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第一話 三十億の賭 第七章

「うへえぇ、気分わりい。」


 グレイに牽引されたタイガーの乗り心地は最低だった。衝撃緩衝装置のついた前席にいた、しかも体が丈夫なのが自慢のカイルでさえ気分を悪くしているぐらいだ。

 そんなこんなでなんとかグリフォンに帰還することができたが、タイガーは分解修理(オーバーホール)が必要なほど破損がひどかった。


〈ま、俺のような戦士にもたまには休息ってやつが必要さ。〉


 と本人は語っているが一応は宇宙最強の装甲車を目指して設計されていたのにズタボロにされたのをショックに感じているようだ。

 グリフォンの格納庫では汎用作業ロボット(キューブ)(使用しないときは三十㎝程の立方体をしているところから命名)がタイガーにとりついて修理を始めている。

 コクピットでは冒頭のようにカイルがうめいている。

 そして……


「博士、申し訳ありません…… 足手まといになりまして……」


 グリフォンの医務室ではリーナが病院のような真っ白なベッドに横たわっていた。カイルでも気分を悪くしたタイガーの車内で完全に車酔いにかかったのだ。

 格納庫についたときにはもうすでにひどい車酔いでリーナは気を失っていた。急いで医務室まで運んで医者の心得がある(というより博士号クラスの腕前だが)ジェラードが応急処置を施した。ジェラード自身も酔い止めの薬を飲んで落ち着いたようである。


「リーナちゃんの様子は?」


「ヒューイ、安心せい。少し横になっていれば回復する。どーせ後は大してする事はないんだから、グリフォンに任せておいても研究所まで帰れる。」


 だからゆっくり寝てろ。とリーナに言葉をかけてからヒューイを連れてジェラードは医務室をでた。



「あ、」


「どうしたジェラード。」


 ジェラードとヒューイはコクピットに向かう通路を歩いていた。


「いや…… なんだっけ? ほら、さっきとっ捕まえてきた……」


「コルツか?」


「ああ、それそれ。どこへやったっけ。」


「さあ。」


 無責任な会話を続けながら本当にコルツをどうしたのかヒューイは思い出せないでいた。……リーナちゃんが倒れたから、すっかり忘れていたなあ…… ど忘れしている理由はこれである。


〈さっき、カイルさんが『どこに持ってくんだ、こいつ。』とか言ってうろつきまわっていたんで冷凍睡眠(コールドスリープ)カプセルの場所を教えておきましたが……〉


 それを聞いてジェラードが一瞬、視線を宙にさまよわせる。


「ま、いいんじゃないの。で、カチンコチンに凍っているのか?」


〈それはもちろん。〉


「よろしい。」


 なにが「よろしい」なのかはわからないがとりあえずジェラードは満足したようである。



 コクピットに戻った二人を迎えたのはつまらなそうにグラスに入った白い液体を飲んでいるカイルであった。二人がそれぞれの席につくとカイルが後ろを振り向いてジェラードの方をすがるような目つきをした。


「よお、ジェラードよお。なんでこの船の中には酒がないんだ?」


 カイルが不満そうな声をあげる。


「こんな疲れた仕事から帰ってきたら冷てえビールをキューッと一杯。うへぇ、こたえられねえ…… てぇのが常識じゃねえか?」


「いつからだ…… だいたい、私もリーナも酒は飲まないんでな。いいだろう牛乳でも飲んでれば。健康になるぞ。」


「俺は酒を飲んでも健康だ。」


「お前と一緒にするな、私はそれほど丈夫にできていない…… それよりグリフォン、さっさと発進した方がいいとちゃうか?」


 カイルの言葉は無視してジェラードはコンピューターのチェックを始める。


〈それでは発進します。〉


 グリフォンの巨体がフワリと浮くとこの小惑星を離れるように前進を開始した。

 ジェラード達が中で暴れていた間、ずうっと外で偵察と警戒をしていたファイヤーとサンダーを回収して再び満天の星空を突き抜けるようにイオンジェットの炎が光った。



 レーダースクリーンはグリフォンのビーム砲の射程範囲内に刃向かってきそうな物体がないのを示している。映るのは戦闘力はカケラもない海賊達の脱出艇だけだけである。面倒くさいので放っておくことにした。


「さて……と。」


 ジェネレーターやエンジンのチェックを済ませると思いだしたかのようにジェラードが顔の半分くらいが口になるような大欠伸をした。


「何か私がいなければできないようなことはあるかな?」


〈……ないようですね。後のチェックは私が全てやっておきますので……〉


「あ、そ。それじゃあ、そろそろ寝かせてもらおうかな。」


 首をコキコキいわせながら立ち上がる。そして出て行こうとするところに、


〈あ、博士、〉


 と、グリフォンが声をかける。


「ん?」


〈エネルギーのリザーブがやや減少しているようなのでこの宙域で慣性航行しながら少し溜めておきたいのですが……〉


「なんで?」


〈シールドの長時間の使用ですね。あと、サンダーが結構、エネルギーを消耗しているのでそれを補給すると…… ま、帰還するのに十分なエネルギーはありますが、念のためということで。〉


「ふーん、なら任せるわ。」


 さして表情も変えずにそう指示するとジェラードはコクピットから出ようとするが、思いだしたようにヒューイ達の方を振り向く。


「聞いての通り、なーんもすることがないから自由にしてていいよ。宇宙(おもて)にさえ出なければ。」


 そう訳のわからないことを言うとそのままコクピットを後にした。

 ジェラードが出て行ったあと、カイルはシートの背もたれをたおして大きく伸びをする。そして、一声気合いのこもった声を上げると、シートを戻してつまらなそうに頬杖をつく。


「さーてと。俺は何をしようかなあ。」


 正面のメインスクリーンを見上げたまま一人呟く。


「なあヒューイ、何かねえかなあ。」


 そんな退屈そうな様子を見せるカイルを眺めてヒューイはさあねとばかりに首を振るとすっくと立ち上がり、コクピットを後にした、背中にカイルのさわぐ声を聞きながら。



 ポツンとカイルが一人残される形になった。 ややあってニヤリと笑うとカイルが口を開いた。


「どうだい、俺の演技は?」


〈演技?〉


「そ、俺がああいう風にすればヒューイは呆れたような顔を見せて何も言わずに外に出られるだろ?」


〈そうかも知れませんねえ…… するとどうなるんです。〉


 それを聞くとカイルは得意満面な表情を浮かべる。ニヤリと笑って答を引き延ばすようにして、グリフォンの反応を楽しむ。


〈気になりますねえ。それが一体…… ははぁ、リーナさんですね。〉


 ご名答。とカイルの顔がそう言っていた。


「ったく、ヒューイはああいう娘に弱ええからなあ。」


 はあ、そうなんですか。とグリフォンが感心したような声を上げる。


「そうそう、きっと今ごろは『大丈夫かい』とか言ってリーナちゃんの所にでもいるんだろ。まったく、あの色男が。」


 きっと今ごろヒューイはくしゃみをしているだろう。


〈そういえば、〉


 グリフォンが興味津々そうな声を出した。


〈カイルさんはどうなんです? 女性の好みとかは?〉


「!」


 不意をつかれ飲みかけていた牛乳を吹き出しそうになった。


〈ああ汚い…… コンソールの上にこぼさないようにしてください。〉


「だってなあ……!」


〈どうなんです?〉


 カイルの言葉をさえぎってしつこく尋ねる。他人の弱みを見つけて喜んでいる子供のような口調だ。

 返答に困り、カイルはあたりをジト目でにらみつける。


「お前さあ。どっかに人間が隠れてるんじゃねえのか?」


 コンソールの下を覗きこむ。

 だいたい、人にそんなこと聞くコンピューターって始めて見たぞ。と心の中でぼやく。


〈どうなんです? どうなんです? ごまかしたって無駄ですよ。〉


 ため息をついてカイルは観念した。後でジェラードに文句を言おうと決心した。


「俺は…… 別に…… まあ、何と言うか…… 選り好みはしねえからなあ。来るものは拒まず。ってえやつだな。」


〈意外とつまらないですねえ。〉


 何を期待してたんだか。


〈じゃあ…… 博士はどうなんです。古い友人なんでしょう?〉


 攻撃の矛先が変わった。今度はジェラードだ。


「あいつかあ…… あいつはどちらかというと……」


 ふとそこで言葉を切る。カイルの表情が一瞬険しくなり、そしてどこか遠くを見るような目を見せた。ため息が口から洩れる。


「いや、俺は知らねえな……」


 なにか苦いものが混じった声でそう呟く。グリフォンは聞いてはいけないこと聞いた、ということを何となく察知した。


〈はい……〉


 間の悪い沈黙がコクピットを支配した。

 その状況に耐えきれず、グリフォンは(センサー)宇宙(そと)に向けた。人間でいえば視線をそらしたようなものである。

 背後(というか進行方向と逆の方)に先ほど脱出したばかりの小惑星がある。

 その一部が大きくかけてそこに激しい炎が見えた。始めはそれがおそらく内部に仕掛けられた爆薬の類が例の「自壊シークエンス」により爆発し、内部の燃料かなにかが燃えているだけかと思った。しかし、ズームアップしてよく見てみると炎らしきものが吹き出てきている部分になにかの機械部品、強いてあげるなら宇宙船の推進装置のようなものが観察できる。


〈これ…… なんだと思います……?〉


 スクリーンの一部にその映像を映した。


「こりゃあ、エンジンか何かじゃねえのか?」


〈やはりそう思いますか……〉


「気のせいかも知れねえが、あれ、動いてねえか?」


 さっき見たときに比べ、僅かに位置が移動しているように見える。


〈……動いています。わずかづつ加速度を得て移動しています。〉


「ふーむ。じゃあ、あのまま行ったらどこへつくんだい?」


〈そうですねえ……〉


 スクリーンの別の部分に星図(スターチャート)が描かれた。その中に数本の色違いの曲線が引かれた。


〈仮に…… あの加速度のまま進むとすると……〉


 曲線の一本が伸び始める。スターチャートが切り替わって中心に巨大な太陽を抱く恒星系が現れた。


〈ここでこの恒星系の引力に引かれ……〉


 曲線のカーブが大きくなった。


〈おそらくここで…… え?〉


 曲線がある恒星系の惑星の軌道に重なった。予想到達時間にはそこにとある惑星が存在する。

 その惑星の名前は惑星バーン。人口三十億を越える、地球型惑星である。



 時間を少し戻そう。

 リーナは医務室のベットでウトウトとしていた。ジェラードの渡した薬が聞いてきて眠くなってきたのだ。

 その半分寝ぼけている状態の間でリーナは夢を見た。

 平和な街なかである。そんな風景をどこか遠く、高いところから眺めている、そんな感じであった。子供連れの主婦が、腕を組んでいる恋人達が嬉しそうに、何も知らぬように歩いている。

 そうしていると急に空が赤く染まった。まるで血を塗ったような赤。そして何か解らないが大きく、恐ろしいものが近づいてくるのが感じられた。

 リーナの眼下に広がる街は平和そのものだった。それが落ちてくるまでは。

 高いところから眺めているリーナにはその巨大なものが手も触れんばかりの距離にあるのが見える。無駄だと知りつつも手をのばしてそれを止めようとする。しかし、リーナにはそれに干渉する術はなかった。

 大気との摩擦でそれは太陽のように熱く赤く燃え上がっている。

 その時になってやっと地上の人々が異変に気づいた。けれどもすでに、いや、事前に知っていたとしても、この段階まで来てしまってはこの災厄から逃れることなど不可能であった。

 赤熱した光が地面を、建物を、そして人々を焼き尽くす。影だけを残し、人々が消えていく。

 それがついに大地と接触し、そのまま止まることなく道路を割り、建物を砕いて沈んでいった。

 リーナの視点は上昇し、大陸が判別できるような高度に達した。その高さからもそれが見えた。そこを中心に巨大なキノコ雲が上がる。

 見える範囲全てに亀裂が生じる。

 陸も海も全てが、そしてその惑星自体を引き裂くように亀裂が走った。

 リーナの耳に人々のうめき声が、苦しみにあえぐ声が聞こえた。

 彼女の目の前で一つの星が、膨大な数の命とともに滅びようとしている。



「いやあぁぁぁ!」


 リーナは自分の悲鳴で目を覚ました。


「どうした!」


 その声を聞きつけてタイミングよくヒューイが医務室にかけ込んできた。

 別にタイミングを図って来た訳ではなく、たまたま表で入る口実を考えてウロウロしていたときに少女の悲鳴が聞こえてきて慌てて飛びこんだだけである。


「ヒューイさん……」


 リーナが虚ろな視線をヒューイに向ける。ふらつくように立ち上がり、ゆっくりと近づいてくる。


「ヒューイさん!」


「!」


 近づくなり、リーナはヒューイにしがみついた。そのままヒューイの胸に顔を押しつけて泣きだす。堪えようとしても涙があふれてきて止まらない。


「あー、その…… なんだな……」


 困惑ながらも恐怖に震える少女をぎこちなく抱きしめ、彼女のライトブラウンの髪をそっと撫でてやる。そのたびにしゃくりあげる声が聞こえてきた。

 そうして十分ほど泣き続けていただろうか、不意に我に返ったような表情でリーナが顔をあげる。彼女を見おろしているヒューイと目があった。彼の瞳に優しい光が宿っている。大丈夫か、とその瞳は語っていた。


「あ、あの…… 私……」


 そこまで言いかけたところで彼女は自分の今のおかれている状態を認識した。反射的にヒューイを突き飛ばすようにして離れる。うつむいたその顔が朱に染まる。


「ご、ごめんなさい! 私…… その…… 別に……」


 恥ずかしさのあまり混乱して言葉がうまくつむぎだせない。頬に手をあていやいやをするように頭を振る。セミロングの髪が医務室の無機質な光の中で揺れた。


「どうしたんだい? 俺に言えることなら言ってごらん。 ……あ、もしかしてジェラードにいじめられたのか?」


 ヒューイのふざけた口調がリーナを正気に戻す。しかし、まだ頬の赤みは取れていない。


「いえ、夢を…… 怖い夢を見たんです……」


「夢?」


「はい。人がたくさん死ぬ夢を……」


 そう言って簡潔にその内容をヒューイに説明した。説明しながらもその夢の恐怖が忘れられないのか、声が震え涙がこぼれそうになる。話が終わった後、ヒューイはゆっくりと口を開いた。


「約束はできないけど……」


「?」


「俺の目の前ではそんなことは絶対にさせない。」


 そう言ってニッコリと微笑む。


「それに俺はリーナちゃんが泣くところなんか見たくないしね。」


「…………」


「ほらほら、泣いてちゃあ可愛い顔が台無しだぜ。」


「ヒューイさん……」


 まだ瞳はうるんでいるが、リーナの顔に少し笑顔が戻った。そうするだけで周囲が明るくなったような気がする。


「そっちの方がずっといいよ。」


 この笑顔を守るためなら全宇宙を相手にしてもいいな。ヒューイはそんなことを考えていた。

 この時、グリフォンの船内に耳をつんざくような警報が鳴り響いた。夜中になった警報とは違う種類の音色だった。


「これは……」


 リーナの顔色が目に見えて変化する。顔に緊張の色がよぎった。


「緊急警報です。いそいでコクピットに戻りましょう!」


 その言葉が終わらないうちにグリフォンの声が船内に流れる。


〈緊急事態発生! 乗員は速やかにコクピットに集まって下さい…… 博士! 今回は冗談抜きに緊急事態です。寝ぼけている場合じゃありません。急いで来て下さい!〉


 緊迫したグリフォンのアナウンスの流れる中、ヒューイとリーナはコクピットに向かって走っていた。



 二人がコクピットにつくととりあえず自分の席についた。正面のモニターに様々な文字や図が目まぐるしいスピードで写し出された。リーナはその表示を目で追い、内容を理解したとたんに顔が真っ青になる。

 それから慌ててキーボードを打ち始める。リーナの指がキーの上をなめらかに動き、それに合わせてモニターの表示が刻々と変化する。


「このままでは…… このままでは……」


 呪文のようにリーナが呟き続ける。顔面蒼白となり、ともすれば卒倒しそうになりながらも惑星バーンに降りかかるだろうおそるべき災厄を防ぐために一心不乱にキーを叩き続ける。

 リーナの隣の席は空いたままだ。ヒューイもカイルも一所懸命なリーナやグリフォンを手伝いたいのはやまやまだが、何をすればよいのか見当すらつかない。ヒューイにいたっては何が起きようとするのかすら知らなかった。

 だいぶ遅れてジェラードがコクピットに入ってきた。


〈博士!〉


「状況は大体わかった。詳しいデータをくれ。」


 そう言ってから自分の席につくと、ジェラードもまたキーボードを叩き始める。その指の動きはリーナの数段上をいき、それこそ普段威張っているだけの実力をその場にいる人間に見せつけた。


「おい、ジェラード。」


「なんだ。」


 ヒューイの呼びかけに憮然とした表情を隠そうともせず不機嫌そうに返事をする。


「何が起きたんだ?」


「それはだなあ……」


 モニターをチラッと見て言葉を続ける。


「一三時間後、人口三〇億の惑星に星が一個落下するだけだ。」


「本当かそれ?」


「お前をだまして何の得がある? グリフォン、スクリーンに出せ。」

 ジェラードがそう命令すると、スクリーンの一つにスターチャートが表示され、それに一本の曲線が描き出される。さっきカイルとグリフォンが見た図だ。

 その図の右上には何かの数字が表示されていて、その値は一秒ごとに減少している。


「あれが0になれば、」


 ジェラードがその数字を指さした。


「惑星バーンに、さっきまでいた小惑星が衝突する。そのショックで惑星バーンは消滅し、その衛星軌道上に浮かんでいるものも同じ運命をたどるだろう。」


 淡々とした口調が逆に事態の重大さを痛感させる。リーナの表情が更に固くなった。さらに説明は続く。


「この周辺の宙域にはあれだけの大質量を破壊できるだけの兵器は存在しない。ま、仮にあったとしても今じゃあもう間に合わないだろう…… 結果だけ言えば惑星バーンの消滅を防ぐ手段はないな。」


「おい! 『ないな』って簡単に言うんじゃねえ。なんか方法はないのか?」


 ヒューイは必死に考えを巡らす。ふとそのとき、あることを思いだした。


「そうだ! 俺達の後に宇宙軍が来ていたんじゃなかったか?」


「無理だな。」


 ヒューイのせっかくのアイデアもジェラードに一蹴される。


「確かに、ワープステーションを使っている分、あちらさんの方がバーンに近いが…… 惑星破壊規模の兵器を持ち歩いている戦艦なんぞ、どこにいるんだ? まあ、せいぜい表面をちょいと削るのが関の山だろう。」


 その言いぐさにヒューイは腹が立ってきた。目の前で指をくわえていろと言うのか、と怒鳴ろうとしたときに、それまで黙っていたカイルが口を開いた。


「あのよお、気のせいかも知れねえが、ジェラードはなんでそんなに余裕こいてんだ?」


 それを聞くとジェラードがフフフと含み笑いをする。ニヤリとした笑みがその顔に浮かんだ。


「よくぞ聞いてくれました! ご安心召され。このシルバーグリフォンがいる限り、あんなものはチョチョイのチョイだよ、君達。

 とはいえ…… 少々本気を出さなければいけませんがね。」


「本気?」


 そう、と言ってジェラードはコンソールのキーの一つを叩く。スクリーンにグリフォンの三面図とともに様々なデータが表示される。相変わらず桁外れの能力だが、最初にリーナが説明したものと違う値が記されてあるような気がする。


「あれ?」


 ヒューイがそれに気づいて不思議そうな声をあげる。


「基本的にグリフォンは安全係数を三以上として設計されている。つまり、そのリミッターを外せば能力が三倍以上になるわけだ。」


 そう説明してから再びキーを操作すると表示されているデータの値が大きく変化する。


「さて、そろそろ参りますか……」


 ジェラードがいつもの不敵な笑みを口元に浮かべる。


「グリフォン! 切り札(JOKER)を使うぞ!」

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