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第6章 ハルナside




「う…ん……」





目が覚めると真っ白な天井が真っ先に視界に広がった。


…ここ、どこ?





「ハルナ!大丈夫?」



「…お母さん……?」



「良かったわぁ目覚めて」



「あたし…どうして……」



「覚えてないの?


学校に行く途中の交差点で、仔猫が赤信号の時飛びだして。

それをハルナが庇ったのよ」



「あたしが…猫を?」





そういえばいた…小さな仔猫が。


灰色のちょっと薄汚い仔猫。


赤信号なのに飛び出して行って。


気が付けば一緒に飛び出していた。






「お母さん…仔猫は?」



「今動物病院にいるわ。

怪我はしているけど、命に別状はないって」



「良かったぁ……」






あの子守れたんだ。


すっごく小さな仔猫だったんだもん。


守れて良かった。





「お母さん仕事は?」



「休んできたわよ。

だってハルナが事故に合ったんですもの。

心配で仕事どころじゃないわ。


お父さんも来たがっていたけど、大事な会議だからって」



「そうなんだ…。

わざわざありがとうね」





ほっと息を吐いてハッとする。





「お母さん、鞄は?」



「鞄?」



「通学鞄。どこにある?」



「これでしょ?

点字ブロックの上に置いてあったそうよ」






そうだ。


中身は大事なものだから、

一旦点字ブロックの上に置いたんだ。


もしあたしと一緒に鞄まで事故に合ってしまったら、

カイくんへのプレゼントが台無しになってしまうかもしれない。


仔猫もそうだけど、プレゼントも守れて良かった。






「……ハルナ。落ち着いて聞いてね」



「お母さん……?」






お母さんは顔を伏せた。






「カイくんね…倒れたのよ」






お母さんの言ったことに、信じられなかった。


今日はエイプリルフールじゃないのに。


お母さんは嘘が嫌いな人だ。


――嘘じゃない?






「カイくんが……?」





震える声で聞き返すと、

お母さんは目を伏せたままチラリと右を見た。


あたしもゆっくり右を見た。






「…そん…な……」





あたしが横たわるベッドの右。


酸素マスクをつけたカイくんがいた。


あたしは痛む腕に顔をしかめながら起き上がる。






「ど…して……」



「主治医の先生から、

ハルナが事故に合ったこと聞いてね。


心臓の発作起こして…倒れたんですって」



「あたしのせい……?」



「いいえ、

ハルナのせいじゃないわ。


カイくんここ最近風邪引いていたんですって?」



「うん…昨日も早退した」



「風邪を引いていたせいで、

少し心臓に負担があったんですって。


今は意識不明らしいわ」






「起きるんだよ…ね?」



「カイくんのお母様に聞いたんだけど…本人次第らしいわ」



「そんなっ……!」






今すぐにでも駆け寄って声をかけたい。


だけど暫く安静にと医者から言われたみたいで、お母さんに止められた。


あたしはその場で涙を流した。






どうしてあたし、事故に合っちゃったんだろう。


どうしてカイくんが倒れないと、いけなかったんだろう。


泣きながらぐるぐると、そんなことばかり考えていた。






あたしは、お母さんが見守る傍で、床に足をつく。





「ハルナ!安静にしていなさいって言ったでしょう」



「やだっ!カイくん!カイくん!!」





足を再び骨折しているらしいあたしは、松葉杖を手に取った。


そしてほとんどの体重をかけ、立ち上がろうと試みる。




だけど、鈍い痛みが走り、ベッドに座った。


傍に寄ることも出来ないなんて。


怪我だからしょうがない?


…しょうがないで済まさないでよ。




しかも前回は片足骨折だったのに、今回は両足。


片方の足で立ち上がることは出来ない。







「やぁっ…!カイくん!!」






あたしは病院と言う場所を忘れ、泣き叫んだ。





「ハルナ!大人しくしていなさい、悪化するわよ!?」



「やだ!カイくんの近くにいたい!」



「隣のベッドでしょう、大人しくしてなさい!」



「傍にいたい、傍にいたい!」





お母さんの言葉なんて耳に入らなかった。


あたしは必死に立ち上がろうとした。


だけど痛みが邪魔をして立ち上がれない。


傍に行きたい気持ちはこんなにも強いのに…。






「きゃあ!ハルナ!!」





あたしはとうとう床に崩れ落ちた。


鈍い痛みが足だけでなく全身を襲う。


1歩踏み出せば近くに行ける近い距離なのに。


行けないもどかしさが憎くて悔しい。





「どうかされましたか?」





お母さんの悲鳴を聞いた医者がはいってくる。


その顔に見覚えがあった。





「先生……」



「ハルナちゃん、大人しくしていないと駄目だろう」





入ってきた先生は、


前回もあたしの先生だった人だった。





あたしは腕を伸ばして先生の白衣を掴んだ。






「先生!カイくんは――」



「カイくんは大丈夫だから。

さぁ、ハルナちゃんはベッドに戻るよ。


抱き上げるからね」



「やだっ!」



「ハルナちゃん?」





出された手を振り払う。


パンッと乾いた音がした。





「ハルナ!何しているの。

申し訳ありません、先生――」



「先生!

あたし、カイくんの傍に行きたい」



「もう十分傍だろう」



「もっと近くにいたい。

手を握っていたいよぉ…傍にいたいのぉ…!」





あたしはその場で泣きじゃくった。


言うことの聞かない足をペッタリ床につけ、わんわん泣いた。







「カイくんっ……!!」






大好き、大好き。


大好きだよ、カイくん――。





「……ハルナ…?」






病室に響いた、か細い声。


あたしは急いで松葉杖を使って少し体を起こす。





「カイくんっ……!」



「……良かった、無事で」





そっと手を伸ばしてくれる。


あたしも頑張って伸ばし、指先に触れた。





「カイくん…カイくん…うああんっ…!」



「ハルナを置いて…逝けないよ」



「逝くなら一緒に逝く」



「……怖いこと…言わないで…」






そっと人差し指だけ、絡め合う。


低い体温が、心地良い。


あたしはその場でもやっぱり泣いた。







「大好きだよ…カイ!」



「僕も好きだよ、ハルナ」






永遠の愛を、キミに誓う。


今――この場所で。







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