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神?との会合

 ――白い長髪に白い眼、さらに肌も白く、顔は無表情な女神。

 眠っていたオレの目に最初に入り込んだのはそんな印象の人だった。


「起きましたか?」

 声まで無機質。

 むしろ生きていると感じるのが不思議なほどの外見と声。

 服も白装束で、オレはこの人はヤバイ人なのではと思い始めていた。


「そちらの妹さんも起きたようですね」

「どこですか? ここは」

 美海はオレと違い、即座に状況を把握するために質問をする。

 僕が横を向くと、上半身を起こした美海の顔は若干じゃっかん不機嫌そうだったけど。

 敬語なのは恐らく相手が目上の人だと思ったからだろう。


「ここはあなた方のために急遽用意した虚構空間です。あるいは、なにもない世界といった方が正しいでしょうか」

 オレは首を横にぐるりと回しても、どこまでも続いているであろう白い空間しかうつらなかった。


 それにしても急遽きゅうきょ創った世界?

 あまりのスケールの壮大さにオレは実は念入りに仕込んだドッキリではないかと思った。


「……帰らせて」

 まあ、ドッキリでも現実でもどっちでもいいから早く寝たい。

 明日二日酔いにならないように睡眠をよくとらないと。


「二日酔いの心配はありません。この空間にいらっしゃった瞬間から体に過剰なものや病の元となるような物は排除しておきました。ただ、新海 空様の生まれつきのご病気は治りませんでした」

 この人は心が読めるのか?

 しかも自分の名前が把握されているし、生まれつきの病気ってなんだよ。

 コミュ障のことを言っているのか?

 だとしたら失礼な奴だな。


「外見は大変可愛らしい幼女でしらっしゃるのに心の中は以外と男らしい話し方なのですね。それとご病気はその外見に関係していることなのですが、ご存じないですか?」

 これで心を読めるのは確定だが、外見幼女とかオレに失礼すぎるだろ。

 どこからどう見ても立派なイケメンだろうが。

 これだから最近の若者はいかんのだよ。


 その言葉を読み取っただろう女神らしき人は、なにも言うこと無くじっとした目線でこちらを見ていた。


 すみません。嘘です。自分でも外見が幼いなあと気づいていました。

 オレはいたたまれなくなったので、素直に自分を認める。


「はい、良くできました。偉いですね」

「ん」

 そう褒めてくれた女神に頭をゆっくり撫でられて気持ちよくなり、思わず声をだしてしまった。


  この女神、頭を撫でるのは今までで撫でられたなかでトップ五には入る実力を有しているな。


「貴女っ! 私のお兄ちゃんになにしているんですか!? お兄ちゃんは私のですよ!

 それにお兄ちゃんもそんなに気持ち良さそうな顔をしないでよね」

 蚊帳の外にいた妹がオレに抱きつきそうになっていた女神を離して、オレを抱き寄せた。


 毎回思うのだが、この妹少しブラコン気味ではないだろうか?

 普通の兄弟関係を大学の友達に聞いたら妹はとても生意気で兄を人間として扱わないとか、パシリにされるとか聞くんだけど、美海はそんな様子は一切見せない。

 その上、無表情がデフォルメなオレの心情を簡単に見抜いてくるし。

 本当になに考えてるんだろうか、うちの妹は。


「それにお兄ちゃんの病気って何ですか? お兄ちゃんなんてコミュ障以外健康体ですよ」

 美海もたまにオレの心を粉砕するようなひどいことをいうよな。

 コミュ障ってそんなに悪いことなのかよ。


「いえ、空様は第二次成長期がなかったはずです。ですから声変わりもしていらっしゃらないでしょう?」

 確かになかったと思う。

 クラスメイトがどんどん成長していく中でオレだけが全く変化が起きなかった。


「地球ではカルマン症候群と呼ばれているのですが、恐らくあなたのは別のなにかです。どちらかというと呪いにちかいです」

「……治せない?」

「すみませんが、それは私の上司に当たる神の許可が降りませんので出来ません。それに私はその姿はけっこう好きですよ」

 そう思っているのなら無表情で言わないでほしい。

 お世辞か本音か分からないから。

 まあ、どちらにせよ突っかかったところでこの呪いが解かれるわけでもないし、今更成長したところで違和感がすごくなりそうだから、今はいいや。


「ごめんね、ひょっとして体のこと気にしてた?」

  美海がオレの体をぎゅっと抱き締めながら申し訳なさそうに謝ってきた。


「大丈夫だよ、気にしてないから」

 それより立派な現役女子高生であり胸は平均よりも大きい妹に抱かれているオレは背中に柔らかいものが当たっているわけで……。


「お兄ちゃん、何を考えて顔を赤くしてるのかな?」

「…………胸」

 美海がオレの耳に息を吹きかけるようにして、ニマニマした笑顔で聞いてくる。


「ごめんお兄ちゃん聞こえなかったからもう一回大きい声で言って。幸いここには三人だけしかいないんだから」

 どうやらボソッと言ったオレの声は届いていなかったようだ。


「胸っ!!」

 そういった瞬間、あまりの恥ずかしさに顔がボンッと赤くなって湯気が出る。


「「可愛い」」

 女神と美海の両方のコメントを聞く余裕はこの時はなかった。

 ついでにこの時も女神は無表情だった。



 しばらくの間状況は全く変化しなかったが、女神の咳払いでようやく事態が動き出す。


「すみません。このままでは話が進みませんので本題に移っても宜しいでしょうか」

「いいですよ」

「うん」

 オレは未だに美海にギュッとされたままの体勢で賛同の意を返した。

 顔はまだ熱く手をパタパタしたままだが。


「本題はですね、貴方(あなた)方に異世界に行ってもらいたいのですよ」

「異世界ですか? そんなもの存在するのですか?」

 真っ先に返答したのはやはり美海。


「事実ここも貴方方からすると、いわゆる異世界と呼ばれるものなのです。ですから存在するかと問われると存在するが答になります。それに貴方方に行ってもらうのは剣と魔法の世界です」

「おおー」

 剣と魔法の世界と聞いて真っ先に反応したのはオレだった。

 よくライトノベルを読んでいたオレがそんな言葉を聞いてサラッと流すほど、オレの情熱は低くない。

 この時はさすがの俺の目もキラキラと輝いていたかも知れない。


「お兄ちゃん。だるくて仕方なく同意しているのか、ものすごく嬉しくて喜んでいるのかいまいちよく分からない目をしているんだけど。それにそんな簡単に同意してはダメでしょうが。

 剣と魔法があるという事は少なくとも殺し合いとかしないといけない場面に出会うかも知れないんだよ。もう少し用心してよね」

「……ごめん」

 兄のオレが妹に諌められているのは納得がいかないが、正論なので仕方がない。

 そもそも妹の中に兄の威厳というものは残っているのだろうか。

 最近凄いところ見せてないし、むしろ見せられてる状態だ。


「話を続けます。異世界に行くには貴方方の今の力では非常に危険です。本来ならば転生して一から土台を作っていって貰いたかったのですが、大変勝手ながらこちらの都合により、ある動物と融合してその特性を受け継いでもらいたいのです」

 ……動物と融合ってキメラにでもなるのか?

 普通に嫌だ。


「ねえ、勝手な都合というのは私たちには説明してもらえないの? それに動物と融合なんて醜い姿になるの間違いなしだわ。向こうの世界で迫害を受けそうよ」

「すみませんが、勝手な都合の話をすると私の首が物理的に飛ばされてしまいます。それに貴方方は何か勘違いをしていらっしゃるようですね。動物を融合するという事はぐちゃぐちゃになるのではなく、ベースは貴方方の体を保ったまま一部だけその動物に変化するだけです。異世界にもそういう種族はありますよ」

 その動物は自分で決められるの?


「はい、その通り自分で決められます。前の方だと龍や虎、狼などを選んでいる人が多かったですね」

「……お兄ちゃん。ちゃんと口に出して質問しようよ。そんなんだからコミュ障になるんだよ」

「……」

 いちいちごめんなさいなんて言ってられるか。


「すみませんが、あまり時間がありませんので、早く決めていただきたいのですが」

「じゃあ、私は最強の動物とで」

「最強の動物といわれても個体差ありますからね。妥当に不死鳥か龍ぐらいでしょうか」

「龍で」

「分かりました。新海 美海様は龍ですね。(くう)様はどうしましょう?」

「ハチドリで」

 ハチドリは世界一小さな鳥として有名で、同じ場所に留まってホバリングし続ける能力は世界一と聞いたことがあるし、後ろにも移動でき、瞬時に方向転換も可能だったはず。

 要するに闘わないように空中で逃げ回るのには最適だ。

 鳥は視細胞が人間の三倍はあるそうだから視力にも期待できる。

 これで敵を見つけたらすぐに退散可能。

 美海は助けなくても勝手に敵を蹴散らしてそうだから心配はいらないはず。


「……ハチドリですか。少々お待ちください。……おりました、この鳥ですね。ハチドリを選ぶ想定をしていませんでしたので少し時間がかかりました、すみません。」

 女神は目を瞑ってハチドリの映像を探していたらしい。

 いったい女神の目の裏はどうなっているのか知りたいが、説明されても現代科学を超越していて理解できる気がしないからもういいや。


「二人とも異世界転移の準備が整いました。心の準備が出来次第、声をおかけください。後、自分のなりたい戦闘時の役割を教えてくださったら、その能力が使える様にこちらが調節します」

 そう言い残して女神は姿を消した。


 オレ達は互いに向き合い、今後どうするか話そうとしたが一切異世界について説明されていないのを思い出し、本当に心の準備とだけすることになった。


「何で龍?」

 女神とは違い、心の中で思っただけでは美海には伝わらないから声に出して疑問に思ったことを聞く。


「私はライトノベルとかは読まないから、自分に有利になるような強い生物がわからなかったときに、女神様が前の人が何を選んだか言ってきたじゃない?

 その中で龍が一番強そうに思えたから、龍を選んだの。別に強くなくたって私は技術で補うつもりだよ。

 お兄ちゃんは? 可愛らしい鳥を選んだようだけど」

「よく飛べる。目が良くなる。逃げやすい。よって完璧」

「戦うつもりは全く無いわけなの?」

 美海の非難がましい目線に少し怯んだが、もう決めてしまったものは変えられない。

 だからオレは敢えて堂々と首を縦にコクンと頷いた。


「はぁ〜、まあお兄ちゃん運動できないんだから仕方が無いか。いいよ、守ってあげる。だから私から離れたらダメだよ、くーちゃん」

 美海がニマニマした顔を作り、オレをくーちゃんどう読んでいることからオレをからかっていることが分かる。

 兄としての威厳がもう既に絶体絶命の崖っぷちだったのが、この時をもって崖から突き落とされた。

 ……戦わないオレが悪いのだし、危険な役目をになってくれる美海に今更偉ぶることなんてできない。


「アハハハハ。お兄ちゃん、そんなに落ち込まなくてもちゃんとお兄ちゃんって呼んであげるって。ほんとに可愛い反応するからついついからかいたくなっちゃうけど、しょうがないよね。じゃあ、お兄ちゃんは回復と支援を宜しく。私は前衛にするから」

「うん」

 オレが妹からのくーちゃん呼びに肩を落としていると、雰囲気で気づいたのか妹が慰めてくれた。

 これはこれでなかなか屈辱的なことだが、美海にギュッと正面から抱きつかれたせいで、顔に胸が当たり、そんな事を気にしている暇がない。

 最後に耳元で回復と支援を頼むって言われたけど、オレの意識は半分飛びかけていたので聞いていなかった。


「女神様ー!! 心の準備出来ました。私は前衛、お兄ちゃんは回復と支援でお願いします」

 オレは心が不安定なままなんだけど、まあ美海がいるから大丈夫だろう。


「意外と早かったですね。もう少し粘る人が多いいのですが。新海 美海様は前衛の技術、新海 空様には回復・支援技能をお付けしておきます。では行ってらっしゃいませ」

 女神がそう最後の挨拶をした瞬間、オレ達の足元に黒い空間が広がり、オレ達を呑み込んでいく。


「言い忘れていましたが、私は女神ではなく、女神に作られた転生用システムの一部です。今までこんなたくさん話したことがありませんでしたから、今日は嬉しかったです。ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」

 そう爆弾発言を落としてきた女神は空間に溶け込むように消えていった。

 女神じゃなかったのかよ。

 確かに一言も女神とか言ってなかったけど、だいたいここに出てくるのって神様だという先入観があったからなあ。


 これからの事を楽しみに思いながら、オレ達の意識は異世界へと羽ばたくのであった。


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