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メリア・エモニエ侯爵令嬢

俺が欲しいと願うのは、『あの子』ただ一人だけ____



前世の俺は、それなりにもてていた。

特別なのは、『あの子』だけだった。

執着したのは、『あの子』だけだった。

俺が、『あの子』にプロポーズをO.K.してもらって幸せ絶頂の時に、俺をストーカーしている女が、隣にいる『あの子』を刺殺した。

『あの子』からどんどん奪われていく体温と血液。

俺はただ『あの子』を抱きしめて、すべてに絶望して泣くだけだった。


そして気が付けば、『女』に転生していた。

この時の絶望と驚きは言葉で言い表すことができない。

よりにもよって、前世とは性別が逆に転生していたなんて。

なによりも、『あの子』がいない世界で俺に生きろと言うのか?

残酷すぎる。

俺は、来る日も来る日もこの世界に俺を転生させた『モノ』を呪った。

何もかも投げやりになっていた俺は、貴族の家に生まれたからと言って親のいいなりに淑女教育を受けた。

例え女として生まれても、女であることに違和感を感じる。

前世を思い出したせいで、まだ幼い人格が前世に引き摺られてしまったせいだろう。

なら、することは一つしかない。

男が習う貴族教育を受けることだ。

興味があるとか何とか言って、両親を言いくるめて習った。

女の貴族教育、男の貴族教育を習得した俺は、社交界などの人が集まる場所で、女には紳士的な態度で、男には淑女な態度で対応した。

するとどうだろう。

女にも、男にももててしまった。

両親と弟は頭を抱え、兄と姉と妹は笑死にするんじゃないかと思うほどの大爆笑。

最愛の『あの子』がいないんだから、そのぐらいのストレス発散は許されるだろう。

そんな時に、気を抜いたのが悪かったのか、気持ち悪いくらいに顔の整った男第一王子のラディスラフ・ブディンスキーに声をかけられた。

当たり障りの対応をしたのだが、それ以降はストーカーのように付き纏われた。

そのイライラは、兄と弟に剣術の訓練と称して向けてやった。

兄と弟は涙目で土下座し、「もう、めてくれ」と言ってきた。

俺はそれでもめず、スッキリするまでした。


第一王子に付き纏われてイライラで周りに八つ当たりしそうになった日のこと、愛おしくてたまらない『あの子』にやっと会えた。

俺は、この世界に転生できたことを感謝した。

二度と触れると思わなかった、手・足・唇、それに柔らかい体。髪の匂い、体の匂い。

今すぐ、キスをして抱き締めたかったが、前世とは性別が逆だから『あの子』を驚かせてしまうかもしれない。

グッと我慢した。

今の『あの子』の名前は、アイリーン・バートレット。

なんて、甘美な響きなのだろう。

名前自体に甘さを感じる。

正直、あの気持ち悪い王子は生理的嫌悪しか感じないが、アイリーンに近づくための踏み台くらいにはなるだろう。

アイリーンは、俺に近づく王子を見ると心底見下した目で王子を見ていた。そして、さっとその場を離れた。


その様子を見ていた姉に、アイリーンが好きなのかとからかわれた。

そして、国と王家に狂信的な忠誠を誓う五家なら同性婚が可能だと言われた。

確かに、家庭教師からあの五家は特別に国から同性婚が許されていると習った。

もし、五家の中の誰かが家族を見限れば、見限った本人と同性の相手と結婚すると。自分に流れる血を残さないために。

あの五家は、国や王家のためなら躊躇わずに自分の血を絶やすと。

もし、アイリーンが家族を見限っていれば俺の物にできるかもしれない。


俺に纏わりつく気持ち悪い王子が、とうとう信じられないことをした。

日頃から、俺のためと称して思うままに権力を振るう馬鹿王子が。

俺と結婚したいがために、やってもいない罪状でアイリーンを断罪したのだ。

目の前が真っ暗になった。

『あの子』と同じようにまた、俺はアイリーンを失ってしまうのか?

そんなの許せるはずがない。

だが、あの気持ち悪い王子はアイリーンを殺すためなら、俺の言葉を聞きいれるはずがない。

アイリーンは彼女自身が俺に嫌がらせをするが、他の奴らが俺に嫌がらせをしようとすると、手をまわして俺に被害が行かないようにしてくれている。

俺はあの気持ち悪い王子のお気に入りという立場を盾にして、アイリーンが監禁されている地下牢に行った。

彼女は驚いて俺を見ると、俺の前世を覚えているようで嬉しそうに泣き笑いした。

これは、彼女が国と王家を思うあまりにした気持ち悪い王子とその周辺貴族を陥れるためにした作戦。

国と王家にとって、害をなすものを排除するための。

アイリーンは、自分がこの状況を脱するための方法を俺に託した。

そして、俺は彼女に「必ず助けるから、待っていろ」と牢の柵の隙間からそのか細い手を握り締めながら言った。


彼女の指示した場所の屋敷に行き、バートレット公爵家の執事アルバートにあった。

彼女に手渡された首飾りを渡すと、アルバートは数人の男たちを招集した。

そこからは早かった。

何をしているのか分からないが、矢が飛ぶような速さで彼らは行動を開始した。

アルバートに、すべて終わるまでここに滞在していて下さいと言われている。


数日後、アルバートにすべて終わったことを告げられた。

その間、何が起こっているのか分からないままイライラしていたら屋敷で働くメイドさんに宥められたが。

そして、アイリーンを迎えに行った。

地下牢の警備の兵たちには、眠り薬入りの食べ物と飲み物を振舞った。

女だと油断して、警戒せずに受け取りそれらを食べたり飲んだりし始めた。

俺は、頃合いになると警備兵からくすねた地下牢の鍵でアイリーンの地下牢の扉を開けた。

俺たちが、地上に出ると騎士や警備兵が待ち構えていた。

しかし、それは俺の敵ではない。

日頃から、兼の腕がいいと評判の兄と弟と打ち合いをしているからだ。

彼らは、兄と弟の腕に劣る。

俺はあっという間に、彼らを負かすと馬に乗り、ここからアイリーンを連れ去った。


あの屋敷にアイリーンを連れて戻ると、屋敷の者たちは感極まって泣き崩れていた。

どうやら、アイリーンはここの人たちに好かれているらしい。

俺がアイリーンの髪の柔らかさを手に埋めて堪能していると、彼女はそれを引き離し、俺と結婚することを宣言した。

『あの子』は、やっぱり相変わらずだなと思った。

アルバートや数名の男たちはやっぱりなという顔をしていた。

後から聞いた話、アイリーンが家族を見限った日にこうなることは、バートレット公爵家に仕える者たちは全員が確信していたらしい。


翌日、俺はエモニエ家に戻ってアイリーンと結婚することを家族に告げた。

両親と弟は頭を抱え、兄と姉と妹はやっぱりこうなったと大爆笑。

弟が、「本当に五家って、同性婚できるんだ...」と遠い目をして呟いていた。

最終的に、両親はバートレット公爵家と『つながり』が持てると言うこと無理矢理ながらも納得してくれた。



俺は、バートレット公爵家の仕事をアイリーンと共にし、愛する『あの子』を腕の中に抱きしめて幸せを感じる。

そして、アイリーンを気に入った俺の家族たちが邪魔をして、俺をキレさせる。それを微笑ましく見守る、バートレット公爵家に仕える者たち。

それが、俺の愛する日常です。

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