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合コン

 

 満開に咲いている桜の反対側のある二階建ての普通の一軒家でオレは外に出掛ける準備をしていた。


「オレ、合コン。留守番よろしく」

 合コン行こうと意思表示したのはオレこと、新海しんかい くうは絶賛彼女募集中の大学生だ。


「行ってらっしゃい、くーちゃん」

 そう返事をしてきたのはオレの妹である新海しんかい 美海みうなのだが、ひとつ言わせてもらいたい。


 オレは二十歳なのに、よく妹にからかわれその時に『くーちゃん』と呼ばれる。

 名前が『そら』ではなく『くう』と読むことも理由のひとつだろうけど、もうひとつあるのだ。


「くーちゃんじゃない。もう二十。お前の兄」

 オレは妹を見上げて・・・・言い返した。


「ごめんね、無理だよ。あ、そのコミュ障治したら考えてあげるかも」

 美海はオレの主張をばっさり斬り捨て、笑う。


「……努力する」

「やっぱり今のなしで。こんなに可愛い外見の兄を兄と呼ぶのはだいぶ抵抗があるからねー。妹ならいいよ」

 努力すると言った手前からこれだよ。

 コミュ障を治すのもだいぶ苦労するものなのにあっさり意見を変えやがって。


 それに妹に可愛い外見とか言われたくない。

 美海は十七才の現役女子高生で身長は平均よりも高い165センチ。

 しかも全国模試で常にトップ5をキープするほど頭脳明晰で、剣道大会・弓道大会の全国大会でどちらも金メダルをとったことがあるほどの運動神経。

 さらに顔も非常に整っていて、十人中ブス専以外は全員振り返るほどの美少女だ。

 だから剣道や弓道をしているときは長い黒髪も相まって絵になるほどの綺麗さを誇る。

 それゆえ当然のごとく、こいつのファンクラブも存在し、学校の大半男女のどちらにも人気がありモテモテ状態らしい。

 とどめにこいつは性格も他人に気を配れるほど優しいから、同性でも嫉妬がわかないらしい。

 つまりこいつの存在そのものがチート。


 それに対しオレは頭脳は平均より少し上で、運動神経はほぼ無く、妹とは血の繋がっていないがオレも容姿は整っている方だからからモテる。

 ここまで聞くとなんて羨ましいやつに聞こえるんだろうけど、ここからが問題だ。


 先程の美海の言葉『可愛い外見』『妹ならいいよ』から推測できるようにオレの外見は男子の平均身長を大きく下回る140センチで、顔は童顔というか中性的というか多少女性よりというか……。

 前に友達に大きいぬいぐるみをもって眼帯つけてゴスロリを着ているのが一番似合うと思うよという全然嬉しくないアドバイスをしてくれたことがあった。

 まあ、つまりオレは幼女にしか見えないから、ロリコン男にモテモテなのだ。

 な、嫌だろう。

 その上、妹に他人が絶対オレの方が妹だと勘違いしても絶対妹にはなりたくない。


「絶対いや」

「強情だね。しょうがない。お兄ちゃんと呼んであげるよ。ただ合コンでお持ち帰りされないようにね」

「されない」

 美海がクスクスと笑いながらオレの頭を撫でてくるのが本当に気にくわない。

 オレはまだ成長期に入っていないだけなんだ。

 きっとオレだけ第三次成長期とかあるんだよ。


 まあそんなことはおいといて、これから行く合コンで女を捕まえてくるんだ。

 せめて連絡交換をしたい。

 いや頼めばいくらでも連絡交換してくれるんだろうけど、コミュ障だし、まず男扱いされない。

 この容姿いやまではいかないけど、もうちょっと男らしく生んでほしかったよ。

 お陰で就職活動にいっても、

「ごめんねお嬢ちゃんここは社会見学する場所ではないんだよ。お母さんはどこかな?」

 と追い出される始末でまともに面接をうけさせてもらえない。


「毎回私がお持ち帰りされる前に連れ戻しているからね」

「……知らない。もう行く」

 さらにオレの知らない間に男に襲われるのを妹が阻止してくれていたらしいが、今度は注意していくから大丈夫。


 オレは家のドアを開けて合コンの指定されている場所に向かった。


「お兄ちゃんは大丈夫かな?」

 そんな声が後ろから聞こえてきたけど、そんなに心配しなくても大丈夫に決まっているだろ。



 ※※※


 仕事から家に帰る人で道が半ば埋もれている駅前のところに来た。


「くーちゃん、くーちゃんここだよ」

 大きく手を振りながら柱にもたれ掛かり、自分の存在をアピールしているのはオレの同級生の松田まつだ 龍之介りゅうのすけだ。

 今回の合コンのまとめ役である幹事を引き受けた人物でもある。


「おっ、かろうじて男物の服着ること出来たんだな」

 前に言ったゴスロリを勧めてきたのはこいつだ。

 当然今から合コンに行くんだから女物の服を着てくるわけがないだろう。

 ちゃんとした半袖に半ズボンの正真正銘男物の服だ。


「でもちょっと大きくねえか? 片方の肩が少し見えてるぞ」

「ノープロブレム」

「じゃあ予約した居酒屋に行くか。男性陣は全員揃っているからな。女性陣は十分後にくる手はずになっている」

 そうしてオレは身長180センチある龍之介の後をちょこちょこ歩いて目的地に到着した。

 道中、龍之介に妹さん大変可愛らしいですねと言ってきた人が何人かいたけど、オレは何も聞かなかった。

 龍之介が自慢の妹ですと言い返したのもオレは聞かなかった。

 聞かなかったら聞かなかった。



 繁華街を少し通りすぎ。

 今回の集合場所である居酒屋の戸をガラガラと龍之介こと、リューが開ける。

 外が暗いのに対し、こちらは照明が明るく雰囲気の良い店だった。


「おー、お前らやってるか? 男性陣の最後のメンバーをつれてきたぞ」

「やってるもなにも女の子が来てないんだから、せいぜい男の友情を深めておくのが限界だよ。今から酒を飲んでいたら最後まで持たないしな」

 そう言ったチャラそうな二十代前半期の男が、テーブルの上に水が入っているコップをトンッとおき、オレたちの方をおどけながらみた。


「そうですよ。だいたい女子よりも早く待ち合わせするのは合コンの常識ですしね」

 こっちは眼鏡をかけた一見真面目そうな人だが、裏がありそうで信用されない人のような感じを受ける。

 ついでにこっちもコップには水が入っていた。

 あとテーブルの上にあるのはメニューぐらいである。


「それで、龍ちゃん。その子が男の最後の人? 女の子を先に連れてきたんじゃないよね?」

「もしかして誘拐でもしてきたのか、松田?」

 チャラ男とメガネがリューをにやけながら問いただす。


「そんなひどいこと俺がするわけないじゃないか。こいつは俺と同じ大学の同級生で、友達だ」

 オレの頭をぽんっと叩き、紹介する。


「お前の同級生っていったら最低でも二十歳越えてるじゃねえか!? 詐欺だろ」

「僕も十二歳ぐらいの女の子だと思ってました」

 ふっ、チャラ男とメガネ。貴様ら見る目がないな。

 オレは今男物の服を着ているんだから男に見えるのが当たり前だろ。

 全く、だから最近の学生は……。


「くーちゃん、自己紹介お願い」

 いきなりリューに声をかけられたので体がびくついた。


「後」

 それでも返すオレはすごいと自分でも思っている。


「後で全員で自己紹介した方が二回しなくてすむ、ということかな」

 さすがオレの友達。

 よくわかっているじゃないか。

 オレは首を縦にふった。


「いや、えっ? ものすごく可愛い声で言った『後』にそれだけの意味が詰め込まれていたの? というかよく龍ちゃん分かったな」

「こんなの慣れだよ、慣れ。一年友達やってたらだいたい分かるよ」

「いやいや、そんなバカなはずがありませんよ。その子無表情なのにどうやって感情を読み取るんですか?」

「雰囲気かな? すまん、俺にもよくわかっていないだ。こう直観でひらめくみたいな」

 失礼な人たちだな。

 そんなにオレの言いたいことが読み取りにくいのか。

 だいたいしゃべっているんだから伝わるに決まってるだろう。


「「マジか……」」

 この二人息ぴったりだな。


「そろそろ」

 そろそろ女性陣が来る頃のはずれなんだけど。

 腕時計を見て、今が十九時であることを確認した。

 どんな女子が来るか楽しみだなあ。



 ガラガラガラ

 今回の合コンの相手の四人が顔を出した。


「おおー、今回は顔が整った人が多いな」

 女子全員に聞こえるように大声で言って好感度をあげているチャラ男。

 こいつなかなかの手練れだ。

 女心を掴む心得を体得している。

 オレだって。


「…………」

 何も言えなかった。

 どうやらコミュ障であるオレにはきつかったようだ。


 リューは片手を大きく振りながらここだよと示す。


「松田。四人連れてきたけどこれでいいんだよね?」

「ああ、助かるよ。これでようやく始められる」

「じゃあ、早速自己紹介から始めましょうか」

 リューと話していた女性はそう促すと、オレたちのテーブルについた。

 他の三人も少し緊張ぎみに椅子に座る。


「まずは私からするわ。私は藤枝ふじえだ 和美かすみ。年齢は二十五歳で、趣味はヨガぐらい。今日はよろしく」

 へー、ヨガやってるんだ。

 確かにスタイルいいし、体が柔らかそうだ。

 この人が女の子の幹事をしている人っぽいなあ。

 こんな感じで後の三人の紹介が続いて、次は男性陣の番。

 リュー、メガネ、チャラ男と続いて最後に僕の番となった。


「……新海 空。二十歳。趣味は家事。よろしく」

 前の合コンと同じく、これが限界だった。

 オレは少し恥ずかしくなって、顔が朱に染まる。


「……なんか可愛いんですけど。本当に二十歳?」

「無表情だから可愛い人形みたい。家に持って帰ってもいい?」

「趣味が家事って本格的にお嫁さんの方に向いているね」

 女子三人の興味がオレの方に向いた。

 これはオレに好意を持っていると捉えてもいいんだろうか。


「……恋人」

「え? 恋人?」

 恋人になれたらいいなあ、という願望が思わず漏れてしまった。

 オレはその事に気づいて、今度は顔に火が吹く。


「きゃぁぁぁ、赤くなっている顔も可愛い~。でもごめんね。恋人にはなりたくないかも」

「ああ、確かにね。見るぶんにはいいんだけど、結婚と考えると頼りないかな」

「そうね。自分よりも圧倒的に女子力高そうだから、女としてのプライドがズタズタにされそうで怖い」

 ……またか。

 実は今回の合コンは四回目なんだけど、全部そんな感じで断られてきた。

 やっぱりオレを受け入れてくれる女性はいないのか。

 そんなことを考えているオレから負のオーラを感じ取ったのか、場の空気が凍った。


「ごめん。言い過ぎた」

 女性の一人が謝ってくれたけど、焼け石に水。


 ……みんなが楽しみにしていた合コンをオレの都合で雰囲気を悪くするのは良くないから、話題転換することにした。


「……大丈夫。注文」

 そろそろ料理が食べたくなってきた。

 というより、酒で現実から逃避したい。


「すみませーん。この飲み放題のコース料理のやつ八人前下さい」

「飲み放題のコース料理、八人前ですね。少々お待ちください」

 うまいことリューがオレの言葉を読み取ってくれ、店員を呼び、メニューを指差して店員さんに注文してくれた。

 ナイス、リュー。


「でさ、和美ちゃんのヨガって実際どんなことをやるの?」

 話を切り出したのはチャラ男。

「それは――――」

 それに答える藤枝さん。


 そんな感じで料理が来てからも話題にかけることはなく、オレもときどき輪の中に加わりながら、時間が過ぎていった。


「そろそろお開きにしない? もう十二時過ぎてるし」

「え? もうそんな時間?」

「ねえ、和美ちゃん。駅まで送っていってあげようか?」

「私はいいわ。それよりもあの三人をお願い」

「りょーかい」

「あのすみません。連絡交換しませんか?」

「まだしていなかったわね」

 オレ達は連絡を全員と交換して帰宅することになった。

 全員同じ、四千円の飲み放題付きコース料理を頼んだので、男子は五千円、女子は三千円払った。

 割り勘だと男としてどうなのかなというのと、全額払うとオレ達の財布が寂しくなるも

 その結果、この金額が一番妥当という判断に至ったのだ。


「俺ちょっと駅まで送りに行くから先に帰っといて。じゃあ、また会おうな」

 チャラ男はそう言い残して女子を四人連れて帰っていった。


「では私もそろそろ帰らせてもらいます」

 メガネ君も退出。

 残ったのはオレとリューだけ。


「リュー、帰らない?」

「そうしたいのはやまやまなんだが、お前をほっとくと、誰かに連れ去られて大変なことになるからなあ。前だって一緒に合コンした男に連れ去られそうになってたし。しかも今酒入ってるから動けないんだろ」

「何でわかった?」

「お前との付き合いは長いからな」

「そう」

 確かにオレは酔っているが、オレの場合はテンションが高くなるわけでも、眠るわけでも、絡むわけでもなくて、動かなくなるだけなのだ。

 お酒を飲んだら気持ちよくなって怠惰感が増す。

 要するになにもしたくないのだ。

 こうなったらオレはテコでも動かない。


「だから、お前の妹をスマホで呼んどいた」

「何で知ってる?」

「いやな、お前の妹に『兄が誘拐されてもいけないので、私が迎えに行くから終わったときに連絡ください』って言われたんだよ。お前よりしっかりした娘だよな。少しは見倣ったらどうなんだ?」

「自慢の妹」

まあ頼りになるのは他人がいる時だけで、二人きりの時はただの元気っ子だが。


「あんないろいろな事ができたらそうなんだろうけど、妹からしたらお前のことなんの自慢にもならないんじゃねえの?」

「……ん」

 返す言葉もございません。


 ガラガラガラ


 扉をスライドさせて入ってきたのは妹の美海。

 そのままオレのテーブルまで来た。


「すみません、龍之介さん。毎度毎度兄がお世話になりまして」

「いやいやいや、そのお陰でこうして美人な美海さんと話すことができるのですから、むしろ感謝しています」

「妹は渡さない」

 リューと美海がいい雰囲気になってきたような気がしたので、横槍をいれる。

 ちょっといってみたかった台詞でもあるし。

 まあリューだったらいいけど、今はダメだ。


「兄さん、後で説教です」

「……え」

「そんな悲しそうな顔をしても無くなりはしませんよ」

「……」

 無表情なオレの心情を読むなんて、さすが自慢の妹。

 そんな妹を守ろうとしたのになぜ!?


「相変わらず、仲がいいですね」

 そのリューの言葉に美海は一瞬恥ずかしそうに顔をふせたが、気のせいだったかと思うぐらいに次に顔をあげたときには、なんともなかった。


「本当にありがとうございました。ではまた」

 美海はそのまま動かないオレをお姫様抱っこで持ち上げて、外に出た。


「星空が綺麗だね、お兄ちゃん」

「うん」

 この日の空には都会にも関わらず、満天の星空が広がっていた。

 しばらく人の邪魔にならないところで満足するまで眺めてから、美海はタクシーを呼んだ。


 タクシーが目の前で止まり、自動でドアがあく。

 オレ達はタクシーに乗り、そこでオレはようやくお姫様抱っこから解放された。


「ここから真っ直ぐに一キロ進んだところで下ろしてください」

 美海がそう言うとタクシーのドアが勝手に閉まり、運転手は無言のまま動き出す。


 美海がオレの耳元に顔を寄せて、

「返事ぐらいしてくれてもいいのにね」

 と囁いた。


 オレはそうだねと言おうとして、ちらりと運転座席を確認するとそこには誰も座っていなかった。

 とたん、オレの背中が凍りつく。


「美海、運転座席!」

 オレの珍しい焦り声になにか感じたのかバッと運転座席を見た美海は、そのまま顔を青褪めさせた。


「運転手がいない……。それにここどこ?」

「……分からない」

 タクシーから見る外の景色は虹色のワープ空間のようなものだった。


 それに気づいた瞬間、オレ達の意識は闇に落ちていった。













『ようこそ、虚構空間へ』

 そして次に目が覚めたとき、最初に見たのは白眼白髪の少女だった。





合コン行ったことないのに何でかいたんだろう?

しかも運転手がいないとか一種のホラーじゃないかと書いたあとに気がついた。


読んでくださりありがとうございます。

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