第5章 カイside
朝、目覚めてすぐに体温計で計ると。
36度と平熱に戻っていた。
「おはようカイ、熱はどう?」
「おはよう母さん、下がったよ」
リビングでお弁当を作っていた母に見せる。
母は満足そうに頷いて、リビングのテーブルを見た。
「じゃあ、朝ご飯食べて、学校に行きなさい」
「はいっ!」
といってもパジャマ姿なので、制服を取りに部屋へ戻った。
途中父とすれ違ったので挨拶をする。
「おはようカイ、早起きだな」
「おはよう父さん、そうかな?」
「やっぱり学校行くの楽しいか?」
「うんっ!
ハルナさんにも会えるからね」
「ハハッ、恋愛は素晴らしいな」
階段での立ち話を終え、部屋へ入る。
すると待っていたかのように机の上にあったスマホが鳴った。
画面を見ると、主治医の先生からだった。
…珍しい。
電話なんてかかったことないのに。
念のため番号は交換したけど、
滅多にかかってこなかった先生からの電話を不思議に思いながら、
僕は耳に当てた。
「もしもし?どうされました?」
『あぁカイくん――』
「……先生?」
『落ち着いて聞いてくれよな?』
「何です?」
『ハルナちゃんが、事故に合った――』
一瞬、何を言われたか理解出来なかった。
だけど耳元で名前を呼ばれて。
掠れた声で返事をした。
「ど…して……ですか…」
『道路に飛びだした仔猫を助けるためだったらしい。
今は意識不明の重体だ』
「生きて…ます…か……」
『生きてはいる。
だけど――非常に危険な状態だ』
僕はボトッとスマホを落とした。
――何か聞こえる。
担当医が何か言っているんだ。
でも…何も…何モ…聞コエナイ。
僕は機械のように動き、制服に着替えた。
何…何…何ガ、起キタノ。
ハルナサンガ、事故?
非常ニ危険ナ状態?
ドウイウコト?
コレハ――ユメ?
何ガ、ゲンジツ?
昨日のうちに準備しておいた鞄を背負う。
そして部屋を出た。
「カイ、ご飯食べちゃいなさい」
母が笑顔で言ってくる。
だけど僕は返事をしないで、ただ右から左へ流した。
「……カイ?どうかした?」
「カイ、どうした」
台所に立っている母と、
椅子に座って新聞を読む父。
変わりのない光景のはずなのに。
何でだろう?
僕だけ輪の外にいる気分なのは。
『カイくん!』
ふわり、と眩しい笑顔の彼女が、見エル。
だけど…ピシリ、とヒビがはいる。
パリン、と…割れた。
僕は鞄を落とした。
ドサッとリビングに響く。
「カイ?どうかしたの?具合悪いの?」
「どうしたカイ、返事しろ」
聞コエナイ。
何モ、聞コエナイ。
「……っ」
「カイ!カイどうしたの!」
「おいカイ!返事しろ!」
突然、締め付けられたように心臓が痛んだ。
ドクドクと、不規則に動く。
立っていれられなくなって――その場に倒れた。
「救急車だ!早く!!」
「しっかりして、カイ!!」
嫌だ。
死にたくない。
あの部屋に戻るのはごめんだ。
彼女と一緒に――生きたい。
生きて、いたい。