プロローグ
新作です。
完全なファンタジーです。
『復讐と…』の続編でもありますが、これ単体でも十分、成立していますので、わざわざ観なくても大丈夫ですけどね。
とはいえ、しっかりと話を理解した上で読みたい方は、ぜひ『復讐と…』を読んでください。
一人の青年が居た。
家族を殺され、恋人を殺された青年が居た。
一人の少女が居た。
家族を殺された少女が居た。
青年は、復讐を誓い、剣を持ち、立ち上がった。
少女は、復讐を誓い、剣を持ち、立ち上がった。
青年は、がむしゃらに戦った。
その手を、身体を、心を、鮮血の深紅に染め上げながらも戦った。
少女は、怯えながら戦った。
怯えながらも、その手に剣を持ち、戦った。
青年はやがて、復讐を遂げた。
復讐を遂げ、己を咎人として堕とし、深い闇に眠ろうとした。
少女はやがて、復讐の愚かさを知った。
己の無知を恥じ、復讐をやめ、深い闇に眠ろうとする青年に手を差し伸べた。
青年は、闇の中から一筋の光を手にした。
故に、救う事を願った。
魔の物の王として、先代と同じく、己が一族の罪を一身に背負おうとする少女を救う事を願った。
少女は、誓った。
青年を救う事を、悲しみに染まった、幸せを奪われた青年を救う事を誓った。
青年は剣を抜く。
少女を守るために。
少女は剣を抜く。
青年を守るために。
血の繋がりどころか種族の壁さえも越えた、唯一の家族を守るために。
「殿下、どちらへお出かけなさるおつもりですか」
「何、戦のための武器を調達しに行くだけだ」
少女が笑う。
侍らせた騎士達の問いに答えながら笑う。
それは、覇者の笑い。
絶対的な権力を持つ物の笑い。
「魔の王を殺した男、捨て置くにはもったいないからな」
彼女は、更に笑う。
魔の王を殺した男。
勇者でありながら、咎人に堕ちた男。
その男を、いや、戦の武器を手に入れるため。
そのためだけに、彼女は笑い、歩みを進める。
青年は誓った。
少女を守ると。
少女は誓った。
青年を守ると。
「魔の王を殺した男、果たしてどれほどのものか、楽しみだな」
彼女は笑う。
全てをあざ笑うように笑う。
青年の誓い。
少女の願い。
ささやかな思い。
これは、そんなささやかな思いから紡がれたお話。
その未来が救いか、絶望か、それは彼らの選択次第。
彼らの選んだ道の先にある答え。
彼らの辿り付く未来は、どこなのだろうか。