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アキラと奈美の都市伝説

 バイトが休みなのに、いつも通りの時間に起きてしまったアキラは目玉焼きを焼いていた。

起きた時にリビングには潰れた菓子箱と一万円札が散乱していた。

昨日の帰宅時にグシャリと踏み潰してしまった箱を、なんとか形を整え一万円札を箱の中に入れた。

電気も点けず、夢中で奈美を抱きかかえ寝室になだれ込んでしまったので、リビングの様子は今朝知ったのだった。

菓子箱の蓋を拾い上げて、蓋の裏に小さく書いてある奈美の文字が目に留まった。


「アキラと奈美の未来のために」


 守銭奴の正体を見た途端にアキラは泣きそうになったが、鼻をすすって我慢をした。


昨夜の幸せな時間を思い返しアキラは父親に感謝した。そもそも、帰宅があんな時間になったのは、実家の母親からのメールだった。

(父さんが救急車で運ばれたの、すぐ帰って来て)

コンビニのユニフォームを脱ぎながらメールを見たアキラは、店を飛び出し実家に向かった。


何の事は無い、ただのぎっくり腰だったのだが、畑で倒れて唸っている父親を発見した近所のおばさんが慌てて救急車を呼んでしまい、慌てた母親が病状の確認をせずメールを送ってしまったのだった。

病院から父親も直ぐに家に戻り、せっかく帰宅したんだから夕飯を食べていきなとか、風呂も入っていきなとか久しぶりに帰ってきた息子を両親は引き止め、アキラは最終電車でアパートに帰宅したのだった。



奈美も早めに起きて来てリビングから台所に向かって「おはよう」と声を掛けた。


「朝ごはん、すぐ出来るからね。座って待ってて」


 アキラがトレーに二人分の目玉焼きとトーストとコーヒーをリビングのテーブルに置くと、奈美は箱に手を置いた。


「これ、片付けてくれたんだ? ありがとう」


 奈美はそう言うと頬が染まった。恥ずかしそうな奈美を初めて見たアキラは、なんて可愛いんだと、このまま抱きかかえて布団に直行したい気持ちをなんとか押さえた。


「朝ご飯早く食べよう、奈美ちゃんに見せたいものがあるから」


 アキラは「はい」と奈美にトーストを手渡した。

照れと嬉しさが混ざった朝食の時間が終わり、アキラは寝室から抱き枕を持ってきた。

奈美ちゃん見ててねと横のファスナー部分を開け、カバーから中身のクッションを引き出した。

クッションと一緒にパラパラと落ちてきたのは、二十万以上あるだろうか一万円札だった。


「アキラ……それ、どうしたの?」


「バイト代と、まじないの僕の取り分を貯めたんだ。僕はあんま稼ぎが無いからさ、節約しか出来ないんだけど、小遣いもあんま要らないし、だからね小遣い以外は貯めておいたんだ。

このお金その箱に一緒に入れてくれないかな?」


「大好き!」と言って奈美が飛びついて来た。


「え? お金が?」

「もう、違うわよ! わかってるくせにアキラが好きなの」


「奈美ちゃん、もういっかい言って!」


「残念でした。仕事に行く時間ですっ」


 この日からアキラはかねてより念願だった、いってらっしゃいとお帰りなさいのキスを、玄関先で出来るようになったのだった。



*************




アキラと奈美が同棲(同居)して一年が過ぎた。


喫茶『わかば』の店内では、緑子がノートパソコンを開いていた。

学園祭で発表するオカルトサークルの都市伝説実証ホームページを作成しているのだ。


「出来ましたわ、聖也くん。どうかしら?」


 書き出しはこうである。


 最近、独身男性の間で囁かれている都市伝説があるのを貴方はご存知だろうか?成功率九九.八%で女にモテるというのだ……………………但し料金は一万五千円。

そこのモテない君、この都市伝説を信じますか?


油大福は店内の飾りつけの手を休めパソコンを覗き込んだ。


「良く出来てるよ、この0.二%は緑子ちゃんでしょ?」


「そうですのよ、でもわたくし達、結局仲良くなってしまいましたので百%でもいいのですけど、この方が信憑性が高まりますわ」


「男嫌いも克服できましたって書いておけば?」


 声を掛けたのは長い手で壁の上部に紙で作った花を貼りつけているアメンボ拓海だ、脇で花を手渡している彼女もいる。


「いやですわ、わたくし男はまだ嫌いですわよ、聖也くんは特別なんですの」


「ヒュー、ご馳走様!」



「さあ、こっちも飾り付け出来上がったよ」


 やはり彼女に手伝ってもらいながら更に高い位置を、飾り付けしていたミズカマキリ淳が椅子から降りた。

正面には造花で縁どられた、ヒロさん真理子さんご結婚おめでとうの文字があった。


ドアベルが鳴る。けたたましい靴音と大きな声で『わかば』に入ってきたのは、薬屋のさっちゃんだ。


「ハーッ、よかったまだ来てないね、間に合ったあ! 二次会会場らしく綺麗に飾り付けしたねー!」


 そして店内の面々を見回し、不服そうに大声で独り言を言った。


「なんだい? みんなカップルじゃないか、お古の彼氏でもいいからお父さんも連れてくればよっかったなあ」


「おばさま、そんな事より、クラッカーのスタンバイですわ披露宴会場からこちらに着く頃ですわよ!


……ああ、来たようですわ!!」



 幸福な二人と、幸せのおこぼれをお腹いっぱい頂いた一団が店内に溢れた。

アキラ、奈美、静江、源の姿も見える。


『わかば』の店内にクラッカーが鳴り響く!

おめでとうの声は狭い路地に漏れ、通りかかった人は、こんな寂れた路地で何事かと足を止める。


『わかば』の入口には絵の筋が良い?静江お手製のクマちゃんウエルカムボードに『本日愛の貸切』と

書いてあり、中ではどんな愛の物語が繰り広げられているのだろうか?と道行く人は想像を逞しくさせるのだった。




************



「おかえりー、奈美ちゃん」

「ただいま、アキラー、仕事入ったわよ!」


 その前にキス……


「えー、嫌だよ、僕もう男に抱きつくの辞めたいんだけどなあ。どうせ抱きつくなら奈美ちゃんがいいよー」


 そして、ハグ……


「アキラは一回抱きつくだけで、五千円貰えるんだから割りがいいでしょ?」


 これでいい、自分の負けが前提の会話が僕たちのリズムなんだと、アキラは奈美を抱く手に力を込める。


「僕は、奈美ちゃんと一緒にいられればいいんだから、いくらでもいいよ」


 ただ以前と違うのは、そのリズムに優しく甘い旋律が混ざるようになったこと……。


「ずっと一緒にいたいから、稼ごうねアキラちゃん! ……大好きよ」


「奈美ちゃん最後のところ、もういっかい言って!」


 奈美がニッコリ笑いアキラの首に両腕を回し、少し長めのキスをした。


完全にアキラの敗北だった。





 都市伝説は、時間と共に伝わりながら姿を変える。


「ねえねえ、知ってる? モテない男と付き合うとお金にも困らないし、幸せになれるそうよ!」


「なに、それー? 可笑しくない?」


 そこの彼氏のいない貴女、この都市伝説を信じますか?








 読んでくださって、ありがとうございました。

私は本気でモテない位の男と一緒になった方が幸せになると思っています。

周りを見てもモテる男の奥様は、くっついたり離れたり心の休まる日がございません。

穏やかな家庭生活を望むのならば、是非、モテない男はいかがでしょうか?

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