった?」

 自分の体を把握出来たらしい美海は不思議そうにでも少し不安そうにオレに聞いてきたが、まさか美海に見惚れていましたなんて言えるわけがない。


「似合ってる」

 オレの真実だが苦し紛れに伝えた短い言葉でも美海は嬉しそうに笑った。


「ありがとう。そういうお兄ちゃんも、か弱さが引き立っているようで可愛いよ」

「……ふんっ」

 可愛いと男であるオレに言ってくるのは心外だが、美海からの褒め言葉だと思うと思わず顔が紅くなってしまい、照れ隠しのようになってしまった。


「やっぱり私はお兄ちゃんのことが諦められないよ。……あれから五年経ったけど、運命の人はお兄ちゃん以外現れなかった」

「……そう」

 そんなオレの表情に当てられたのか、美海が突然に再度告白してくる。

 もしかしたら壮大な草原の中二人きりという状況に後押しされたのかもしれない。



 ※※※


 五年前、外国の路地裏に一人で血と泥に(まみ)れたオレと一人で散歩していた美海が出会った瞬間に、美海の方からいきなり告白してきた。


『私はあなたの目に惹かれました。私と結婚してください』

 当初人生の絶望の淵にいたオレは、どうせ世間知らずのお嬢さまが、偶然捨てられたオレに興味を持っただけと思ってバッサリと断った。


『では私が五年あなた以外の人に恋をしたらあなたの事は諦めます』

 この時の諦めの悪かった十二歳の美海は、ちゃっかりとオレの損にしかならない約束を押し付けてきたが、オレはこの少女に二度と合うことは無いだろうと思っていたので、気軽にその事を約束してしまった。

 オレは万が一でもその少女に二度と会わないようにするためにこの場所から離れようと足を引きずりながら、立ち去ろうとする。


『あれ? どこに行くの?』

 この時点で既に敬語を取り外していた美海が想定外な出来事でも起こったような反応をしたが、やさぐれていたオレはそのまま無視して進んでいると、


『貴方には私の弟になってもらうつもりだから勝手に逃げ出さないで』

『は?』

 結婚したい相手を弟にするとか意味不明だったが、家族に捨てられて天涯孤独な身だったオレは行く宛もなかったので魅力的な提案ではあった。

 しかも相手はお嬢さまっぽいし贅沢な暮らしができると思って、ラッキーだと思っていた。


『もう手続きは住んでいるから後は名前だけ教えてよ』

(くう)。弟違う、兄』

『えっ? 空は十歳ぐらいよね』

『十五歳』

『……まあいいや。それより上の名前は?』

『元は夜殺(やや) 空』

『やや? 変な苗字。私は新海 美海よ。じゃあ、これから宜しくね、お兄ちゃん』

『ああ』

 この時、美海の無邪気な笑顔にドキッとしたのは秘密である。


 この後、日本にある美海の家に連れていかれて、風呂に無理やり入れられて出たところ、女の子と間違われて一悶着あったのは別のお話。

 多分、泥と地でいい具合にオレを男に見せていたのだろう。


 これがオレと美海の出会いである。



 ※※※



 あの時何で海外に日本人であるオレが行っていたんだっけ? と少し昔の事を思い出してボーッとしていたのを、美海に肩を揺さぶられたことにより復活する。


「おーい、早く街に向かおうって話ちゃんと聞いてた?」

 もちろん聞いているわけがないが、オレは無言で頷く。


「なら、いつまでそこに座っているの? 早く行こうよ。お姫様抱っこで連れていっちゃうぞー」

 まるで何も無かったかのように振る舞う美海の姿に、オレは気を使わせてしまったかと大いに反省。


「ねえ、本当にお姫様抱っこしてもいい? この体力が有り余っていて何かに活用したくてしょうがないんだよね」

「嫌だ。……飛ぶ」

「うーん、やっぱり抱っこさせて」

 そう言い終わる頃には美海はオレを軽々と持ち上げていた。

 体を横に倒されたのでバランスをとるために美海の首に手を回すと、ちょうど美海の顔が近くにきて思わず赤面する。

 はっきり言って五年前の時点ではなんとも思っていなかったが、この五年間で美海を好きだと自覚するまでになった。

 ……後々思えばそうなるように仕向けられていたのかもしれない。


 しかしそれを認めるのは負けたような気がしたから、日本の法律を利用して妹だから結婚出来ないという事で断ってきた。

 たが、ここは日本ではなく異世界。

 当然日本の法律が通用するわけがないので、割とマジでピンチである。

 誘惑されたら逆らえない。


「自分から手を回してくるなんて、お兄ちゃん実はしてもらって嬉しかったんじゃないの?」

 いたずらっ子の表情を浮かべて、オレの反応を楽しんでいる。

 自分でも気が付かないうちに勝手に行動していたようだ。

 絶対オレが赤くなっていることもバレバレだよな。


 ……いやいや、なにその場の勢いに流されそうになってんの、オレ。

 一瞬たりとも美海に抱きつけるなんて嬉しいなあとか断じて思っていない。

 そもそも街の方向さえ分からないのにどうやって待ちにたどり着くんだよ。

 その前に美海が寝ている時は龍の翼なんて無かったとはず。

 背中で隠れるような大きさではないし。

 多分オレにも同じことが言える。

 そういえば、紙のことも言わないと。

 そんな感じに考えを共有することが全然出来ていないことに気がついて、オレは美海に卸してもらえるように進言した。


「降ろして」

「えー、まだそんなに抱いてないよ」

「絶対必要」

「しょうがないなあ。下ろしてあげるけど絶対必要なことがしょうもない事だったら、お姫様抱っこより恥ずかしい格好をさせながら街まで行くよ?」

 オレは縦に首を振り、オレの半ズボンの服のポケットに入っていた紙を渡す。

 美海はその紙をゆっくり広げ、黙読した。


 手紙の内容はこうだ。

『異世界転生に招待された哀れな諸君。この世界は凶暴な魔物が闊歩し、種族と種族が対立し、位の低い身分が高い身分に虐げられ、今日もどこかで悲鳴が聞こえる場所。

 そんな世界に俺達、神は更に無茶苦茶にする事を希望する。

 勇者になるのも良し、魔王になるのも良し、有名な冒険者になるのも良し。

 但し、何も世界を震撼させる気が無い奴は即効不幸になるだろう。

 好きだった子が殺され、家族が殺され、住んでいた所が滅ぼされるかもしれない。

 そうなりたくなければ、とにかく目立て。

 だが、このままでは諸君らが可哀想だから三つのプレゼントを用意した。

 一つ目は不老。

 死なない限り何年でも生きていけるという能力だ。

 二つ目はステータス。

 自分の能力を数値に変えるものだ。

 だが諸君らはよく勘違いをしているが、これは攻撃して相手の損傷率によって相手のHPが減るのではなく、その攻撃の攻撃力と相手の防御力やその他その攻撃にいろいろ関わった力の数値を厳密な計算の結果、相手がどれくらい損傷するのか計算するのだ。

 例えば、レベル一と同種族のレベル百では、レベル一が万が一首に思いっきり剣を切りつけたところで、ダメージを与える事は絶対にない。

 そして、能力の数値はその本人が百パーセントでどれくらい出せるかの数値である。

 後、ステータスは基本他人には見えない。

 三つ目は鑑定。

 これは相手の能力を見ることの出来るものだ。

 いくら相手が武術の精通してなくともステータスが高ければ、強い。

 逆にいくら武術に精通していてもステータスが低ければ、弱い。

 だから普通は相手を見るだけでは強弱が分からない。

 そこで鑑定の出番だ。

 これは相手のステータスを見ることができる代物。

 逃げんかどうかの判断が出来て非常に便利だ。

 ただ、この世界で持っているやつは稀だ。

 だから黒髪で鑑定を持っていたらほぼ間違いなく転生者だろう。

 以上でプレゼントは終了だ。

 最後に諸君らがこの世界、に混沌をもたらすことを期待する。

 

 転生者が敬愛する神様より


 P.S.転生者を殺すと強力な能力をプレゼントするかも。ついでに金貨五枚ずつ渡しておくから上手に使ってね』


「ろくな神様じゃないね」

「同感」

 プレゼントなるものをくれたのは有難いのだが、この神様は転生者同士を殺し合うように仕向けているし、この世界をなんとも思ってないことも伝わってくる。

 おそらく自分さえ楽しければいいという快楽主義者だ。

 ていうかこの手紙を見て敬愛する日とは余程内容が理解出来ていない馬鹿だけだ思う。

お金は気づいた時にはポケットの中に入っていた。

小判のような大きさだった。


「とりあえず、ステータスを見てみよう」

「うん」

 ステータスを見たいと脳裏を横切った瞬間、半透明より更に透明な板が瞳に写った。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 個体名:クウ

 種族:獣人類 鳥種 ハチドリ

 レベル:1

 スキル:『鑑定』『言語習得』『不老』『回復魔法Lv.1』『支援魔法Lv.1』『毒薬作成Lv.MAX』『短剣術Lv.MAX』『隠密行動Lv.MAX』『投擲術Lv.MAX』『苦痛耐性Lv.MAX』『毒耐性Lv.MAX』『麻痺耐性Lv.MAX』


 HP:28

MP:1574

 STR:7

 DEX:352

 VIT:6

 INT:158

 AGI:8

 MND:358

 LUK:1


  状態:筋力低下(極)《解除不可》

 称号:『転生者』『人殺し』『元暗殺者』『見捨てられし者』『虐殺者』『攻撃力ゼロ』『支援特化者』『回復特化者』『シスコン』『男の娘』

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 思いっきり、技術だけがステータスに受け継がれているな。

 これはオレが昔仕事していた時に由来するのだが、今はそんなことよりステータスの内容と言うか定義? をさっそく鑑定で確認する。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 HP:対象の体力を数値化したもので、0になると死亡する。

MP:対象の魔力を数値化したもので、0になると気絶する。

 STR:筋力。数値が高いと攻撃力も上がる。

 DEX:器用。数値が高いと攻撃の命中率が上がる。

 VIT:防御力。数値が高いと防御力やHPが上がる。

 INT:知力。数値が高いと魔法攻撃力が上がる。

 AGI:素早さ。数値が高いと移動速度が上がる。

 MND:精神力。MPが上がったり、回復魔法の回復量が上がる。

 LUK:幸運。高いほどすべてにおいて運が良くなる。

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━

『転生者』:異世界から転移してきた者。もしくは転生していた者。


『レベル』:生きているものを殺すことで経験値が一定値に到達するとレベルが上がり、ステータスが強化される。


『Lv』:技を磨けば磨くほど上がる。Lv上昇は才能に依存するが、時間をかければ誰でも極致にたどり着くことが出来る。MAXはLv.10


『鑑定』:自他問わず、ステータスを調べることが出来る。


『言語習得』:異世界の知的生物の言葉と文字を習わずに理解できる。


『不老』:寿命で死ぬ事は無い。


『回復魔法Lv.1』:初級魔法『ヒール(小)』を使うことが出来る。

『ヒール(小)』:擦り傷を治す。消費魔力5


『支援魔法Lv.1』:初級魔法『筋力上昇(小)』を使うことが出来る。

『筋力上昇(小)』:筋力を10上げることが出来る。消費魔力5


『毒薬作成Lv.MAX』:毒と薬を作ることが出来る。神を殺す毒と生きてさえいればどんな状態からも回復する薬を製作可能。


『短剣術Lv.MAX』:理想通りの動きを見せ難なく実現可能。


『隠密行動Lv.MAX』:ほぼ見つからず隠れることが可能。但し、索敵系統を持つ敵には発見される。


『投擲術Lv.MAX』:どの距離でも筋力がある限り思い通りに投げることが出来る。


『苦痛耐性Lv.MAX』:意識すればどの怪我でも痛みがなくなる。ただ大量出血死には注意。


『毒耐性Lv.MAX』:毒で死ぬことはなくなる。


『麻痺耐性Lv.MAX』:麻痺で痺れることは無い。


『人殺し』:人を殺したものに与えられる。


『元暗殺者』:以前職業が暗殺者であったものに与えられる。


『見捨てられし者』:家族に縁を切られた者に与えられる。


『虐殺者』:人を百人以上殺したものに与えられる。


『攻撃力ゼロ』:ほぼ他人に攻撃を与えられないものに与えられる。


『支援特化者』:支援に集中した構成をしている者に与えられる。


『回復特化者』:回復に集中したものに与えられる。


『シスコン』:妹を溺愛している者に与えられる。


『男の娘』:自ら教えない限り男だと気付かれず、女にしか見えないものに与えられる。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「……ひどい」

 オレは自分のステータスを見て、卒倒しそうになった。




大半なスキルは空の過去が影響しています。


備考:美海の空に対する呼び方。

『お兄ちゃん』:普段呼ぶ時。

『兄さん』:怒っている時。

『くーちゃん』:からかっている時。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ