第九話 少しずれた多少勇者の家族団欒
ずいぶんと久しぶりになってすみません。
ネタが枯渇して、おまけに別のものを書いたりと……
とりあえず、ぽつぽつと書いていきますので、ご容赦を。
「自慢の白亜隊も全滅か」
近衛隊隊長から、聞いた言葉は、勝利報告とはいかなかったようだ。
「しかし、それも想定のうち」
だが、それも予測済み。
所詮、白亜隊といっても、人間。
中級魔族ならなんとかなるだろうが、魔王クラスでは、どうしようもない。
それぞれ、人には分がある。
「そうやって、虐殺してゆくがいい」
それでも、私は、これからも送り続ける。
幾多もの兵士の命を捨てる。
それが、王としての使命。
王としての責務。
「そして、新たな魔王となるがいい」
すべてのピースは揃っていく。
彼らが考えたとおりに物事が進んでいく。
まあ、そうでなくては困る。
そのための娘なのだから。
わざわざ決まりかけていた王位継承者を捨てたのだ、予定通りでなくては困る。
求めるものはただ一つ。
神の庇護。
「ルイさん、デートに行きましょう」
「ふむ、そんなに訓練はいやか?」
訓練をサボる口実としては、あまりに上手ではない。
「違いますよ。ルイさんにちょっとだけお休みを上げたいな、と思いまして。どこかの誰かさんがルイさんに負担をかけてますから」
「あら、それはいったい誰の事かしら?」
にゅっと出てきたのは、クリスだ。
どうやら、聞き耳を立てていたみたいだ。
「うん、確かに、そのどこかの誰かさんは、料理は壊滅的に駄目だし、他の家事も、大惨事というか、女として生まれてきたことを世界中の女性の皆さんに謝りなさい、といいたくなるほで、おかげで、僕もかなりしんどい思いをしているけど、我慢できないほどじゃないぞ?」
「大丈夫、私は床じょう……」
「それ以上無駄口をたたくと、炙り焼きにするぞ」
睨みつけると、闇色をした炎を呼び出す。
全く、純情な乙女がいるというのに、なんという言葉を言おうとしているのだろうか。
そもそも、淑女たるべき王族がそんなはしたない下々のネタを言うなんていうのは、程度が知れる。
「でも、ルイだって、愛し合う時には、そっちの方がいいでしょう?」
「どちらにしろ、情勢が情勢だから、ちゃんと訓練はした方がいいだろう」
「あら、無視なの?ひどい人ね」
とりあえず、鬱陶しいんだから仕方ない。
「こういう情勢だから、です。ルイさんは、最近笑えてません。だから、デートに行きましょう」
「あー、うん、それは、まあ、うん」
確かにアリスの言うとおり、笑えてはいない。
ここ最近、もう自分でも数えるのが馬鹿らしくなるほど人を殺した。
さすがに、そんな状態で笑えるほど、精神異常なわけでもない。
「というわけで、行きましょう」
「……まあ、ここは、仕方ない、かな」
確かに情勢は良くないが、差し迫った状況というわけでもない。
まだ、戦火は及んでいないし、不平不満を言いながらも、まじめに訓練をしているから、ずいぶんとアリスは強くなった。
まあ、それでも、戦えるほどではないけれど。
ようやく、基礎を抜け出そうとしているぐらいだし。
それでも、雑兵程度な相手なら、自分の身を守れるぐらいの強さは持っている。
たまには、ご褒美もいいだろう。
「んじゃ、どこに行く?」
「シボアの滝に行きませんか?」
「ああ、あそこは、確かにデートにはうってつけだな」
ここから、飛行の魔法を使ったら二時間ほどで着く場所で、大きな滝とその裾に広がる滝壺とそれを囲む木々が茂り、静かでいい場所だ。
「今から、お弁当を作りますね」
「なら、僕は出かける準備をしておこう」
「じゃあ、私は、勝負下着を準備しておくわ」
『しなくてもいい、というか来なくてもいい!!』
僕とアリスの声が重なった。
本当に、どこまでネジが緩んでいるんだろうか。
準備を終えると、僕たちはシボアの滝へと向かった。
とりあえず、クリスに関しては、魔法で拘束して、納屋に押し込んでおいた。
まあ、時限式で、しばらくしたら拘束が取れるようにはしているから、まあ、大丈夫だろう。
「あ、あの、その、すっごく重いんですけど」
「そうかな?」
「はい、すっごく重いです。というか、100キロを超える重りを背負って重たくないはずがないじゃないですか!!」
「でも、僕、その倍の荷物を持ってるけど?」
「ルイさんを基準で考えないでください」
まあ、確かに、僕基準で物事を考えると、どれもこれもがおかしな話になるから、やめるべきだろうとは思うし、実際は、かなり厳しいことをしているなとは思っている。
今、彼女は通常の荷物プラスに訓練用の重り100キロを担いで飛んでいる。
常識的に考えたら無茶もいいところだ。
「でも、強くなるんだったら、これぐらいしないとね」
でも、僕はそういってにっこりと笑う。
無茶なのは確かだけど、それでも、これぐらいならまだ楽なものだ。
「うー、せっかくのデートなのに」
「デート中でもがんばる君はすごく素敵だと思うよ」
そういって、にっこりと笑う。
「ごまかしてます?」
「まさか、それより、もうそろそろでつくはずだから、スピードをあげようか」
「ええ!!ここでラストスパートですか!?」
「ゴー」
「ま、待ってください!!」
彼女の叫びは無視して、スピードアップ。
後ろにいる彼女を眺めていると、半泣きになっている。
なんだか、その表情がとてもかわいらしい。
ささくれ立っていた自分の心も、落ち着きを取り戻している。
それもこれも彼女のおかげだろう。
彼女のお誘いがなければ、こんな気持ちになりはしなかっただろう。
本当にいい子だ。
今度何かプレゼントしてやろう。
ようやく、目的地のシボアの滝につくと、手早く準備をしていく。
やるのは僕一人だけだ。
アリスは完全に、ダウンしている。
まあ、自分でも無茶させているのがよくわかっているので、それに対して、何かを言うつもりはない。
「……手伝いサボる子には弁当なしにしようかな」
「ふぇ!?」
そう、訓練にダウンしてることには文句は言わない。
ただ、それだけだ。
「ひどいです。鬼です。鬼がここにいます」
「鬼、ねぇ。なら、今度の訓練はもっと厳しく……」
「ごめんなさい。手伝いますから、手伝いますから」
ほとんど泣きながら、立ち上がる。
完全に疲れきっていて、ふらふらとしている。
まあ、仕方ないだろう。
「冗談だよ。そこでゆっくりと休んでいて」
彼女をそっと座らせると、作業に戻る。
いくら僕だって、そこまで鬼じゃない。
準備を終わらせると、お弁当を開く。
色とりどりのおいしそうなおかずが並んでいる。
「さすが、アリス。本当に上手になったね。」
なんというか、カラフルでファンシーで女の子のお弁当、て言う感じだ。
「そして、これは、廃棄処分、と」
そのわきに堂々と置かれている毒物をとりわける。
誰が作ったのかなんて一目瞭然だ。
クリスが作ったんだろうが、とりあえず、人が食べられそうなものではない。
修羅の道を歩んだが故に、研ぎ澄まされた生存本能が警笛を鳴らしている。
それを食べたら、死ぬぞ、と。
「はい、あーん」
そんな劇物を意識の外に外すと、つまんだ玉子焼きを差し出す。
「ふ、ふぇ!?」
「だから、あーん」
「え、ふぇぇぇええ」
何故かアリスをパニックを起こした。
「どうかした?」
けれど、なぜ、そんなに照れるのかわからない。
たかだか、あーんをするぐらいで、なんでそんなに照れるのだろうか。
「い、いえ、その、あの、ど、どうして、その、あーん、なんですか?」
「え?普通じゃないのか?僕は昔、よくやってたけど」
ずいぶんと昔の話になるけど、家族や恋人とピクニックをしたときはよくやってた。
こんなことぐらい仲が良ければ普通にする。
まあ、あくまでも仲が良ければ、だけど。
「そ、そうなんですか?」
「そうだよ。だから、はい。あーん」
再び、そっと差し出す。
「う、うう、あ、あーん」
相変わらず照れながらも、今度はしっかりと食べてくれた。
その姿は非常にかわいらしい。
うんうん、やっぱり家族団欒はこれに限る。
僕と彼女は、二人で食べさしあって、綺麗に弁当を間食したのだった。
「いつまで、私は縛られていなければないのかしらねぇ」
今の私は、魔法の縄で縛りつけられて、芋虫のごとく転がっている。
その姿はどこにも王族の威厳なんてない。
まあ、私自身そんなものには、愛想がつきてるからかまわないんだけど、ただ、それよりもかなり重要な案件がある。
「トイレはどうすればいいのかしらねぇ」
さすがに粗相をするようなまねはしたくない。
果たして、どうすればいいのか。
「まあ、その時はその時で、責任とってもらえばいいわけだけど」
男らしい責任の取り方、というやつで。