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アキラ反応する

 アキラはまじない部屋に入ると少しだけホットしたと同時にガッカリでもあった。

緑子は事前に準備していたのだろう、下着はランニングタイプだったのだ。


「薄いものなら効果はあるんだったわよね、居酒屋の熊さんがそうだったものねアキラ……」


「そうだね、露出部分も多いし、だ、大丈夫だね」


 緑子を見ると青い顔をして何かを呟いている。


「さあ、料金もいただいたわ、始めましょう! アキラお願い」


 わかったよ、奈美ちゃんとアキラは覚悟を決め上半身裸になった。

緑子は小さく「キャ」っと言い、両手で目を覆い指の隙間からアキラを覗いた。


「ああ、アキラさん体毛が少なくて良かったです……濃かったら耐えられないです……大丈夫、大丈夫、わ、わたくしファイトです。大丈夫、……」


 呟き続ける緑子を見たアキラは、一緒になって、これは仕事なんだ大丈夫、大丈夫、僕もファイトと心の中で呟くのだった。

緑子の前に立ったアキラだったが、どうやって抱きついたらいいのか分からない。緑子は両手を胸の前でクロスし呟きながらガタガタと震えている。

それはツインテールが揺れるほどで、罪悪感で一杯になったアキラだった。


奈美は声を出さずに口の動きでそれと分かるように「いきなさいよ!」と顎をしゃくっていた。


もう、ヤケクソだとガバっと肩に正面から覆いかぶさった。


「キャ! や、やっぱりダメですわっ!! 止めてください!!」


 アキラは凄い力で突き飛ばされアキラは尻もちを着いた。


「しょうがないわね、じゃあ、まず、片腕ずつね」


 奈美も手伝い緑子の腕を取り、目を閉じて耐えている緑子の両腕にアキラの身体を擦りつけた。


「今度は背中ね、背中なら大丈夫でしょう? 緑子さん? 女にモテたければアキラに抱きつかれなさいよ!」


 いつもの決まり文句は、何倍も優しく聞こえた。


「は、はいお姉さま、がんばりますので、お願いします」


 奈美は緑子の正面に回り、緑子の両肩を押さえた。


「急いでやっちゃいましょう、アキラお願い」


 急いでだね、奈美ちゃんわかったよ、と後ろに回り込みアキラは目をつぶりがむしゃらに上半身を緑子の背中に擦りつけた。


……甘い香りがした。ベリー系の甘酸っぱい香りがアキラの脳をくすぐり、女の子って背中でも柔らかいんだなあと思ったら、今度はアキラが大丈夫ではなかった。


(あわわわわっ、ま!まずい……)


 再び緑子が叫んだ。


「ギャーーッ! この固いのなんですのー!?」


「ん? アキラッ!!」


 奈美が凄い力で緑子からアキラを引きはがし、再度尻もちを着いたアキラはそのまま膝を抱え縮こまった。


「ご、ごめんなさーい、わ、わざとじゃないんですっ……自然に……」


 言い訳をして、更に小さく縮こまったアキラを見て理解した奈美と緑子は、顔を見合わせた。


 その場にいる三人の顔は真っ赤になった。


「もう、まじないも効いたでしょう。終わりにしましょう」


 奈美は緑子の肩に服を掛けてやり、膝を抱えているアキラにも「はい」っと服を届けてやった。

店内に戻った三人はテーブル席に腰掛け、アキラは恥ずかしさのあまり面目無さげに俯いた。


「緑子さん、注意事項に気を付けて好きなひとの所に行ってね、それで、効果がなければ返金しますので、どうだったか結果を教えてね」


「いえ、お金はいいんです。わたくしが無理を言ってお願いしましたので」


「それじゃ、ありがとうございました。いってらっしゃい、頑張ってね」


「いいえ、お姉さま、わたくしは行きません。

……わたくしが好きなのは……お姉さまなんですもの」


「…………」


「わたくし、このおまじないの事をずっとお調べしていたんです。そのクールな眼差し……颯爽と歩くお姿……お姉さまをお見かける度にどんどん好きになってしまいましたの」


 緑子が好きだったのは奈美だったのだ。コンビニに度々現れていたのは、オカルトサークルの活動として、まじないをするアキラを調査する為だった。


「おや、おや、アキラちゃん強敵現るだねえ」


 静江は自分の娘の事だというのに呑気にタバコをふかしながらコーヒーを啜っている。


「ダメだよ、奈美ちゃんお金返そうよ。そして今回は無かったことにしよう! 緑子さん! 僕、奈美ちゃんと住んでるし、奈美ちゃんだってきっと……」


「だって、まだそのようなご関係ではないじゃありませんの? だったら、わたくしにもチャンスはありますわ」


 緑子は可愛いけどライバルとなれば話は別である。奈美の恋愛対象は女の子ではないはずだとアキラは助けを求めた。


「ね、奈美ちゃん、断ってよー」


「アキラ黙って! そろそろ始まる時間ね、女性にまじないを施してどうなるかの実験結果は、自分の目で確かめるわ」


 奈美は緑子とテーブル越し向かい合ってじっと待った。

ソワソワするアキラをよそに二人は落ち着いている。

その間に『わかば』には三人のサラリーマン風のランチの客が入ってきて静江は一気に忙しくなり、三人はカウンターに移動し、緑子、奈美、アキラの順番で座った。


一人で店を切り盛りしている静江は慣れているとはいえ、同タイミングで客が入ると流石に忙しい。特にランチの時間は昼休みの時間が限られているので急いでいる客が多いのだ。


「アキラちゃん、悪いんだけど、お客さんに運ぶのを手伝ってくれるかい?」


 奈美と緑子の事が気になったが、静江の頼みは断れない。

水を運び、二人を窺い見ながらランチを運んだが、どうやら何の変化も起きていないように見える。カウンターの中の静江も緑子から三メートル以内にいるがモテ効果を感じている様子がなかった。

アキラがカウンター席に戻ると奈美が口を開いた。


「どうやら、女性にはまじないは効かないようね」


「そうですか、残念ですわ……ありがとうございました。

でも、わたくしお姉さまを好きな気持ちは変わりませんので、時々こちらに伺ってももよろしいでしょうか?」


「もちろんよ、コーヒーでも飲んでいって頂戴ね。一万五千円分はタダにしますから。でも、私、恋愛対象は男だから御免なさいね」


「分かってますわ、殆どの女性がそうですから」


 奈美の口からハッキリと恋愛対象が男だと言ったのを、自分の事だと勝手に解釈したアキラは安堵した。


「どうやら、丸くおさまったようだね。ここんとこ、忙しくてさ、緑子ちゃんみたいに可愛い子がバイトでもしてくれたら助かっちゃうんだけどね」


 『わかば』の魔女が甘い呪文を緑子に唱えた。


「え? いいんですの、お母さまっ! わたくし喜んでバイトさせて頂きます。明日からでも、今からでもっ!」


 静江は大学の授業の無い時はいつでもおいでと言い、緑子は奈美に向かってオカルトサークルの研究もあるし、まじないの仕事も手伝いますと張り切った。


緑子は帰りがけにアキラにだけに聞こえる小さな声で言った。


「負けませんわよ」


 可愛い顔に似合わない、不敵な笑みを作って見せた。










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