ドミトリー・ブディンスキー国王
最終回です。
本当にやりおった、あの娘。
バートレット公爵家の国と王家に対する忠誠心を改めて感じ、そして我が息子の不甲斐無さを呪った。
アイリーン・バートレット公爵令嬢。
初めて会った時は、我儘な貴族令嬢そのものという感じの娘だった。
しかし、息子ラディスラフ・ブディンスキーが池に突き落としたことの謝罪に行った時には、その時の印象が真逆のものとなった。
その瞳は、国と王家に忠誠を誓う意志の強い瞳。
そして、彼女は俄かに信じられないことを話しだした。
「第一王子ラディスラフ・ブディンスキーと自分の両親と弟は、国と王家にとって害にしかならないから見限ろう」と。
彼女自身が提案した作戦は、失敗すれば彼女自身の命を脅かすもの。
先王とバートレット公爵前当主は、それを聞いてそれはそれは嬉しそうに笑った。
先王は、「やはりバートレットの子だな」と頬を緩め、
バートレット公爵前当主は、「さすが我が孫だ」と褒める始末。
バートレット公爵現当主の私の印象は、先代の実績を笠に権力を振るう目の上のたんこぶ。頭痛の種だった。
今のアイリーン・バートレット嬢は、違うと断言できる。
自分自身の危険を顧みず、国に害をもたらす者の排除をする決意をする姿は、幼き日に父から語り聞いた五家の人間そのもの。
私の学友であるセリノ・バルリエントスのあの日の姿とも重なった。
彼も、国と王家のために親兄弟を見限った一人なのだ
しかし、私の息子もその対象範囲内と言われて躊躇ってしまった。
先王とバートレット公爵前当主が、私を説得しようとするのだが、私は「まだ子どもなのだから、これから見極めてはどうか?」と提案した。
先王は「そんなことも分からないのか...」と呆れて溜息を吐き、バートレット公爵前当主は「仕方ないですね」と苦笑した。
バートレット公爵前当主は、私の息子が処分の対象にならないようにしっかり教育を施すこと、期限までに一定の条件を満たさねば処分対象にすることを私に約束させ、先王をこれから説得してくれると言った。
先王も、バートレット公爵前当主の言葉なら耳を貸すだろう。
なんといっても、国の混乱期をともにした仲間なのだから。
五家とは、バートレット公爵家・バッハシュタイン公爵家・バティーニュ公爵家・バルドヴィーノ公爵家・バルリエントス公爵家のこと。
忠誠を誓うは家ではなく、国や王家そして領民。
家を存続させるのを重視するのではなく、危険分子がその血筋に生まれれば、決して血筋を残すことはしない。
然るべき子供を見つけ出し、公爵家を継がせるための教育を行う。
現在の五家は、初代の血を受け継いでいる者は存在しない。
これは家に生まれた、危険分子を排除し続けた結果だ。
五家の家名は、己が役目を果たす鎖になっているのも同然。
それに彼らはある意味、特別扱いされている。
条件を満たせば、この世界では禁じられている『同性婚』しか許されないことだ。
これは、自分に流れる血を絶対に残さないという決意の表れ。
その条件とは、親兄弟の中に危険分子がいれば見限ること。
この五家は、危険分子を異様に嫌悪している。
国に尽くすという考えを持っていれば、それも当然か。
実に、アイリーン・バートレット嬢は人を欺くのがうまかった。
今まで通りに我儘に振舞い、本当の目的を隠す。
その間に、五家の手の者たちが必要な物の情報を入手する。
彼女は、自分自身が周りに与える印象や影響を隠れ蓑にしたのだ。
そして、とうとう恐れていた事態が起きた。
我が息子が、王家の権力を利用し、第一王子派の貴族を抱き込み、アイリーン・バートレット嬢をやってもいない罪を仕立て上げて断罪したのだ。
息子は、アイリーン・バートレット嬢が婚約者のままだと思い込んでいるのだがそれは違う。息子が彼女を池に突き落としたことを私が彼女に謝罪した日に婚約自体をなかったことにしたのだ。表向きは婚約者のままだったが。それを息子に伝えたはずだが、奴はそれをきれいサッパリ忘れていたらしい。
息子と第一王子派の貴族が作り上げた、アイリーン・バートレット嬢の罪状とその罪の証拠を見たのだが、これで私が騙せるなどと馬鹿にしているにもほどがある。
息子は、思い人であるメリア・エモニエ侯爵令嬢と結婚する気でいるのだが、彼女が息子のことをどうとも思っていないことは誰の目から見ても明らかである。奴はメリア・エモニエ侯爵令嬢が自分のことを好きだと思い込んでいるらしいが、どこに自分のことを好きだと思い込む要素があったのだろうか? 報告によれば、メリア・エモニエ侯爵令嬢は一切そのようなそぶりを見せていないらしい。
奴の目は節穴か!
次に側近から、息子がアイリーン・バートレット嬢を地下牢に監禁していることを告げられた時は、あの時に奴を見限らなかったことを心底後悔した。「あの女の処罰の準備をする!」と意気揚々と言っていたらしい。
私はこれから、正妃に息子である第一王子ラディスラフ・ブディンスキーを処罰することへの説得に入る。
正妃である妻も、国に仕えることを第一に考える聡明な女性だ。
妻は、アイリーン・バートレット嬢を地下牢に監禁することに心を痛め、息子への処罰もそれが妥当だと納得してくれた。
何よりも、馬鹿息子がアイリーン・バートレット嬢を地下牢に監禁とは彼女に申し訳がなさすぎる。父親としては、土下座したいくらいだ。
私と妻たちが、アイリーン・バートレット嬢を地下牢に監禁されていることを苦悩する中、妻たち曰く恋愛小説みたいな急展開なことが起きた。
アイリーン・バートレット嬢を地下牢から、メリア・エモニエ侯爵令嬢が救いだしたのだ。
どこからどこがそうなったとツッコミそうになる展開だ。
そんな要素がどこにあったのだ!?
どのような接点が!?
私は混乱した。
私にされる報告の中には、そんなものはなかったぞ!
翌日、バートレット公爵家執事のアルバートからアイリーン・バートレット嬢とメリア・エモニエ侯爵令嬢が婚約し、その次の日に結婚することを報告された。
なんという早すぎる展開。
貴族にとって、結婚式を挙げるって大事だよね!?
なんで、そんな早く準備できるんだ!?
女性って、準備に手間がかかるものだろ!?
妻たちはすでに準備ができている。
私だけ蚊帳の外だと!?
ん? 私の学友であるセリノ・バルリエントスがアイリーン・バートレット嬢が地下牢から脱出したその日に知られてくれたからだと!
たまたま城に来ていたセリノに「なんでお前は私に教えてくれない」と詰め寄ると、「お前の反応が面白いから★」と言われた。
学生時代に、アイツは私でさんざん遊んだのだ。
アイツは、身分に関係なく皆が私に接するように気を使ってくれたを知っているが方法はトラウマものだ。
馬鹿息子第一王子ラディスラフ・ブディンスキーに処罰を告げる。
これから、元第一王子ラディスラフ・ブディンスキーに元第一王子派の貴族たちと一緒にした不正を詳しく奴の前で説明する。
それで、反省が見られれば自害、反省がなければ公衆の面前での処罰(死刑)にする。
案の定というか予想通りというか、奴は自分が犯した罪を認めない。
それどころか、アイリーン・バートレット嬢を口汚く罵り、彼女に罪をなすりつけようとする。
煩く喚きたてるだけだ。
元第一王子派の貴族たちが罪を認めて処罰されているのを見ても、奴は一向に考えを改めようとしない。
私は国王として、そして最後に父の情けとして、元息子の罪状を告げ、公衆の面前で処罰した。
他の兄弟たちと同様に王族としての教育を施したのに、なぜあの息子だけがあのようになってしまったのだろう。
私は一体何を間違えたのだろうか_____________




