第一話 三十億の賭 第二章
「で、俺達をいきなりこんなところまで連れてきてどうしようっていうんだ。」
ヒューイが憮然とした表情で言った。もうシルバーグリフォンは地球の引力圏をとうに過ぎ今はエンジンを切って慣性航行をしている。
使い古された言い方だが、星々の海をゆったりと泳いでいるようであった。銀色の翼が太陽の光を反射してキラリと光る。
「確かに、なんか話がうますぎるぜ。お前、何を企んでる?」
カイルがヒューイの言葉を続けた。こうは言っているがカイルはグリフォンを気に入り始めているようだ。
「別に、何も企んでいないよ。」
平然とした顔でジェラードは二人の非難を軽く受け流した。厚いレンズの奥の目が笑っている。
「ただ単にグリフォンやその他のメカを使いこなせるような人材が必要になっただけだ。私やリーナが宇宙船や戦闘機を操縦できると思うか?」
「私がヒューイさんやカイルさんと出会ったのなにかしらの縁かもしれません。私からもお願いします。嫌でしたらしばらくで結構ですから博士のわがままにつき合ってもらえませか?」
かわいい女の子にこうまで言われれば二人とも悪い気はしない。諦めたように肩をすくめると正面に向き直った。
「それでようジェラード、お前の自慢の船はどれだけの能力をもってるんだい?一応こいつに命を預けるんだ。知っといたって損はないだろ?」
と言いつつ、ヒューイはこの時点でこの船が尋常ならざる性能を持っているのではないかと予想していた。
「そうだな。リーナ、説明してやってくれ。」
「はい。簡単に説明しますと。」
そう前置きをして、航法士のシートにいる少女は二人の想像を越えたようなデータを読み上げ始める。
「全体的なスペックから言いますと……
この船の装甲は戦艦の主砲クラスの攻撃に耐えることができ、更にシールドをはった状態では衛星兵器の直撃にも耐えられます。
エンジンはイオンジェットエンジンと反重力エンジンを搭載し最大加速力は二〇〇Gほどです。
ワープ機関は通常のものの十倍の出力をもち、連続八回までのワープが可能です。
ジェネレーターは反物質の対消滅反応を利用したもので理論上は半永久的に使用可能です……」
はっきり言ってむちゃくちゃである。
「ちょっと待った。リーナちゃん、そんな冗談はやめてくれ。」
それまで黙って聞いていたヒューイがいきなり後ろを向いた。
「衛星兵器の直撃に耐えられるシールド? 反重力エンジンだ? 反物質ジェネレーターだと。そんなもんどこにあるっていうんだ。」
「残念だがここにある。諦めろ。
リーナ、いいから続けて。」
「はい。武装は主砲が二門、副砲が八門。ビーム砲と実体弾砲の兼用型です。ミサイルの発射孔が上部に二四、下部に一二。対空用のレーザーが一二門。対地用のレーザーが八門。あと、普段は機能を凍結していますが三種類の特殊兵器を搭載しています。そのほかに開発中の兵器もいくつかあります。」
「まさに空飛ぶ凶器だな。しかし、よくこの大きさの船にこんなに積んでいるよなあ。」
カイルが呆れたとも感心したともつかぬような声で呟いた。
「ええと…… それから……」
リーナが更に言葉を続けようとしたときにはさすがに二人とも声を失った。
「艦載機としては、高高度偵察及び対空迎撃機、低空偵察及び対地攻撃機、戦闘用ジェットヘリ、強襲突撃装甲車、整備用の大型トレーラーがあります。」
どうやら四次元ポケットがついに発明されたらしい。それがカイルの率直な感想だった。
リーナがディスプレイから顔を上げるとヒューイもカイルもお手上げといわんばかりに首を振った。
「はっきり言わせてもらえば全く信用できないが、ジョークにしてはタチが悪すぎる。」
ヒューイが一言一言考えるように言った。ただしだ、そう前置きをしてジェラードに問いかけた。
「とてもじゃないが今の科学技術じゃできないシロモノだ、と俺は思う。それじゃあなぜお前がこんな超科学的なものを造れるんだ?」
昔から人間離れした頭脳を持っていた奴だけど、と内心つけ加えた。
「知らん。」
そっけなくジェラードが答える。
「思いついたからしようがない。私だってこの船がオーバーテクノロジークラスのものだってことは十二分に承知している。しかし、ここに存在しているからには平和的利用をしないともったいないじゃないか。そう思ったからお前達に預けようとしてるんだろ。」
「なるほどねえ。」
一通り火器管制のチェックをしたカイルはひとつ背伸びをすると話に割り込んできた。
「そんなことよりこの船の性能が本当なら海賊を簡単にやっつけれそうだな。さっさとワープしてぶっ飛ばしてこようぜ。」
「その前にだ。」
ジェラードがまじめな顔でそう言うとヒューイもカイルもつられたように真剣な顔でジェラードの方を向いた。一瞬、三人の視線が複雑に交差する。
「メシにしよう。リーナ、そろそろ夕飯にしてくれ……って、お前らなにそこでずっこけているんだ?」
「あ、あのなあ。まじめな顔してなに言ってんだ。」
「なにって、お前らおなかすいてないのか。」
「そういう問題か。」
「それに一日二日のんびりしても軍より先に奴らの宙域に行けるって。」
「軍って何のことだ?」
なんだそんなことも知らんのかというような顔をしてジェラードは黙ってキーをうち始める。正面のスクリーンに映る星の海の一部に何かの文字の羅列が現れ、その下にレーダースクリーンらしきものが表示された。
「お前らが任務に失敗してすぐにGUPは犬猿の仲の宇宙軍に例の海賊の討伐を要請したんだ。それで艦隊一つが討伐に出て行ったというわけ。
あちらさんはどう早く見積もっても到着は二日後以降だと思われるが、うちらは半日もあれば着けるからねえ、まあ遅れはとらんでしょ。」
さて、と言ってジェラードが立ち上がって、そして二人についてくるように手招きをした。 さっきリーナが出ていったドアから出ると当然ながら通路に出る。一五〇m級の宇宙船にしては内部は広く感じられる。普通なら通路を作る余裕すらないはずである。
ジェラードは黙々と歩いて行くがヒューイもカイルも物珍しそうに辺りを見回しながら後をついていく。
不意にジェラードが振り向く。
くるっ。
どかっ。
「ジェラード! いきなり振り向くな。びっくりするだろう。」
びっくりするだけならいいものである。そう言いながらも微動だにしていないカイルに比べればモロに百キロ以上もの筋肉にはじかれて吹っ飛んだジェラードの方がずっと災難である。ちなみにヒューイは持ち前の運動神経で難なく身をかわしてなにも問題はなかった。
「あのねえ……」
吹っ飛んだ拍子に床にぶつけた後頭部に手をあてて白衣姿がむっくりと起きあがった。
「お前らの個室の場所を教えとく。ヒューイはここ。カイルはそっち。」
指さす方のドアにはうすく二人の名前が書いてある。
「私の個室があそこ。一応教えとくがリーナの個室がそこだ。一つ言っとくがリーナの部屋のセキュリティはこの船のなかで最高水準を誇っているから妙な気は起こさんほうがいい。」
「んなもん誇らんでいいわ。」
ヒューイが呆れたように言った。ほんの一瞬だが、妙な気を起こしたらどうなるのか、とも考えてみた。
「しかし、専用の個室まであるとは大したもんだねえ。」
「じゃ、次行くか。」
そう言うとさっさとまた歩き始める。少し歩くと大きめのハッチの前についた。おそらく船尾の方であろう。そのハッチには格納庫と書いてある。
ジェラードがハッチ横のパネルに軽く手を触れると音もなくハッチが開く。中を覗くと広めの空間になっていて中に装甲車や戦闘機などが鎮座していた。
「それじゃあ、みんな軽く自己紹介をしてくれ。」
ジェラードが前方の空間に向かってそう声をかけるとその空間の方から声が返ってくる。
〈はい。あたしはMIAIC-002。対地攻撃機ファイヤーロックです。普段はファイヤーと呼んでね。〉
赤い戦闘機が女の声でそう言った。十五mくらいの宇宙戦闘機で、大きく広がった翼はグリフォン同様に大気圏内でも戦闘できることを示しているようだ。
その戦闘機の声に反応するように次々と他のマシンが自己紹介を始めた。
〈あたしはMIAIC-003。対空戦闘機サンダーロックです。サンダーと呼んでください。ファイヤーとは姉妹みたいなモノです。よろしくお願いします。〉
ファイヤーロックと同じ形の青い戦闘機が今度はしゃべった。
二機とも垂直尾翼のところに大きな鳥のシルエットが描いてある。ジェラードの話だと空想上の鳥であるロック鳥ということだ。
〈僕はMIAIC-004。戦闘用ジェットヘリ、ブラックホーネットです。宇宙では役に立ちませんが地上では僕の活躍を見せれると思います。よろしくお願いします。〉
黒いジェットヘリがそう挨拶した。
鋭角的でシンプルなデザインで、武装は機首のところにあるガトリングガンだけのようである。見える範囲のことだが。
〈俺はMIAIC-005。強襲突撃装甲車ランドタイガーだ。よろしくな兄弟。〉
重厚なボディーを持つ装甲車がそこにあった。上に搭載されている二門の大砲がいかにも力強そうである。
〈なんだ、またお主らか。さっき会ったから覚えているじゃろうが、儂がグレイエレファントじゃ。〉
大型トレーラーが声に合わせてライトを点滅させた。
いま改めてみると、トレーラーもコンテナも装甲が非常に固そうである。こんなものに体当たりされた日には木っ端微塵に吹き飛ばされるにに違いない。
〈私がMIAIC-007。高速ホイールカー、ダッシュパンサーです。普段はグレイのコンテナの中にいるので使いたいときはお気軽にどうぞ。〉
グレイの中から黄色いスポーツカータイプのホイールカーが一台出てきた。なかなかに速そうなスタイルをしている。
ヒューイもカイルも思わず点目になってその6台のマシンがしゃべるのをみていた。
「こ、これってお前の趣味か?」
どういう趣味だ。
「んな訳ないだろ。あくまでもパイロットの補佐の為に人工知能コンピューターを積んだに過ぎないはずだったが……」
「はずだったが?」
まさにおそるおそるとカイルが聞いた。
「補佐どころかパイロットの代わりも平気でできるようになってしまったっていうわけだ。ま、プロのパイロット以上の腕を持ってる訳ではないがな。」
「良かった。俺以上の腕を持っていたら俺の存在価値が無くなってしまうとこだからなあ。」
ヒューイは心底ホッとした顔をした。
〈博士、食事の支度ができたそうです。〉
グリフォンの声が格納庫の中に響いた。メシか、ジェラードはそう呟くとさあ行こうと二人を呼んでリビングルームに案内した。
「ほう!」
カイルが感嘆の声を上げた。広めのリビングの中のテーブルにはまさに沢山のおいしそうな料理が並んでいた。みんなリーナの手料理のようである。ここでにぎやかな食事風景をこと細かく描写してもいいんだが書いたとしても作者も読者もリーナの手料理を味わえるわけじゃあないので省略して食事が終わったことにしよう。(まー、なんてご都合なんでしょ。)
「いやあ、うまかった。リーナちゃん、料理上手だねえ。」
食後のコーヒーを飲みながらヒューイがリーナの腕を褒めていた。
「ほんと、何十年ぶりかなあ、こんなうまいメシ食ったの。」
カイルも大満足したように言った。
「い、いえ、それほどでも……」
二人に褒められたのが恥ずかしいようにリーナは赤くなって顔を伏せてしまった。その様子を見上げてスコッチが不思議そうな顔をする。そんなやりとりを見てジェラードはまさにフフンとばかり鼻で笑った。そこへ出し抜けにグリフォンのアナウンスが入る。
〈ワープ可能宙域に入ったのでただ今よりワープに入ります。〉
光速を越えて移動するための手段の一つワープ航法は重力に影響されるためある程度惑星を離れるか重力のつり合っているところに行かなくては使用できない。それでもグリフォンは一般の船に比べればずっと惑星に近いところでワープが可能である。
また、ワープの際には普通は強烈なショックが船や船内にかかるので耐Gシートにいてそのショックに耐えなくてはならないのだが……
「ああ、さっさと行ってくれ。」
ジェラードが相変わらずそっけなくグリフォンに言う。
「ちょっと待て、こんなとこにいたらワープインのショックに耐えられないんじゃあ……」
ヒューイの声もグリフォンのアナウンスに遮られた。
〈ワープインまで後十秒、カウントを始めます。5、4、3、2、1、ワープイン。
ワープフィールドに入りました。〉
船内に強烈なショックがかかる。
おや? かからない。ジェラードもリーナも慌てず騒がず黙ってコーヒーを飲んでいる。
「あれ?」
「変だな。」
思わず椅子にしっかりとしがみついていたヒューイもカイルも拍子抜けしたように座りなおした。
テーブルの上のコーヒーカップの中身に軽くさざなみが起こる程度の揺れしか無い。
よくわからないがグリフォンのワープ機関はワープ時の衝撃がほとんど起こらないようにできているようだ。
「すまねえが何かあるときは事前に言ってくれよな。一回一回驚いていちゃあ、俺だって体が保たねぇ。」
「善処しましょう。」
カイルの不平をジェラードはさらりと受け流す。そうして残ったコーヒーを一気に飲み込むと立ち上がった。
「というわけで私は読みたい本があるんで部屋に戻る。後わからんことがあったらリーナかグリフォンに聞いてくれ。」
そう言うとジェラードは白衣をひるがえし、さっさとリビングを出て行った。リーナはスコッチと一緒に食器をもって(スコッチは当然ながら食器を持っていない)リビングの隣にあるキッチンに入っていって食器洗いを始める。皿のふれあう音とリーナの鼻歌がリビングまで聞こえてくる。
「さて、どうしましょうねえ。」
カイルがその巨体に似合ったオーバーアクションをくわえてヒューイに話しかける。ヒューイは考えるようなそぶりを見せた。
「とにかくさあ難しいことはコルツをとっつかまえてからにして、さしあったっては海賊どもをどうあしらうか考えようぜ。な、ヒューイ。」
ヒューイが黙っていたのでカイルはここぞばかりに身を乗り出して説得しようとしゃべり続けた。
「俺は実はこんな船が欲しかったんだ。この戦艦並の攻撃力、本当ならなんともいいじゃありませんか。GUPの支給してくれるやつは確かにタダでいいが、やっぱりパワーに欠けるからなあ。さっきジェラードも言ってたじゃないか『人材が必要になった』って、うまくいきゃあこいつがずっと俺達のモノになるんだぜ。」
それでも無言。何を考えているのだろうか。
しょうがない。こういうことは言いたくなかったが、と心の中で前置きをしてカイルはヒューイに聞こえるか聞こえない程の声で囁く。長年のつきあいはお互いの弱点を熟知できるほどである。
「あのリーナって娘、お前のタイプだろう。」
「おい! カイル。」
ヒューイはキッチンのリーナに聞こえないように気をつけながら語気をあらくしてカイルにつめよった。
「最近、ああいう性格も見た目もいい女の子って珍しいよなあ。」
まるで聞こえなかったかのように素知らぬふりをして一人うなずく。
「俺は別に…」
「しかし、あいつの話だと一緒に住んでるみたいだし、ホントにただの所長と助手の仲なのかなあ。他に研究員らしい人はいなかったようだし……」
バン! とテーブルをたたいてヒューイがゆっくりと立ち上がった。
肩が小刻みに震えている。そして上目遣いにカイルを睨みながら地獄の底から絞り出すような声で言った。
「あのなあ、カイル。俺はそういう……」
「どうかなされたんですか?」
リーナがまさに天使か女神のような(飽くまでもヒューイの評価ではあるが、それを差し引いてもリーナの容姿は最上クラスのモノである。)微笑みを浮かべてそんな二人の様子を眺めていた。そのまま身につけていたエプロンを外して二人の隣に座った。その微笑みがしばしの間、二人の動きを止めた。
「あ、そうだ。グリフォンに聞きたいことがあったんだ。それじゃあな。」
硬直がとけたカイルはそれだけ言うとヒューイの制止の声も聞かずにリビングを出ていってしまった。二メートルの大男が去った後にはヒューイとリーナの二人が残された。
ひゅるるるるー。
つむじ風でも吹いたのではないかと思わせるようなスピードだった、と後にリーナがジェラードに語っていた。
「どっか行ってしまいましたね。」
「ああ。」
半分呆然として答えながらもヒューイは内心焦っていた。何でか知らないが緊張しているのだ。普段なら女の子、特にリーナのようにかわいい娘の前ならスラスラと言葉が出るはずなのにと、そこそこ女性経験のあるヒューイは不思議な感情に支配されつつあった。
うーむ、いかん。何かしゃべって気持ちを落ちつかせねば。
「いやー、そういえば今日は天気がいいねえ。」
「は?」
リーナが小首を傾げてヒューイの顔をのぞき込む。しまった、宇宙に天気などない。話題を変えなくては。
「そ、そういえば、リーナちゃんていくつ?」
「いくつって言いますと?」
「だから年はいくつかっていうこと。」
「ああ、そうですか。ええと、確か明日で…」
「へえ、あした誕生日なんだ。」
よし、ペースが戻ってきたぞ。
「いえ違います。明日で三カ月なんです。」
ここでヒューイが椅子ごと転ぶS・Eが入る。
「い、今、なんて言った?」
〈リーナさん! そういうことはあまり口外するなって博士がいつも言ってたじゃないですか。〉
グリフォンの声が突如リビングに流れる。それを聞いてリーナが不思議そうな顔をする。
「え? そうなんですか?」
そうなんです。とグリフォンは困ったようにぼやいた。
「おい、グリフォン。いったいぜんたいどういうことなんだ。分かりやすく説明してくれ。」
壁に埋め込まれているスピーカーからため息のような音がもれるとしょうがないといわんばかりにしゃべり始めた。
〈一つだけ約束してください。リーナさんと博士の両方、特にリーナさんに危害がおよぶ可能性がありますのでこのことは絶対口外しないでください。〉
「保証はできないが約束しよう。」
今一つ安心できないことを言う。
〈まあいいでしょう。実はリーナさんは博士の造った人工生命体なんです。当然、今の技術では不可能なほど完成されたものです。
人工生命体といいましてもただ単に遺伝子を合成してそれを元に急速培養したもので、ほんの三カ月前に培養カプセルから出されました。両親がいないのと成長の過程が少々違うだけで構造的には全く人間とかわりないのです。わかりましたか?〉
「なら別にいいじゃん。」
〈は?〉
「人間なんでしょリーナちゃんは。なんの問題がある?」
「そうそう、俺達から言わせればジェラードの方がずっと人間離れをしている。」
ドアが開いてカイルが入ってきた。そのときスピーカーから激しいノイズが流れた。どうやら相当びっくりしたらしい。
〈カ、カイルさんまで…! ああ、博士に知られたらどうしよう……〉
「いつかは知ることだ。気に病むことはない。」
〈は、博士……っ!〉
更に激しいノイズが流れるとそのままグリフォンは沈黙してしまった。
「ショックで気絶でもしたかなあ……」
グリフォンの予想以上の反応にジェラードは思わず苦い顔をする。
「しょうがないちょっと見てくるか。すまんがリーナも来てくれ。」
そうつぶやいて、リーナを連れリビングを出ようとした。ふと思い出してカイルの方を振り返る。
「悪かったなあ、人間離れして。」
「せっかく俺が二人っきりにしてやったのに色気のない話ばっかりしやがって。」
大男が優男の向かいに腰掛ける。
「誰がそんなことしてくれと頼んだ?」
「長いつき合いだ。言わなくとも俺には分かる。お前と俺の仲じゃないか。」
胸に手をあて大きくうなずく。
「それでお前は外で立ち聞きか。」
「人聞きが悪いなあ。俺はただ道に迷って歩き回っていたらふと話し声が聞こえる。おや、何だろうと思って聞いていたらさっきの話だった。と、いうわけさ。」
そうきっぱりと言いきると思いだしたかのように欠伸をする。二人とも海賊の相手をしていたためにここ数日、睡眠時間を大幅に削らされていたのだ。
「と言うわけで俺は寝る。」
そう話を強引に打ち切り、カイルが眠そうな顔でさっさと行ってしまった。色々言いたいこともあったが睡魔には勝てずヒューイもリビングを出て与えられた自分の個室に入っていった。
グリフォンの気付けも終わり、ジェラードとリーナも自分の個室へと戻っていった。誰もいないコクピットの中でグリフォンがその日の最後のチェックを終えようとしていた。
〈ワープアウトによる船体への影響は無し。速度このままで慣性航行をおこなう。反重力エンジン停止。ジェネレーター出力、最小限に。レーダーは警戒モードに変更。オートチェックすべてよし。
これよりMIAIC-001シルバーグリフォンは翌日六時まで睡眠状態に入る。と、言うわけで私も寝るか。なんか疲れる一日だったな……。
Good‐Night。〉
その声が途切れるとわずかに残ったコクピットの明かりがゆっくりと闇と同化していく。シルバーグリフォンは漆黒の宇宙の中を星明かりに照らされて浮かんでいた。