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第五話 勇者と元女王候補と新居

珍しく、早い更新です。

まぁ、これは、第三話を書いてる時点で考えていたんで、書きやすかったんですけどね。

なので、次回以降はやっぱり全く構成がないんで、時間はすっごく掛かるでしょうが。

とりあえず、いきなり出てきますが、あしからず。

「とりあえず、王宮追い出されたから、責任取って面倒みてくれないかしら?」

いつものごとく、アリスに虐待とも取れる猛特訓をして帰ると、当然のように小屋の中のリビングを陣取っていた某国の殿下はそう言った。

それから、ちょうど一週間後。

ついに、僕達の新居は完成した。

僕とアリスと、そして……

クリストテレスが住む、新しい家。

クリストテレスとは、殿下の名前で、長いのでクリスと略してる。

で、その彼女の話では、無断で国の近衛兵を連れて城外に出て、勇者と会談したくせに、あっさりと負けて、ずこずこと引き下がったため、王宮での居場所がなくなり、挙句には王位継承権争奪レースからは外され、というか継承権を剥奪されたため、仕方なく王宮を後にしたらしい。

「まあ、私が住むには、ちょっとおんぼろだけど、この際仕方ないか」

で、いろいろあったけれど、まあ、とりあえず、そろそろ家も手狭だから改築したいと思ったところで、彼女が王庫から金を盗んできたから、渡りに舟な感じだし、そもそも彼女自体は、割とおもしろそうだとも思ったから、しばらく様子見として受け入れたんだけど……

「これだから、成り上がりの人間と言う物は。生活する上での機能を最優先するのが一番です。だいたい、私達は目立ってはいけないんですよ?どこかの誰かさんのせいで」

何故だか、すこぶるアリスと仲が悪い。

というよりも、アリスがクリスを眼の敵にしている。

何か言うたびに噛み付くのだ。

まぁ、とはいえ、言っている事はいちいち正しいのだけれども。

アリスの言うとおり、クリスは王位継承権を剥奪はされたが、それでも一応王族であることには変わりない。

というわけで、他国に輿入れの話があり、実際それは進行していた。

けれど、突然の彼女の蒸発。

問題にならないわけがない。

というわけで、秘密裏に国をあげた大捜索戦が行われている。

おかげで、尚いっそう僕達は、身を隠さないといけない、というわけなのだ。

「それは、悪かったと思ってるわよ。だから、こうして、新居を建てるお金は私が全部出したんでしょう?」

「当然です、私もルイさんも今までどおりで良かったのに、狭い家は嫌だと我侭を言って改築しようと言い出したのは、貴女なんですから」

「あら、でも、さすがに、あの小さなベッドに三人は寝れないでしょう?」

「貴女は、適当に床で寝てればいいんです」

「随分ひどい扱いねぇ?」

「迷惑も考えずに押しかけてきた貴方が悪いんです!!」

それが原因なのか、はたまたそれとはまた別なのかは知らないが、アリスの機嫌は日に日に悪くなっていっている。

それに、合わせて僕にべったりな度合いも大きくなっていってるし。

四六時中僕にくっついてはなれない。

基本的に、僕はこの小屋にいるため、彼女とはなれる事はまずないから、それはそれで四六時中くっついているとも言えるんだけど、それとはまた別で、距離が近くなったのだ。

まるで、肉食動物から我が子を守る母親のようにべったりなのだ。

心配しなくても、自分の身ぐらい自分で守れるというのに。

「はいはい、喧嘩はそれぐらいにしようか。とりあえず、クリスの居候は僕が了承したんだから、許してあげて?小間使いよろしく使ってやればいいわけだし」

「う〜」

とはいえ、いつまでも喧嘩をさせて置くわけにもいかないので、仲裁に入る。

まぁ、不服そうなアリスはうなっているけれど。

本当に、彼女の事が嫌いなんだろう。

「ルイもたいがい性格悪いわよねぇ」

「居候なんだから当然でしょう?そもそも、君がこんなところに来たせいで余計な物までくっついてきたわけだし、自業自得。嫌なら出てってもらって構わないから」

クリスからも文句が出てきたけど、それもにっこり笑って一刀両断。

喧嘩両成敗。

そういうことだ。

「じゃぁ、そろそろ訓練に行こうか?楽しい楽しい特訓の時間だ」

「うっ」

アリスの顔が歪む。

「そういうわけで、それに僕は付いていくから、クリスは留守番しつつ、掃除と洗濯と晩御飯の準備、よろしくね?」

「うっ」

今度はクリスの顔が歪む。

「二人とも頑張ろうね?」

そして、変わらず笑顔の僕でした。


アリスの訓練が終え、なんとも味付けが微妙なクリスの晩御飯を食べた後、僕らは出来たての新居でくつろいでいた。

とりあえず、アリスは、今日一日の疲れを癒すために、バスタイム中。

まぁ、改築と言うか、ほとんど新築と変わらない新居は、クリスの我侭と言うか贅沢とも取れる発言でお風呂はかなり大きくなっているため、リラックスするにはちょうど良く、僕自身長湯を勧めておいたから、しばらくは戻って来ない。

今、リビングには僕とクリスの二人きり。

「で、どうして、ここに来た?本当のことを教えてもらえないか?」

だからこそ、腹を割って話せる。

今まで、タイミングを計ってきたが、どうにもうまく合わなかった。

「私としては、貴方を利用させてもらったのよ」

浮かぶ妖艶な表情。

彼女はその問いかけにあっさりと答えた。

「今の国の情勢は言ったわよね?適当な理由をでっち上げて戦争へ参加。それは、もう決定事項で、どうやっても覆せない。おかげで、半ば決まっていた私の王位継承もお流れ。どうやっても、再びの戦火は免れない」

そういう彼女の瞳は悲哀に満ちていた。

どこまでも深い悲しみに満ちていた。

「私も貴方と同意見なのよ。戦争なんてしたくないのよ。あんな事したって国は少しも豊かにならない。それどころから、どんどん衰えていく。そんな事をして、いったい何の意味があるの?国防ならいざ知らず、好き好んで戦争を仕掛けるなんて、考えられないわ」

確かに戦勝国になれば、多額の賠償金と領土を手にする。

それによってみかけだけなら、国は肥えていく。

けれど、中身は違う。

失った人的被害と、荒れ果てる大地。

戦場となった場所は、まず間違いなく荒れる。

それを再度元通りに戻すのは、壊すよりももっと手間が掛かる。

そんなに戦争なんて物は儲けるものじゃない。

それは、ただの欲の暴走と虚栄心を満たすため。

くだらない貴族達の思惑。

「でも、止められない。だから、最初は貴方を手に入れようと思った。貴方を引き抜く事で、私自身の力強化で、議会を牛耳る。そうすれば、戦争を回避できる」

確かに僕と言う存在がいれば、多少の抑止力は得られるだろう。

表を切って僕という兵器を持つ彼女に逆らう事は出来ない。

けれど、それは決して良策とは言えない。

むしろ、愚策。

「だけど、すぐに断念したわ。そんな事したら、内部に大きな抵抗勢力を作る事になり、やがては国の内部が混乱するでしょうね」

そうなれば、国は別れる。

彼女を主とする戦争回避派と議会の戦争推進派と別れて、大混乱になり、下手したら内紛になりかねない。

そうなってしまえば、その隙をつけいられ、侵略戦争を仕掛けられるかもしれない。

いや、まず間違いなくそうなるだろう。

それを、分かっていて、僕を使って決着を図ろうなんて思わないだろう。

「だから、悩んだわ。悩んで悩んで悩みぬいて、そして出た答えがこれ。国を捨てる事。もう、私にはどうしようもない。この狂った国は止まらない。止められない。なら、日和見するしかないわ。戦争なんか関係ないところでね。そう考えたら、こうするしかなかったのよ。王位継承権を奪われる要因作りと逃げ場所の確保。ここが一番適当でしょう?」

確かに、逃げ場所としてはうってつけだろう。

目立つような場所でもないし、見つかったとしても、僕がいると知れば、下手に動けない。

簡単には手は出せない。

最適な場所だろう。

「君は王族としての責務を放棄して、逃げるのか?」

「勇者としての責務を放棄して逃げている貴方には言われたくないわ」

それは、単なる逃げ。

それを責めてみたが、あっさり切り返される。

そう、僕は勇者としての責務を放棄した。

元々、僕は勇者ではない。

ただの殺戮者。

でも、世界では違う。

世界では僕は救世主として、勇者として名を馳せている。

そして、救世主なら、勇者なら、この再び舞い戻った戦乱の世を沈めないといけない。

けれど、僕はそれを拒絶している。

ここで隠れている。

だから、僕の意見には聞く耳持たない、そういうことだろう。

「これは、今まで何度も言ってきたことだけど、僕は勇者じゃない。ただの人間だ」

「なら、私も人間ね」

彼女は見下すように、笑うように返す。

そう、僕も人間で、彼女も人間。

だけど、僕が込めた意味と彼女の込めた意味は違う。

全く違う。

「いや、違う。君は、ただの人間じゃない。国に生かされた人間なんだ。僕達ただの人間、平民から搾取して生きてきた人間なんだ。僕達とは違う」

確かに生き物としては同じカテゴリーに入るだろう。

僕も彼女も人と言う種族。

だけど、存在の意味合いは違う。

僕達は、自然に生かされつつも、自分自身の力で生きてきた。

自分の手で生を手にしてきた。

けれど、彼女達王族は違う。

他者から生かされてきた。

自分の手を汚すことなく他人に手を汚させ生きてきた。

特に彼女なんかはそうだろう。

王位継承者であった彼女は、温室でぬくぬくと育てられ生きてきた。

だから、僕達とは違う。

存在の意味合いが違う。

「だから、僕と同じ事は許されない。生かされてきた君は、その手を汚さずに生きてきた君には、僕と同じ道を進む事は許されない。王族としての責務から逃げ出す事は許されない」

僕はただの村人だった。

そして、殺戮者としての業を背負いながらも、その存在は変わらない。

僕はどこまでいってもただの村人。

その存在が変わる事はない。

だから、どんなに周りが僕の事を勇者と言っても変わらない。

僕自身が、その存在を変えていないのだから、何があっても変わらないのだ。

ただ、仰々しい、『世界最強』と『勇者』なんて言う通り名が付く、村人に過ぎない。

だからこそ、僕には村人としての責務しかこの背にはかかってこない。

職業勇者でもなんでもない僕には。

だけど、彼女は違う。

彼女はどこまで行ってもその存在は王族。

その血に脈々と流れる血は変わらないし、それまで生かされてきた事実も変わらない。

故に、彼女はその過去から逃れられない。

彼女がそこから逃れられるのは、その責務を果たし終えてから。

彼女自身が、王族として果たさなければならない、責務を果たしたとき、初めて彼女は自由になるのだ。

「君が僕と同じ平民だったら、その言い分も通るだろうけどね」

得るものが大きいからこそ、背負うものも大きい。

ただの平民だった僕には、背負うものなんて多くない。

勇者と言われようが、救世主と言われようが関係ない。

僕は地位は平民なんだ。

そして、彼女は王位継承権を失おうと、王宮から逃げてきたからと言っても変わらない。

僕は平民で彼女は王族。

それは変わる事はないし、故に同じ理屈が通る事なんてない。

「なら、どうしろと言う?今更戻れというのか?戻って、他国に輿入れしろ、と?政治の道具になれと言うのか?」

そう言う彼女が僕を見る眼は厳しい。

そりゃそうだろう。

王族として、ただ政治の道具として生きろと言われているのだ、腹を立てないはずがない。

「それが嫌ならあがけばいい。僕は足掻いた。家族が恋人が殺されて、全てを失って、そんな現実が嫌だから、足掻いて復讐した。もう二度とこの手から何もこぼれないように、奪われないように。そのためだけに力を望み、手に入れ、そしてこの手を汚した。ここは、汚す前からいられるような場所じゃない」

ここは、この場所は疲れ果てた人間のためのもの。

足掻き、苦しみ、絶望し、身も心もずたずたになりながらも、それでも、何かを追い求めるものがいられる場所。

ただ、そこにある現実が嫌だからと言って逃げ出した人間のためなんかにある場所じゃない。

「私だって足掻いた!戦争を止めるために、政治の道具にならないために足掻いて戦ったさ。だけど、ダメだったんだ。誰も、私が伸ばした手を取らなかった。取ろうとしなかったんだ。私だけの力では変えられなかった。味方はどこにもいなかった」

どんなに望んでも手に入れられないものはある。

どんなに願っても叶わないものもある。

彼女の願いは、届かなかった。

それだけの事。

だから、彼女は逃げ出した。

ただ国の道具として生きる事を拒むために。

「なら、どうして、ここに来た。ここに逃げ込んで何をするつもりでいるんだい?」

それを、僕は否定する事はしない。

確かに、何かを変えるために戦ったのなら、それは評価できること。

否定すべき事ではない。

「………」

けれど、彼女の答えはない。

彼女は、ただ黙り込む。

分からないのだろう。

現実に負けてから、彼女の時は止まっている。

ただ、逃げ場所を確保する事のみ考えていた。

だからこそ、ここに来てから後の事を考えられなかった。

「とりあえず、しばらくの間はここにいるといいよ。君の答えが出るまではね。だからと言って、いつまでも考えようともしなかったら、追い出すけど。いつまでも、逃げてるわけにはいかないんだから」

なら、猶予を与えよう。

闘い傷ついた人間なら、ここにいても構わない。

そして、出来れば、巣立って欲しい。

答えを見つけ、そして、歩んで欲しい。

僕は答えを出した。

僕の生まれた村はもうなくなった。

だから、故郷なんてないけど、今住んでいるここは、麓にある街は、もう僕にとっては故郷みたいな物。

僕の居場所。

そして、たった一人の家族。

こんな僕でも、手を差し伸べてくれたたった一人の少女、アリス。

その二つを守る。

それが、僕の答え。

殺戮を繰り返した罪を償うために、僕は奪ってきた命以上にたくさんの命を救いたい。

自分が大切だと思う人たちを守りたいと思う。

どんなに僕が無力でも、それぐらいは出来ると思うから。

そして、僕が答えを出せたように、彼女にも出せると思うから。

どんなに時間が掛かっても、人は答えを出せる。

苦しんで、足掻いて、喘いで、絶望しても、それでも、たどり着けると思うから。

だから、僕は彼女を信じる。

信じて、居場所を提供する。

彼女が考える事に集中できるように。

彼女を邪魔する人間が来ないように。

彼女が救われるように。


『なら、どうして、ここに来た。ここに逃げ込んで何をするつもりでいるんだい?』

ルイ・フェリルが私にした問いかけ。

それに、答えられなかった。

ただ、逃げることしか考えていなかった。

もう、疲れたから。

全てに疲れたから。

どんなに願っても、望んでも、そして、戦っても、自分が願ったもの望んだ物はは何一つとして手にする事は出来なかった。

さらさらと水が手のひらからこぼれていくかのように、逃げていった。

だから、悟った。

どんなに望んでも、願っても、手にする事は出来ない。

私が王族である限り、周囲に世界に翻弄され、何一つとして決められず、彼らが敷いた道を歩かされる。

だから逃げ出したのだ。

そんな世界に居たくなかったから。

自由が欲しかったから。

自分で選びたかったから。

けれど、自由を手にして、自分で選べる状況になって、そのとき、自分は何をしたいのか、そんな事は全く考えていなかった。

考えようともしなかった。

それでは、確かに、彼を否定できない。

彼は、確かに選択した。

選択し、そして、歩んでいる。

今でも、魔族、魔物からの襲撃は多少なりあるし、未だに治まらない治安悪化による、盗賊の被害だって、出ている。

それが、この街にはない。

起こる前に潰されている。

そして、それは彼が止めているのだろう。

彼は、歩んでいる。

アリスと、そして、この街を守っている。

ひどく我侭で自分勝手だけど、それでも、自分が出した答えに真正面から向き合い、それに応えている。

きっと、それを私は見習わないといけないのだろう。

一度、自分で選択したいと、するんだと決めたんだ。

なら、彼が言うまでもない、答えを見つけなければならない。

王族として生きるのではなく、クリスと言う一人の人間として生きるための答えを。

まぁ、クリスがけちょんけちょん言われましたが……

なら、アリスはどうなんだと言われそうですねぇ。

とりあえず、そこらへんのフォローしてくれるでしょう。

てか、するはず……と思いたいww

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