僕からキミへ、あたしからキミへ
「うわぁ、あったかい…」
「カイくん子どもみたい」
「ちょっ、ハルナ?」
「ごめんごめん、冗談冗談」
クスクス笑うハルナさんに笑い返す。
僕の首元には、綺麗な水色のマフラーが巻いてあった。
水色といっても、空のような水色ではない。
太陽をいっぱい浴びた、海のような水色だ。
「カイって名前、漢字は違うけど、海とも書けるでしょ?
だから、海のような色が良いなって」
「気に入ったよハルナ、本当にありがとう」
丁寧に編み込まれたことがわかる、手作りのマフラー。
クリスマスには早いけど、寒くなって来たこの時期には
この温かさが嬉しい。
「でもごめんハルナ。
僕ハルナにプレゼント持ってきてないよ」
「んー?
別にいらないよ。
カイが傍にいてくれたら、それだけで幸せっ」
「ハルナ…それ大胆すぎ」
一緒にクスクスと笑った。
ハルナが事故に合い、僕が倒れてから数週間経った。
ハルナは車椅子に乗って生活している。
僕も今は大事を取って入院し、今は一時退院を迎えている。
「でも安心した。ハルナが無事で」
「あたしもカイが無事で良かったよ。
一時期どうなるかと思ったんだからね」
僕の発作は、一時的だった。
だけど…また起きるかもって医者には言われて。
完治していないのだと改めて現実を知った。
「カイ!」
「ハルナ!」
「あっ、カネっち」
「リナー!久しぶりー」
学校にはお互い行けていないため、公園で話していると。
学校帰りらしいカネっちとリナさんのカップルがやってきた。
お互い色違いのブレスレットを腕につけている。
いつかそれが指輪に変わることを、ふたりは約束しているらしい。
「お前ら大丈夫なのか?」
「平気だよ。
もう暫く学校には行けないけど」
「ノートのことなら任せておけ。
俺が完璧なノートを見せてやるよ」
「期待してるよ、カネっち」
「期待しておけ、イマっち」
そしてふたりして同時に吹きだした。
「ハルナー!もう驚いたんだからねー?」
「ごめんね心配かけて。
暫く学校には行けないけど、ノートよろしくね」
「このリナ様に任せなさい」
自信満々なリナさんにハルナさんが笑う。
「本当、良いコンビだよね。
カネっちとリナさんって」
「だろー?
まっ、お前らふたりも負けてねーけどな?」
「ちょっとイマっち!
どうして私のこと、リナ“さん”なのよー。
良い加減、リナって呼びなさい?」
「あー…それは無理ですね、リナさん」
「どうしてよイマっち!」
「僕が呼び捨てに出来るのは、ハルナだけですから」
3人が一斉に、黙り込んだ。
そして沈黙を破ったのは、カネっちだった。
「あっちーねぇ。
羨ましい限りですよイマっち」
「だろ?カネっち」
「あーん!
私たちも負けないぐらいラブラブしよ?カネっち」
「任せとけリナ!」
「カイ…あたし、心臓持たない~」
「それじゃ」とカネっちとリナさんが公園を出て行く。
この後放課後デートするらしい。
本当、仲の良いカップルだ。
「……あっ」
カネっちとリナさんを見送っていると。
ハルナさんが手のひらを上に向け、笑った。
…本当、可愛らしくて、守ってあげたくなる笑顔だ。
「雪だよカイ」
「本当だ……」
「早めに病院戻ろう?
カイくん風邪引いちゃったらマズイでしょ?」
「そうだね。――その前に」
僕は車椅子に座るハルナさんと目線を合わせ。
その唇を自分ので塞いだ。
離して見ると、ハルナは真っ赤になっていた。
「その笑顔…僕がずっと、守っていくから」
「うん…。
傍に居てね、カイ」
僕はそっと、車椅子を病院へ向けて押し出す。
「最高のクリスマスプレゼントだよ、カイ」
「お返しだよ、ハルナ。
マフラー、本当にありがとう」
「ニャア~ン」
猫の鳴き声が、聞こえた。
「あっ!
チャーミィが迎えに来てる!」
「本当だ。
チャーミィ、一緒に行こうか」
「ニャア~」
ピョコンと膝の上に乗った、
灰色の毛が可愛い小さな仔猫。
首のついた鈴が、
チリンッ……と鳴った。
【END】