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第一話 三十億の賭 第三章

 Beep! Beep!


 船内時間で夜中の三時頃、グリフォンは警戒モードにはいっていたレーダーから警告を受けた。

 眠い目をこすりながら、と言うわけではないが、慌ててメインシステムを起動させ、レーダーからの情報を読む。


〈しまった。どうやら(海賊)のレーダーに発見されたようだ。変だなあ、この時間ならまだ敵のレーダー圏内に入るはずじゃあないんだが……〉


 疑問に思って軌道計算と現在位置の測定を始める。


〈おや、どうやら予定よりも十時間ほど早くついてしまったようだ。でも、なんで…? もしかして……〉


グリフォンはふと恐ろしいことを思い出した。


〈まさか、あのとき数分間システムが切れたときに…… や、やっぱり。そのときにエンジンの出力が一瞬増大している。これが原因か……〉


 またレーダーが警告を発した。


〈ミサイルが二つ接近中、か。しょうがない、このまま私一人で迎撃していても迎撃しきれないだろうから、心苦しいが皆さんを起こすとしよう。〉


 こうして真夜中の船内に警報が響きわたった。



「おい、どうした? 何か起きたんだ?」


一番乗りでヒューイがコクピットに入ってきた。そのままパイロットシートに飛び込んでオートパイロットを解除する。


「やっと来たか。待ちくたびれたぜ。さあてどいつから血祭にあげりゃあいいんだ?」


 二番はカイル。コ・パイロットシートにつくなり、火器管制のセーフティを外す。次の瞬間、正面からくるミサイルをレーザーでたたき落とした。

 次にリーナがスコッチを腕に抱いて眠そうな顔をして航法士のシートにつく。着替える暇を惜しんだのかパジャマの上にカーディガンを羽織っただけの服装で一生懸命コンピューターの操作を始める。


「おや? ジェラードはどうした?」


 ヒューイはリーナの隣のシートが空いているのに気づいて誰ともなしに尋ねた。


〈おそらく…… まだ寝ているのではないかと……〉


 ためらいがちにグリフォンが答える。そろそろレーダースクリーンの光点が増えてきて事態が緊迫していることを物語っている。メインスクリーンにも敵機が見えてきた。


「あの男は…… どういう神経しとるんだまったく。」


 ヒューイがそうぼやいた瞬間、コクピットのドアが開く。


「調べたことはないが少なくとも金属製じゃあないようだ。」


 どうひいき目に見ても不機嫌そうな顔をしてジェラードがいちばん遅れて入ってきた。トレードマークと化した白衣を着ての登場である。


「だいたいなあ、こんな時間に起こすとは非常識もいいところだ。いつも言ってるだろう。つまらんことでいちいち呼ぶなって。」


 ジェラードの寝起きはすこぶる機嫌が悪い。ヒューイもカイルもそのことはよく知っていた。それと同時にジェラードは眠りが浅いのか少しの物音で目を覚ますことが多い。

 そんなジェラードをなだめるような声でグリフォンがジェラードの態度をうかがう。


〈ですが…… ちょっとレーダースクリーンを見てもらえますか。〉


「ほう、ずいぶん賑やかだなあ。何があったんだ?」


 その瞬間、偶然敵戦闘機のレーザーが命中して船内がわずかに揺れた。まだ席についていなかったジェラードはそのあおりをくらってこれまた偶然転んでしまった。


「グリフォン、被害は?」


 身を起こしながらジェラードが言う。しかし、その声には焦りや驚きの色はない。当然である。グリフォンは戦闘機のレーザーごときで傷つくほどやわな装甲はしていない。


〈大丈夫です。シールドですべて防ぎました。

ただ敵の数が結構多いので、ファイヤーとサンダーを出撃させましょう。〉


 これもグリフォンが自分の身を案じたわけではなく、ただ単に面倒くさいだけだからである。


「そうだな、ファイヤー、サンダー、聞いての通りだ。出撃の用意をしてくれ。」


了解ラジャー。》


 二人|(いや、二機と言うべきだろうか)の声がきれいにハモった。スクリーンの一部に格納庫の様子が映し出された。十メートル程の赤と青の戦闘機がカタパルトの方に動いていった。

 意味なく様々な角度からの映像が交互にあらわれる。まるでSFの映画の一シーンのようにだ。これがジェラードの趣味なのかグリフォンの趣味なのかは定かではない。


〈博士。〉


 そのうちの青い戦闘機の方がジェラードを呼んだ。


「どうした、サンダー?」


〈あれ、使っていいですか?〉


「あれっていうとあれかい。」


〈ええ、あれです。〉


 ここでジェラード、不敵な笑みをうかべひとこと。


「当然、存分に使ってもいいぞ。派手に暴れてこい。」


〈はい。〉


 嬉しそうにサンダーが答えた。


「使う機会があればファイヤーのあれも使っていいぞ。派手にやってこい。」


〈はい。〉


 ファイヤーもまた嬉しそうに返事をした。


〈それでは、ファイヤーロック。〉


〈サンダーロック。〉


《発進します。》


 最後にまた二人の声がきれいにハモると二機の戦闘機はグリフォンの上部カタパルトから弾かれたように飛び出していった。


「ジェラード、なんだいそりゃ。」


「気になるか?」


「そりゃあねえ。お前の造るモノには常識が通用しないようだから。」


「大丈夫、そんなに激しいもんじゃないから。」


 しかし口元がニヤリと笑っていた。



 赤と青の光が漆黒の宇宙空間に現れた。敵戦闘機群の半分くらいがその光を追うように進路を変更する。


〈来ました!〉


〈ずいぶん少ないわねえ。さっさと片付けるわよ、サンダー!〉


〈了解!〉


 二機が一気に加速して先頭にいたシェプロンの両翼のすき間をぬうようにすり抜ける。すれ違いざまにそれぞれが片翼を撃墜する。

 このアクロバットで四機が一瞬の内に宇宙の藻屑となった。一機残された先頭機が慌てて回避運動をとるが、Gを無視したターンをかけたファイヤーとサンダーがすでに後ろに回り込んでいた。


〈無人機のようですね。〉


〈道理で手ごたえがないと思った。海賊も人手不足のようね。〉


〈ま、その方が気が楽ですけど。〉


 ここまで通信している間に双方が十機以上をたたき落としていた。

 二機のレーザー機銃が宇宙空間にきらめく度にまた新たな爆発が起きる。

 腕はそこらのパイロット以上だし、Gの心配なく回避運動がとれるだけあって二機にとっては無人機など七面鳥よりも簡単な獲物であろう。二機ともまだ無傷である。

 こうしたサンダーとファイヤーの活躍でレーダーの光点が少しずつ消えていった。



「右前方より多弾頭ミサイルが接近中。回避するか撃墜してください。」


 レーザースクリーンの中でミサイルを示す光点が五十以上の光点に分裂してグリフォンに向かってきた。

 リーナの声と同時にヒューイはグリフォンに大きく回避運動をさせた。船内にわずかに横Gがかかる。

 実際は慣性制御装置でGをすべて消すことができるのだが、そうすると熟練したパイロットにとっては勘が鈍るので一部のGを残している。しかし、本当は普通の船では絶対耐えられないほどの回避運動をグリフォンはしている。そうでもしない限り、大抵は多弾頭ミサイルを避けることはできない。

 それでも避けきれないいくつかのミサイルをカイルがたたき落とす。見事なコンビネーションである。


「敵の本拠地と思われるところから巡洋艦クラスの未確認艦が出てきました。」


「おっ、やっと大物が出てきた。ジェラード、なんか強烈な武器はないか。」


 んなもんお前に持たせるられるかい、とブツブツ文句を言いながらも主砲とミサイルのコントロールをカイルにまわす。


「よし、一発ぶちかますか。ヒューイ! あいつを叩くからさっさと船をあっちに向けろ。」


 グリフォンが回頭した。

 ターゲットスコープに敵の巡洋艦をいれて、そのまま中央のガンサイトに合わせる。戦術コンピューターがロック・オンの表示を出した瞬間にカイルの人差し指がトリガーの上で跳ねた。

 毎秒三十万キロメートルの光の矢がグリフォンの主砲から飛び出し辺りの分子をイオン化させながらグリフォンの倍近い大きさの巡洋艦に向かって突き進んだ。そのまま敵の船のシールドを紙切れのように破って船本体も易々とぶち抜いて光の矢は虚空に消えていく。一瞬遅れてそれは爆発四散してしまった。

 それを見て心底つまらなそうに「弱い。」とカイルがつぶやく。


「弱すぎる。もっと歯ごたえのある奴はおらんのか?」


「おらんね、敵が弱いんじゃない。こっちが強すぎるだけだ。」


 いまの一撃で敵の足並みが乱れた。その混乱している敵群にグリフォンは突っ込んで行った。辺りはすべて敵である。照準を合わせ、トリガーを引く。それだけでまた一機と敵戦闘機が宇宙の藻屑と化した。

 しばらくは(カイルにとって)つまらない戦闘が続く。しかし、それは唐突に破れた。


〈ああぁぁぁぁぁぁっっ!〉


 通信回線にサンダーの悲鳴のような叫び声が入る。 


「どうした! 何があったんだ。」


 あわててレーダースクリーンに目をやる。二機を示す赤と青の光点はまだスクリーン上に存在している。

さっきのサンダーの叫び声が今度は半分泣き声に変わった。


〈くすん。翼に傷がついちゃったぁ。折角きれいに磨いてワックスも何度もかけてピカピカにしたのにぃ。〉


 あごが落ちるようなショックがヒューイとカイルを襲う。そのままグリフォンのコントロールも忘れて二人同時に後ろを振り向いてジェラードを見た。


「お、おい、ジェラード。今、あの戦闘機(サンダー)は何て言ったんだ?」


「聞こえんかったのか。なんか翼に傷がついて悲しんでいるようだ。」


〈許さないんだあ。私に傷をつけたことを後悔させてやるんだ。〉


 サンダーの呟きが船内に低く流れる。レーダースクリーンでサンダーを示す青い光点が敵の光点が集まっている方へ急激に移動した。


「サンダー、どうでもいいが無理はすんなよ。ヒューイ、カイル、惚けてるような暇があったらグリフォンの操縦に戻ってくれんか。いくらこいつが優秀でもオートパイロットには限界があるんだからな。」


二人が一時的に操縦不能に陥ったためグリフォンはコントロールをオートに切り替えてていた。しかしプロのパイロットにはかなわない。レーザーが何本かシールドに当たってスパークする。スパークとそれによって起きる振動が二人を現実に引き戻した。 

 ヒューイはしっかりと操縦桿を握り直すとグリフォンにオートパイロットの解除を命じた。


「戦闘機の密集している空間にサンダーが侵入しました。ファイヤーもこちらも安全距離にいます。」


 リーナに今の報告の意味を聞こうとヒューイが思ったときにレーダーの青い光点を中心に青い円が描かれた。


〈サンダアァァァ・フラアァァッシュ!〉


 サンダーの叫びと共にサンダーのまわりの光点が一瞬の内に消滅してしまう。


「さて、聞くのもそろそろ飽きてきたけど…… 今のはなんだ?」


 ヒューイがグリフォンに乗ってから何度目かの質問をジェラードに向けた。


「ま、簡単に言うとサンダーの周囲に高圧電流を放電させたわけだ。仮に機体がその電流に耐えたとしても中の電気機器やパイロットがやられてしまうというものである。」


 そこまで一息で言うとヒューイの方を見て「便利でしょ」と嬉しそうに言う。何がどう便利なのか聞こうとしたがろくでもない答が返ってきそうなんでヒューイは何も言わないことにした。


「今のサンダー・フラッシュで敵戦闘機の六五パーセントが消滅。また、残りの約半数が敗走していきます。」


 律儀にリーナが報告を始める。


「敵の本拠地の解析が終了いたしました。敵本拠地は大きさ三〇〇キロメートル程の小惑星の内部に存在するようです。小惑星の表面にはロケットランチャー、対空迎撃砲などの施設が存在する模様です。規模からみて単なる海賊と思えませんが……」


「そうだな。どちらかと言うと軍隊と言った方が正しいかもな。まあいいや、とりあえずサンダーは残りの戦闘機を、ファイヤーは惑星表面の邪魔ものをやってくれ。」


了解ラジャー。〉


「おーい、ジェラード。」


 カイルが振り向いて二機の戦闘機に指示を出したジェラードを呼んだ。


「なんだ?」


「こいつにはさっきみたいな派手なヤツはないのか?」


「あったとしてもお前にはやらん。それよりもこれを見ろ。」


 ジェラードがいくつかのキーを操作するとメインスクリーンに小惑星のCGが表示された。


「お前らのターゲットはここにいるらしい、そうだよな? 違うのか?」


そう言ってはみたものの二人が沈黙しているのを見て困ったような声を出した。


「いやね、俺達はこんな基地を見る前にやられてしまったからなあ。」


 それを聞いてヒューイも同意するようにうなずいた。


「まあいいや、じゃあここでいいとしよう。」


 別なキーを押すと小惑星の内部の構造がさっきのCGに重なった。


「これが敵戦闘機などがでてきたところで、この大きさならグリフォンが入ることができるからここから突入することにしよう。」


「なるほど。」


 カイルがスクリーンを見てうなずいた。


「カイル、ちゃんと分かっているのか?」


「いいや、だいたい俺に難しいこと言って分かると思うか?」


「それほど難しい話とは思わんが…… まあいい。そして、中心近くにメインのコンピュータールームがあるからここを制圧してしまえばだいぶ楽になるということで…… ヒューイ、これは君にやってもらおう。」


「無理。俺、コンピューターの操作苦手だもん。」


「大丈夫。そっちの方はリーナにやらせればいいから、お前はリーナを無事にコンピュータールームに連れて行けばいい。不安ならスコッチもつけてやろう。」


「ニャー。」


「……わかった……」


 諦めたようにヒューイがうなずいた。


「で、俺は何をしたらいいんだ?」


「カイルは陽動作戦をやってもらう。簡単に言うと派手に暴れていればいい。」


 暴れる、と聞いてカイルの目が嬉しそうに輝いた。そしてその厚い胸板をドンと一つ叩くと任せろ、と断言した。

 もとは軍の白兵戦部隊にいたという、破壊工作のプロである。暴れるのは日常茶飯事であり、カイルの趣味であろう。


「ところでジェラードはまさか一人で残って留守番……とは言わねえだろうな。そうならリーナちゃんの代わりにお前を連れて行くからな。」


「いやあ、そんなこと言うわけないでしょうが。私は最近開発した新兵器のテストもかねてカイルと一緒に行くつもりだ。」


「大丈夫かねえ、俺の足手まといにならなきゃいいが。」


 値踏みするようにカイルがジェラードをジロジロと眺める。


「ま、なんとかなるでしょう。さて、いろいろ準備でもしますか…… ちょっとみんな来てくれ。」


 グリフォンにいくつかの指示を与えるとジェラードは立ち上がってコクピットを後にした。



 武器庫。

 ジェラードを先頭に四人と一匹ははこう書かれたドアの前についた。


「なにはともあれ、武器が必要でしょう。」


 ドアの横にあるパネルに手を触れるとドアが音もなく開いた。なかにはその名の通りありとあらゆる武器が納めてあった。さすがに剣や斧が飾ってあるわけではない。


「おおっ、これは!」


 カイルがおもちゃを見つけた子供のように目を輝かせてその中に入っていった。


「どうせジェラードのことだから大したもんはないとタカをくくっていたが、いいもんがあるじゃねえか。」


 奥の方にある重火器類の中からロケットランチャーのひとつをとりあえず選びその感触を楽しむように構えた。そして次から次へと別な武器を手にとってそのたびに歓喜の声を上げている。


「おーい、カイル…… ダメだ。自分の世界に入り込んでいる。」


 ジェラードはそう言うと肩をすくめてヒューイの方を振り返る。


「どうせお前は重火器は使わないんだろう。ハンドガンや小銃類は手前の方にあるから好きに選んでくれ。けど、私のおすすめはこれ!」


と大量にあるライフル類の中からヒューイが見たこともないものを持ってくる。


「こいつは私が開発したレーザーライフルで性能は軍御用達のやつに比べて出力、命中精度、連射速度、射程距離、どれをとっても軽く二倍以上の差がある。オプションパーツをつけることによってスナイパーライフルや対戦車ライフルとしても使用可能という優れものだ、どうだい?」


「どれどれ……」


 ヒューイが手にとってみるとまずその軽さに驚かされた。これならその気になれば片手でも楽に撃つことができそうだ。また銃身も丈夫にできていて棍棒代わりにしても十二分に保つであろう。一度、試射してみたいところだがなんかあったらジェラードに文句を言おうとヒューイは心に決めるのであった。


「なかなかいいな、こいつを使うことにしよう。」


「良かった。まだこいつはテストしてないんだ。一応、後で結果を教えてくれ。」


 平気で恐ろしいことを口にする奴である。


「あとは適当に自分で選んでくれ。……と、リーナは何がいいかな……」


 と、リーナの方を振り返る。一瞬、おや?と言う顔になって柔らかな笑みを浮かべる少女に体ごと向き直る。


「すまんがリーナ、一回戻って着替えてきたらどうだ?」


「え?」


 驚いたような顔をするとリーナは視線を下に向けた。

 花柄のパジャマにカーディガン。

 確かにこれからドンパチをやるには少々合わないかもしれない。


「あっ! す、すみません。すぐ着替えてきます。」


 そう言うとリーナは通路をスタスタと走り去っていった。その後ろ姿を見送ってジェラードがフーッとため息をつく。


「確かに物覚えも運動神経もいいんだが、まだいまいち一般常識に欠けるところがあるんだよなあ。だから、ヒューイ。」


「なんだ?」


「この件のカタがついたら、リーナに社会ってもんを教えてやってくれ。どーも私は外にでる機会が少ないからな。」


「いいけどよお、ジェラード。人のこと言う前に自分の服装も見てみればどうだ。」


「へ?」


 縦じまのパジャマにいつもの白衣。

 これも確かにドンパチには少々不適切の様である。


「ははははは。諸君、また会おう!」


 そう言うと一陣の風を残して走っていってしまった。


「一般常識に欠けてるのはどう見てもジェラードの方だと思うのだが。」


〈同感です。〉


 ヒューイの呟きにグリフォンが囁き返した。



「あれ? 博士はどうしたんですか?」


 ハンドガンをあさっているヒューイの後ろからリーナが声をかけた。


「あいつも着替えに戻らせた。さて、これにするかな……」


 後ろも見ずに答えるとハンドガンの中から九ミリのオートを選ぶとスライドを引いてその調子を確かめた。自分の銃も持っているが予備のために一応…… ということだがそれにしても半分以上の銃が見たことの無いものとは不気味でしょうがない。それらはジェラードのオリジナルなのだろうか?

 選んだ後、ヒューイはひょいとリーナの方を振り向いた。


「おっ、よくそんな服あったね。」


 リーナの着ているのは軍で使うような室内用クローズド戦闘服コンバットスーツである。

 特注品なのかその華奢きゃしゃともいえる体にサイズがピッタリと合っていて、なおかつデザインも凝っていて色も薄いブルーとなかなかにおしゃれにできている。

ま、かわいい娘は何を着ても似合うってことかな。と声に出さずにヒューイが呟く。しかし、こんなもん(コンバットスーツ)のデザインに凝ってなんの利点があるんだろうか。


「似合うよ。かわいいじゃない。」


「いえ、そんな……」


 褒められたのが恥ずかしいのかリーナは顔を赤くしてうつむいてしまう。それをごまかすかようにしゃがみこんで足元にいたスコッチを抱きかかえる。その時リーナの腕の中におさまったスコッチがクスッと笑ったようにヒューイには思われた。


「おーおー、なにそんなところで恋人同士の会話みたいなことしてるんだ? まったく。」


 何となく和んだ空気を不躾ぶしつけにジェラードが斬り裂いた。ジェラードの服装はというと… やっぱり白衣。


「な、なに言ってんだ。そ、それより、その白衣はなんだ?!」


 狼狽したように聞いたヒューイに対してニヤリと笑うとサラリと言ってのけた。


「あ、これ。別に。普通の白衣だよ。ただ、防弾・耐熱・耐冷気・対レーザー加工。おまけに薬品にも強く衝撃もほとんど防ぐことができるだけだ。」


どこが普通だ。


「それと…… ほれっ、これリーナ用の銃。」


 ポケットの中から小振りの銃を取り出すとそれをリーナに放る。外見は簡単に言えばTVの中のヒーローが使うような、いかにも感じのものである。あわててそれを受け取るがそれまでリーナの腕の中にいたスコッチはその拍子に放り出されたような格好になってしまった。空中で一回宙返りして着地すると恨めしそうな目でジェラードに睨む(ように見えた)。


「ええと、その銃はグリップにあるダイヤルを切り替えることによって麻痺銃パラライザー熱線銃ヒートガン衝撃銃ショックガンと使い分けることができる。ま、リーナの腕前ならよほどのことがない限り致命傷にならないし確実に相手の戦闘力を奪うことができる。」


 ここで一息つくとヒューイの顔を見てニヤッと笑う。


「でも、多少のことならヒューイが守ってくれそうだからそいつを使う必要はないと思うがね、そうだろ?」


 ヒューイはそれに対して軽く鼻で笑うと「善処しましょ。」とジェラードの口まねをしてみせた。



 一瞬何かに反応したような素振りを見せるとジェラードが呆れたような表情で武器庫の奥に顔を向けた。ヒューイもジェラードの見た方向から異様な気配を感じた。

 奥から人の足音と言うよりパワードスーツのそれに近いような音が近づいてきた。二人の間に意味もなく緊張が走る。それが現れた。視界にそれの姿をすばやく捉える。


「あら、カイルさんてすごい力持ちなんですね。」


 そこには重機関銃やロケットランチャー、グレネードランチャーに対戦車ミサイル、ショットガンにたっぷりの手榴弾や弾薬等々、様々な火器を体いっぱいに身につけたカイルが体から目に見えるほどの闘気を発して仁王立ちをしていた。


「まあな。」


 リーナの感嘆の声にその全身凶器男は自慢げに答えたその後で少し寂しげに武器庫を振り返る。


「本当はもう少し持って行きたいんだがなあ。」


「そんなにたくさん持っていってどうするんだ?」


「あのなあ、男が武器を持って何をするかって? ヒューイ、そいつは愚問ていうもんだぜ。」


「もういい。」


 思わず頭をかかえるが自分はカイルと同行しなくてもいいということに気づいてそれ以上は考えないことにしようとヒューイは思うのであった。


「あとなんか必要な物はあるか?」


 見た目に何かよく分からないものを白衣のいたるところにしまいこみながらジェラードがヒューイとカイルに尋ねる。


「あ、俺ジェットバイク欲しいな。」


 確か格納庫の隅の方に二、三台転がっていたのを覚えている。


「俺は格納庫にあったあの戦車が使いたいな。」


「ジェットバイクはいいが…… タイガーがねえ……」


〈多分、大丈夫だと思いますよ。データバンクを探っていったらあの基地は昔の戦争の時の兵器工場の跡を改造したものと判明しました。〉


 グリフォンがそう説明すると部屋の壁に備え付けられているディスプレイに画像があらわれる。


〈ここは戦車や戦闘機などの大型の兵器を製造していたところで大部分の通路は完成した戦車などをドックまで輸送するために相当広く造られているようですからタイガーなら十分通れるでしょう。〉


「わかった。それじゃあタイガーの武装を用意してくれ。」


〈博士! 俺を使ってくれるんですか!?〉


「カイルがどうしてもって言うからね。」


〈カイルの旦那、感謝しますぜ。俺っちも暴れたくってウズウズしてたんだ。派手に行きやしょう。〉


「おう。」


 戦車まで持ち出してどうしようと言うんだ。不安と心配が頭の中で手をつないでダンスしているヒューイを慰めてくれるのはリーナの微笑みだけのようだ。諦めて装備のチェックをしながらヒューイは作戦決行を待つことにした。

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