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第八話 他称勇者の苦悩と魔王の憎悪

やっぱり、今回も短いです。

すみません。

漆黒の闇。

そこに、今僕はいる。

深い深い闇の中に。

目を瞑るといつもその情景が目に映る。

深い深い悲しみの色が。

それは、この生活が始まってから、少しずつ大きくなって着ている。

一人だったころは違った。

黒く染まることは確かにいやだったけど、復讐をなすためにはそれが必要だったから、割り切れたし、むしろ楽だった。

たくさんの魔族を殺した。

時には同士のはずの人間も殺した。

そうしないと生き残れないから。

僕は殺し続けた。

だから、黒く染まっていたほうが楽だったし、それがゆえに、目を瞑った先が真っ暗でもかまわなかった。

それこそが、僕にはお似合いだったから。

家族と恋人を失って独りになった僕にはそれがぴったりだったから。

復讐鬼として、修羅となった以上、もう僕には未来がないことなんてわかっていたから。

全てを終わらせたら、自害する気だったから。

だから、それでよかった。

でも、今は違う。

今も、死ぬことは怖くない。

これだけ手を汚しておいて、自分だけのうのうと生き残って、平穏無事に暮らしていこうという気持ちなんてない。

だけど、それでも時々辛くなる。

未来のあるアリスを見ると。

彼女には未来がある。

魔王の娘としての責務もあるけれど、それでも未来がある。

彼女が選ぶことの出来る億戦の選択肢の向こうにはたくさんの未来がある。

クリスも同じ。

少しずつ、彼女も自分の道を、進むべき道を見出しつつある。

まだ、それはぼんやりとしているもので、実態はつかめていないだろう。

だけど、それでも、やがて答えにたどり着くだろう。

そして、その道を歩き出す。

未来のある二人。

だけど、僕にはない。

許されない。

咎人に未来なんてあるはずがない。

あるとするならば、それは終焉だけ。

死のみ。

暗き深い深い闇の中に帰ることしか許されない。

だけど、それでも、今はまだ……

「死ねないんだよな」

剣をそっと出して、構える。

そう、僕はまだ死ねない。

いつかは、死なないといけない。

その期限は明確じゃない。

だけど、いつかやってくる。

彼女たちが僕の元を巣立つとき。

そのときが、僕の終わりの時。

僕が深い闇に帰るとき。

それは、抗えないことで、抗うつもりもないこと。

でも、そのときが来るまでは、死ねない。

だから、抗う。

僕を殺そうとするものに抗う。

「暗き闇の中で眠れ」

ぽつりとつぶやく言葉。

それは、魔法の言葉。

詠唱のようで詠唱ではない言葉。

『滅衝斬』

暗き闇の斬撃を放つための言葉。

なくてもかまわない。

だけど、威力を込めるためにはその言葉をつむぐのが一番。

それに何より、僕自身がその言葉を気に入っている。

何も言わずに使うよりも、少しは格好よく見えるし、何より……

残っている相手に対するプレッシャーにもなるし。

「さて、次に死にたい人は誰ですか?」

そっと周りを見回す。

気配の数は割りと多い。

人一人を殺すために集めてきた人数にしては、むしろ多すぎるだろう。

だけど、僕を殺すための人数にしてはあまりにも少なすぎる。

僕の力を過小評価しているのか、それとも、彼らの力を過大評価しているのか、それとは別に何か策でもあるのか。

それはわからないが、やることはひとつ。

すっと前に出てくる黒装束の人間を切り捨てる。

以前のように血液自体に呪いをかけている可能性もあるから、返り血は絶対に浴びないようにする。

まあ、普通に戦っていれば、返り血なんて浴びやしないが。

「その、程度で!!」

さらに、背後に回ってきた二人を切り捨てる。

敵の背後を取るのは定石。

とったら、確実に優位に立てる。

だけど、力量に差がありすぎれば、それも無意味。

反応できれば、結局背後かそうじゃないかなんて関係ない。

特に彼らと僕ほどの力の差があれば、なお更だ。

意味などありやしない。

「無駄なことだとわかっているだろうに、それでもくるのだな」

それは、単調な作業。

向かってくる相手をただ切り捨てるだけの作業。

こんなことをしたところで、僕にとっても、彼らにとっても意味はない。

ただ、僕は相手を殺すだけ。

彼らは、ただ死ぬだけ。

なんの意味もない。

ただただ無駄なこと。

「後は、残るのは君一人だけど、どうする?」

そして、最後の一人。

地に転がる無数の死体。

ざっと40人強と言ったところだろう。

白銀の甲冑を着ている人間もいるところからすると、軍部でも十分力のある騎士もいたんだろうが、やはり化け物相手では無意味と言ったところだろう。

最低でも僕に手傷を負わせるんだったら、一個中隊ぐらいはつれてこないと。

この程度なら、肩慣らしにもなりやしない。

「聞く耳持たず、か」

こっそりと隠れるようにして木の陰にいたものは、そのまま呪文の詠唱を始めた。

彼もまた、死に急ぐつもりらしい。

なら、さっさと終わらせてやろう。

ひとっ跳びで間合いを詰める。

それと同時に相手の詠唱も終わるが、発動はしない。

発動するよりも僕の剣の方が早かった。

あっさりと首が吹き飛び、無様にその場に倒れこむ。

これで終わり。

空しさだけが残る虐殺の終わり。

けれど、不意にいやなにおいを感じた。

実際には何の匂いもしないのだけれども、勘とも言える感覚が体に襲う。

反射的にその場から飛びのき、さらに結界をまとう。

それとほぼ同じタイミング。

ほんの少しだけ遅れて、爆ぜた。

無様に倒れこんだ死体が。

無残に地に転がっている無数の死体が。

次々と爆ぜ、血の雨を降らせる。

血が降った所は次々と黒く染まってゆく。

それは、やはり呪い。

また、同じ呪い。

けれど、今回は以前に比べ物にならないほど卑劣な呪い。

捨て駒をこれだけ集めての、全ての人間を最初から死なせること前提の呪い。

吐き気がした。

ここまで、するとは思わなかった。

ここまでして、僕を殺そうとするとは思わなかった。

こんな卑劣な手段を使ってまで殺そうとするなんて思わなかった。

「クリスがいやになったのがよくわかる」

どこまでも薄汚れた世界。

自分たち以外の人間は人間とは勘定していないのだろう。

ただの駒としか考えていない。

何の情も持たず、ただごみのように扱う。

それは、決してかつて僕が敵対していたものとなんら変わらない。

結局、力の大小の問題があったたけで、根本的なものは変わらない。

どちらであっても、まともなものもいれば、くずみたいなものもいる。

そういうことだったのだろう。

爆発が終わったのを確認すると、場を清める。

呪いの力は割りとひどいから、完全に回復するには多少時間がかかるだろうが、地脈をいじれば、それもすぐによくなるだろう。

本当に、自分の領内でやらずによかった。

もし、そこでやってたら、どうしても後が残る以上、余計な心配をさせかねない。

早めに対処しておいて本当によかった。

僕は、その場を後にした。


「アリス、貴女、何を見ているのかしら?」

「貴女には関係ありません」

深い深い漆黒の闇の中、ようやく目を覚ましたクリスがそういってくるが、ぴしゃりと切り捨てる。

今、気にするべきことは、こんな女じゃない。

むしろ、こんな状況にさせてしまった女のことなんて、憎む以外できやしない。

今、この家にはルイさんはいない。

そして、領外から感じたかすかな戦闘の気配。

それが明かすのは、簡単なこと。

また、ルイさんが戦っているのだ。

そして、その原因は今ようやく起きてきた女。

クリスのせい。

彼女が来てからは、よくルイさんは夜に外に出る。

そして、たくさんの人を殺してくる。

深い深い悲しみをその瞳たたえて、深い深い絶望をその心に刻み付けて。

だけど、それに私は何も言えないでいる。

それを知られたくないから。

かたくなにそれを隠そうとしているから。

だから、私は聞けないでいる。

だから、私は結局馬鹿な子を演じるしかない。

本当は、ルイさんの地獄のような特訓を切望しているのに、ただの女の子みたいに、それを嫌がるふりをする。

彼の近くにいたいのに、彼の足手まといにならないようにしたいのに、それをしたがらないように振舞う。

おろかな役者。

それもこれも、やはりこの女のせい。

戦闘の気配が消えた。

どうやら、終わったみたいだ。

「私は寝ます。貴女もさっさと寝たほうがいいですよ。おやすみなさい」

すぐに、ルイさんが帰ってくるだろう。

となると、私が起きているのはまずい。

また、余計な気苦労をかけかねない。

状況のわかっていない彼女をほうって、私は自分の部屋に戻ると布団の中にもぐりこんだ。


どんどん短くなっていきます。

そして、どんどんメインが壊れていきます。

どんどん汚くなっていきます。

怖いです。

でも、そこが好きです。

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