第3章 カイside
朝は楽だったのに、
1時間目が始まってすぐ、
体に何だかだるさを感じて。
熱計ったら38度5分で。
だからこんなに熱いのかと納得していると。
「早退した方が良いわ」
職員室にいたという保健室の先生からそう言われた。
熱も下がりそうになかったので、お言葉に甘えることにした。
「じゃあお大事にねカイくん」
「ありがとうございましたハルナさん。
ハルナさんも風邪にはお気を付けて」
「うんっ」
鞄を教室まで取りに行ってくれたハルナさんと別れ、
僕は家までの道を歩き始めた。
「ただいまー」
「あーらカイ、どうしたの。
今は学校の時間でしょう?」
「熱出して早退してきた」
「あら!
なら電話してくれたら迎えに行ったのに」
「別に良いよ、帰れる距離だから」
家でパソコン作業の仕事をしている母が、
急いで毛布だの冷えピタだの持ってきてくれた。
母は僕が入院している時、
父と同じ営業の仕事をしていたけど、
僕が学校に通えるようになってからは、
こうして家での仕事に転職した。
まぁ家にいる方が何かあった時良いけど。
部屋に入ってベッドに寝転がる。
再び体温計を母に渡されたので計ると。
「39度2分…上がってるわね」
「ごめんっ……」
「謝ることないわよ。
カイは一旦熱出ると上がるんだから。
解熱剤飲む?」
「うん……」
「じゃあ用意してくるわね」
母が取ってきた解熱剤を飲み、
「ふう」と溜息をついた。
折角退院出来て学校に行けるようになっても。
1ヶ月に1回ほどこうして休むことがある。
亡くなった祖母譲りの体質だって言われているけど…。
もっと健康になりたいだなんて、難しいのかな…。
暫くボーッとした頭で天井を見上げていると。
「カイー?起きてる?」
「起きてる……」
「ハルナちゃん来ているわよ?」
「え?」
近くに置いてあったスマホで時間を確認すると、
もう午後5時。
学校はとっくに終わっている時間になっていた。
…随分時間が経ったんだなぁ。
「どうする?
具合悪かったら帰るって言っているんだけど」
「平気…通してくれる?」
「わかったわ。
…カイにとってハルナちゃんが1番の薬だものね」
母は嬉しそうに笑うと部屋を出て行った。
1番の薬って…大げさなんだから。
まぁ嬉しいし…本当のことなんだろうけど。
両方の親公認で僕たちは付き合っている。
ハルナさんの両親はハルナさんに似て笑顔が素敵で。
僕との付き合いを快く許してくれた。
今ではお互いの父親同士母親同士が
子どもに内緒で食事に行くまで仲が発展している。
反対されなくて良かったな…。
「カイくーん。平気?」
入ってきたハルナさんは、
手に駅近くのショッピングモールの袋をぶら下げていた。
「うん…。わざわざありがとうございます」
「気にしないで!
本当はカネっちも来たがっていたんだけど、
部活があるからって」
「野球部だもんね」
「エースがいなくちゃ皆が大変だって」
「万年補欠の間違いじゃない?」
「アハハッ、カイくん地味に酷いね!」
太陽のようにパッと笑ったハルナさんは、
「そうだ」と鞄の中を漁り始めた。
「これあげる!」
「…これは?」
「今日の調理実習で作ったカップケーキ。
食べれなかったでしょ?」
「ありがとうございます!」
僕は透明な袋に真っ赤なリボンでで器用にラッピングされたカップケーキを取り出す。
「食べられる?また今度でも良いよ?」
「いえ。
ハルナさんが折角作ってきてくれたものです。
食べないと勿体ないです。
いただきます」
僕はカップケーキを一口食べた。
「……クスッ」
「え?
カイくんどうしたの?笑ったりなんてして」
「ハルナさんって」
「うん」
「料理下手なのですね」
「……ごめんなさい」
「いえいえ、気にしないでください。
そんな所も可愛いと僕は思えますから。
喜んで全部いただきますよ」
「良いよ悪いから…食べなくて良いよ?」
「ハルナさん。
味の良し悪しは関係ないのです。
ハルナさんが僕にくれた。
その結果が嬉しいのですよ」
ぱくり、と大して美味しくないカップケーキを食べる。
美味しくはないけど、ハルナさんの優しさが嬉しい。
「ありがとうございます、ハルナさん」
「カイくん…ありがとう」
「……やっぱりあなたには、笑っていてほしいものですね」
ハルナさんは、花が咲くように綺麗に笑う。
それはとても美しい。
あなたの傍にいられること。
それがとても幸せなことだと、僕は日々噛みしめている。