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第六話 他称勇者と暗い事後処理

ホントにえらく時間が掛かってしまいましたね。

しかも、また恐ろしく暗い。

いや、まぁ、すんません。

「カリスム様、どうか状況を考えてください」

「考えているさ、考えているからこそ、頷けない、そういうことだ」

目の前にいる男に笑いながら答える。

そう、僕は状況をしっかりと把握している。

しているからこそ、頷けないのだ。

ここは、僕が住んでいる小屋の麓にある街からまた少しだけ都の方に進んだところにあるやや開けた街。

僕は、情報屋に頼んで、この場所に目の前に居る彼を呼んだ。

まぁ、彼が僕の小屋にまで足を運ぼうとしているから、ここでの会談にした、というのが正しいところなんだが。

「何故、状況がお分かりになっていて殿下をお隠しになるのですか?今、我が国に、殿下は必要なのです」

「まぁ、そうだろうな、供物ぐらいの価値しかないだろうが、それでも必要だろうな貴国においては」

「カリスム様、どうか曲解しないでください。確かに、貴方方から見れば、人身御供にしか見えないのかもしれませんが、殿下も王家の人間として生きてきたのです。いえ、生かされてきたのです。だからこそ、王家の責務から逃げる事は許されないのです」

そんなの知っている。

僕が彼女に言った事だ。

逃げるな、と。

向き合え、と。

だけど、それとこれとは別の話。

僕は自分勝手だから。

救いたいと思ったものは救う。

例え、それが間違ったことだとしても。

「話がそれだけなら帰ってもらおうか?これでも、僕は忙しいんでね。僕の薬を待っている人がいる」

「……もし、貴方が頷いていただけなければ、貴方の作った薬を売買禁止にさせて戴きます」

「売買禁止、ね?薬の質にはなんら問題もないのに、か?」

「売買法に問題があります。貴方があまりにも高品質で安価の薬を供給するため、市場が崩壊しかけています。このままでは、他の薬師が職を失いかねません」

「まぁ、道理としては分かるが、それで助かる命が助からなくなるのではないか?安いから買える人間がいくらでもいる。特に富裕階級以外の人達には、僕以外の薬は買えない」

確かに、道理は通る。

だが、そのせいで、助かる命も助からない。

そもそも、薬師の作る薬は高すぎる。

もちろん、全ての薬が高いわけではない、比較的軽度の病用の薬は安価ではあるが、重病の薬は恐ろしく高い。

使われる材料が希少品であるのもそうだが、何より命よりも高い物はない、なんていう足元を見た料金設定のせいだからである。

おかげで、富裕層以外は買えない。

元々、富裕層向けに作られたものである上に、それ以下の人間には生きる価値などないと考えているからである。

商売相手にならない人間は切り捨てる、薬師にはそういう考えがある。

だから、高位の薬師の全てが豪邸に住んでいるものだ。

金の亡者の証として。

「その方々には申し訳ないが諦めてもらいます。殿下を取り戻すためなら犠牲も仕方ありません」

「彼女を取り返すために何の罪もない彼らを犠牲にし、取り返したら彼女を犠牲にし戦争をしかけ、そして、また彼らを犠牲にする。他人の命を賭して賭けをする。なんとも浅ましいものだな」

「それこそ曲解です。我ら貴族が居なければ彼らは生きられない。そして、我らは彼らの住み良い世界を作るために戦うんです。だからこそ、彼らもまた命を賭してもらっているわけです」

「欺瞞だな。彼らは貴族なんていなくても生きていける。必要なのは最低限の監視者だ」

彼らは生きていける。

むしろ、逆に貴族が彼らによって生かされている。

そして、彼らが貴族に求めている物は監視者としての在り方。

悪から守ってもらうための監視者であり守護者。

彼らは貴族にそれを求め、生かしていた。

けれど、その関係が変質した。

変質し、今の関係となっているだけなのである。

「どうやら、貴方とはどうやっても話は平行線のようですね。不本意ですが、薬師としての貴方には死んでもらいます」

「それなら、僕は構わない。代わりに国が滅びるだけだ」

「どういう意味ですか?」

「簡単な話だ。僕が守ってきた、守ろうとしている命を奪おうとするんだ、それに抗わないわけがない」

正義を振りかざすつもりはやはり毛頭ない。

僕はどこまでも弱く愚かな人間なのだ。

だから、僕の出来る事を、僕が守ろうとしているものを奪うのなら、抗うだけだ。

僕の仕事を奪うのなら、抗うだけなのだ。

その結果として、たくさんの人の身を危険に晒そうと、それこそが悪だったとしても、それでも、抗う。

「脅すおつもりですか?」

「脅しも何もない。ただ、起こるであろう未来を話しているだけです」

「それが脅しだと言うのです。そういえば、私達は抗えないと思っているのでしょう?」

「まさか、最終手段が残っている。この僕を殺すこと。まさか、それが出来ないなどと思っているわけでもないでしょう?」

世界は僕を望むと同時に疎んでいる。

味方となれば心強く、敵となれば厄介極まりない。

それが僕。

だからこそ、世界は強く望みながらも疎む。

そうして、疎んでいるからこそ、考えるはずである。

仲間でないとき、敵となったとき、そのときどうやって殺すのか、それを。

「その証の武装だろう?この場で、交渉が決裂した場合の最終手段として、な?」

腰にかけられている剣と、兜を脱いでいるとはいえ、全身にくまなく装着されている防具、戦闘を考慮しているものと考えるのが正しい。

例え、盗賊や獣などの襲撃の事を考えていたとしても、あまりにも仰々しい過ぎる。

装備している剣も防具も全て超一級のエンチャントが施されている。

たかだかその程度の相手に、そんなものを装備するわけがない。

それこそ、おそろしく強い、今はなりを潜めている魔族かそれと同等の相手との戦闘を考えていなければ装備しない。

「ばれてしまっていては仕方がありません。確かに、私と貴方では地力は違い過ぎる。まともに戦えば百回やっても百回とも負けるでしょう。ですが、貴方は人間。どんなに鍛えても人間に過ぎない。なら、そこに隙があり、そこを突けば自ずと戦い方は見えてくる」

「まぁ、間違いではないな」

なかなか賢い。

確かに、普通に戦えば、僕に勝てる人間はまずいない。

正面から魔王とぶつかって闘い、勝利を手にしたのだ、それを今までしてきて全く歯が立たなかった他の人間では勝てない。

それはどうやっても変わらない、変えられない事実。

だが、それは勝てない事の証ではない。

何にだって弱点はある。

そして、僕には、僕が人間であると言う事。

どんなに身体を鍛えて、魔法を鍛えたとしても、人間である事は変わらない。

寿命が来れば死ぬし、腕や足を失ったら二度と生えて来る事はないし、首を跳ね飛ばされたり、心臓を一突きされたら死ぬ。

それは、他の人間とは何一つ変わらない。

「だからこその勝機、掴ませていただきます。でやぁぁぁぁ!!」

彼は躊躇なく踏み込み、跳躍する。

それは、決して特別早いものではない。

僕や魔王レベルには及ぶわけもなく、軽々と屠ってきた魔族レベルでもない。

騎士としては早い部類に入るだろうが、それは決して人並み外れた物ではない。

「それをバカ正直に受けると思うかい?」

けれど、僕はバックステップで後方に下がる事でそれを回避する。

彼が僕の弱点を知り、そしてその弱点を突こうとしている事は分かっている。

しかし、それはあくまでも、結果の事であって手段ではない。

どのような手段なのかは分からない。

何も分からない状態で、素直に相手は出来ない。

『我が手に蘇れ悪しき魔の剣よ・イビルソード』

そして、それと同時に、僕を殺そうとする人間は潰す。

聖人君子でもなければ、なんでもない、愚かな弱い人間。

自分の命を捨てる事なんて出来ない。

たくさんの命を奪ったからと言って、捨てる気はない。

守るために使い、その果てに死を願う。

呼び出した闇の剣は空中をさまよう。

術者の命令を待つために。

「何を狙うか知らないが、僕は手を抜かない。切り刻め」

相手の手の内が分からないなら、遠距離攻撃しかない。

けれど、通常の遠距離魔法ではどんなに威力を絞っても、周囲に対する被害が出てしまう。

そのための闇の剣。

操作系の魔術ならば、距離を取りつつ、被害を抑えての攻撃が出来る。

闇の剣が彼に襲いかかる。

「甘いですよ」

けれど、それは彼に届かない。

纏った防具に飲み込まれていく。

「光属性のエンチャントか」

「ええ、そうです。貴方が得意とするのは闇の魔法。その他の系統も使えますが、細かい威力配分は出来ない。よって、このような場面では、貴方は闇の魔法しか使えませんし、威力を抑えた魔法であれば、光属性のエンチャントをしておけば、防ぐ事は難しくありません」

よく調べたものだ。

確かに、僕はあらゆる系統の魔法を使うことが出来るが、大雑把なものならまだしも、細かい調整は闇属性しか出来ない。

復讐に取り付かれ、暗き闇に堕ちた僕は、力の全てが闇色に染まってしまっていた。

だからこそこの奇策とも言える策が功を為す。

これで、確かに僕は魔法と言うものを抑えられた。

「そして、貴方はまだ私がどんな手段を使って貴方を倒すかを知らない。だから、接近戦は出来ない。けれど、私は出来る」

そして、それと同時に、既に接近戦という手段も奪われている。

「チェックメイトです」

そして、彼はまた、跳躍する。

接近戦も魔法による遠距離攻撃も封じられた僕には攻撃手段はない。

追い詰められた。

ならば、破れかぶれで接近戦をやってみるのも一興だろう。

もしかするとただの虚勢の可能性で、実際は何も考えていない可能性だってある。

ならば、その可能性に賭けてみるのもいいだろう。

多少危ない賭けであるかもしれないが、それでも試して見る価値はあるだろう。

もし、本当に僕が追い詰められているのならば。

「チェックメイトにはまだ早い。後一手必要だよ」

世界が途端に歪む。

確かに、彼に対する魔法は封じられた。

けれど、それが全ての魔法が封じられたという事になるのでははない。

僕はいくつかの魔法を持っているが、全ての魔法が攻撃魔法と言うわけではない。

回復魔法であったり、補助魔法だってあるし、移動魔法だってある。

攻撃魔法を封じたからと言って、全ての魔法を封じたと思うのは短絡過ぎる。

『我が世界に誘え・アナザーワールド』

歪んだ世界は一つの穴に飲み込まれて行く。

僕と彼と共に。

僕の世界に、僕が自由に戦うための世界に。

「これで、僕がチェックメイト、だね?」

この世界では、僕と彼しかいない。

僕が『アナザーワールド』と呼んでいるこの世界は、普段僕達が住んでいる世界、空間の歪みから出来ている世界であり、本来は閉じ切っているために入る事は出来ないが、極稀に、ある法則にしたがって、条件が満たされた場合、その閉じた空間が開き、傍にいる人間をその世界に飲み込む。

そして、そこに飲み込まれた人間は、まず帰ってこれない。

自分自身で、その空間を開くことが出来れば帰る事は出来るが、普通の人間にはそんな事はまず不可能である。

だから、その穴が出来るのを待たなければいけないが、穴が開く周期は長ければ何年もかかる場合があり、何ない空間でそんなに長い間生きていけるわけもなければ、その開いた穴が運良く目の前に出てくるとは限らない。

この空間は恐ろしく広く、おそらく僕達が住んでいる世界よりもずっとずっと広い。

そんな広い空間で目の前に穴が出来るのなんて、まずありえない。

「恐ろしいかただ。まさか、こんな魔法まで使えるとは。幻術ですか?」

「いや、簡単に言えば移動魔法ですね。これの本来の使い方は、この空間を仲立ちにして、遠距離を移動するために作った魔法ですから」

「そうですか。ですが、確かにこれで、私の優位性はなくなりました。ここでなら、貴方は自由に魔法が使える。そうなれば、私には勝ち目はない。お手上げです」

「諦めが早くて助かる。ここで抗われれば、僕は殺さなくてはいけなくなる。だけど、出来るならそんな事はしたくないからね」

口でそうは言うが、構えは解かない。

彼がまだ何かを狙っている可能性だってある。

だけど、ここで全てが終わる事を願う。

戦うと決めた時は揺ぎ無いが、それでもやはり出来るだけ殺したくはない。

助かる命をわざわざ好き好んで奪いたくない。

「君を王都へと送るよ」

「ああ、良かった。このままここに残されるのかと思いましたよ」

「そんな事はしないさ。それじゃあ、もう二度と会わない事を願うよ」

彼の足元に道を開く。

王都へと繋がる道。

そして、僕の足元には、先ほど居た場所に繋がる道。

それぞれの道がそれぞれの場所へと導く。

導き、そして、僕は……

「御命戴きます!!」

「甘いよ」

影でずっと息を潜めていた騎士の首を飛ばす。

恐らく僕の隙をうかがっていたのだろう。

そして、『アナザーワールド』から戻ってきた僕は、確かに隙だらけだった。

だから、彼も狙ったのだろう。

だけど、そんなことぐらい予測していた。

気配を読む事なんて、日常茶飯事の事なんだから。

首を引き飛ばされた騎士は、声にもならない悲鳴を上げ、首は転げ落ち、身体は崩れ落ちる。

吹き出て止まらない血は、床を赤く濡らし、そして侵食して行く。

「呪い、ね。自分の血を呪いの媒体にして、それに触れたらその呪いに侵食される。捨て身の攻撃か。確かにこれなら僕には接近戦は出来ないし、呪いを受ければ、僕はあっさり死ぬだろう。その血を浴びれば」

そう、確かに浴びれば、僕はその呪いを受け、あっさり死んでしまうだろう。

だけど、僕の服には血の染みは一つとしてない。

血に毒をもつ魔族が居た以来、僕は返り血は何があってもあびないようにしていたし、何より、返り血を浴びて喜ぶ趣味なんてない。

そもそも、斬った瞬間に血が噴出す事はなく、絶対にワンテンポ遅れて出血する。

そのワンテンポの間に離れれば、返り血を浴びる事はまずない。

例え、離れられなかったとしても、風の結界で吹き飛ばせばすむことだ、

そんなものに触れるわけがない。

「本当に、また、会わない事を願うよ」

死体と血だまりと呪いに侵食された床を消滅させると、僕はその場を去った。


「ルイ・フェリルの妻のクリスです、これからどうぞよろしくお願いします」

「へー、べっぴんな奥さんだな」

「ありがとうございます」

帰ってくると、いつの間にか僕の妻となっているクリスと喫茶店のウェイターが仲良く話していた。

帰って来たら、アリスとクリスがどこにもいないから、どうしたものかと思ったら、買出しついでに麓でお茶をしていたらしい。

なんとも平和な話だ。

「はいはい、勝手に捏造しないこと、小間使い如きが戯言言わないの。そして、お前も真に受けない」

平和すぎて、笑えて来る。

やっぱり、僕はこっちの方がいい。

あんな血生臭くて、心が砕けてしまうような事はしたくない。

静かに暮したい。

こんなくだらないボケにツッコミを入れているような生活が。



とりあえず、ここから先は、多少は明るく鳴ってくれると思います。

てか、思いたいです。

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