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アキラ叫ぶ

 源にご馳走様ですと礼を言い、静江にはまた来ますと挨拶をして『わかば』を後にしたアキラは高田アーケード商店街にある小さなスーパーに立ち寄った。仕事から帰ってくる奈美に夕飯を作って待っていようと思ったのだ。

男はマメが命とブツブツ呟きながらモヤシが十八円と安かったので二袋カゴに入れた。隣にモヤシ鍋の素が置いてあり、それもカゴに入れた。モヤシはマメ(豆)だもんねとご満悦なアキラは最後の惣菜コーナーでコロッケが一個八十円だったので四個買った。

アキラの手持ちの小遣いではこれが限界だった。初バイト代が貰えるまで、まだ一週間以上あるからだ。


そして商店街を出てアパートに戻る途中で布団が届いている事を思い出し、今日はなんて良い日なんだと早足に家路につくのだった。



 その晩のアキラは嬉しい事続きでテンションも高く、奈美と一緒に食事をしながら、お茶屋に行って源と真理子に会って話した内容と『わかば』に行ってご馳走になったこと、静江はモテ効果に翻弄され源が苦労したこと、スーパーで安く買い物が出来た事を早口で話した。

男はマメがいいという話は何故か言わなかった。


「そうか、ヒロさん良かったわね。一時だけのことと諦めてたんだけど思わぬ結果になってよかったわ、でも母さんが女だったのを忘れるなんてとんだ失敗ね、源さんがいて助かったわね。

……アキラ! このモヤシ鍋美味しいわ、ありがとう」


 奈美に褒められた嬉しさと、部屋に隅に置いてある布団包の期待感でアキラの気分は更に舞い上がった。

食事も終わりアキラは一番気になっている事を聞いた。


「ねぇ、奈美ちゃん。あの荷物もしかして僕の布団かな?」


 もう一個の重い大きな箱もあったがアキラの脳内は布団の事で一杯だった。


「あ、そうそう! アキラ開けて!」


 紐を解いて薄茶色の紙を破くと水色無地のシンプルな布団一式が出てきて、カバー等を二人で装着し終わった。


「寝室に運んで!」


 奈美の言葉に、キターやっぱり寝室だ!とアキラはもう天にも昇る気持ちになった。


「し、失礼します!」


 奈美の寝室に入ると奥には、覗いて知ってはいたが同じ水色でも趣味のいい大柄の花柄にレースをあしらった布団カバーで被った、低めのベッドが置いてある。

奈美がベッドでも自分は布団で構わない。

とにかく隣に寝れるのだとアキラは喜び奈美のベットにぴったりとくっつけて布団を敷いた。


「ちょっとアキラ、布団はこっちの壁にくっつけて頂戴!」


 奈美は反対側の壁を指さした。


 えー、とガッカリしたアキラだったがそれでも奈美の寝顔が見られるからいいやと諦め、布団を壁際に移動した。

もう一個の大きな箱も開けてと言われたアキラはリビングに戻り、箱を開封した。中からは籐で作られた蝶番で連結されている四枚の衝立が出てきて、広げるとWの形になった。


「……これ……寝室に入れるの?」


「そうよ、不服なの?」


 勿論アキラは不服だったがそんな事は言えるはずもなく、置く場所はわかりきっていたので、渋々ベッドと布団の間に設置した。


アキラのテンションは下がり気味だったが、それでも一緒の部屋で寝られる事の喜びと万が一の期待が無い訳でもなく、先に風呂に入り布団に横になった。

奈美はいつものペースで風呂に入り寝室のベッドに横になり小玉電気に切り替えた。


ベッドと布団の間の城壁は籐のくせに隙間なく親切に編み込んであり、小玉電気の薄暗さだけのせいではなく、目を細めても奈美のシルエットすら見えない事にアキラは苛立ちを感じた。


仕方がないと諦め城壁に背中を向けた時、奈美が話しかけてきた。


「ねえ、アキラ……そろそろ身体で返してもらう時が来たわ……準備をしましょう」


 待ちに待った言葉にアキラは布団から跳ね起き、正座をした。


「な、奈美ちゃん……ぼ、僕の準備は出来てます……そちらに行ってもよろしいでしょうか?……」


 思わず敬語になったアキラに奈美はクスッと笑ったが、いつもの喋り方で言った。


「来るのは今じゃないわよ、明日バイトが終ったら『わかば』に来て頂戴ね、私は土曜で休みだから先に行って準備をしてるから」


「はい? 何の事?」


 特異体質を活かさないのは勿体ない、アキラはヒロもモテさせ幸せを運んだ。アキラの能力には希少価値がある。モテたい男は世の中に沢山いる、つまり需要があるってことで希少価値には対価が生まれて当然なのだと奈美は説明した。


「アキラの特異体質を私と一緒に活かして、見合った対価を頂きましょう」


「……つまり、奈美ちゃんは僕の特異体質を使って、お金儲けを……」


「ま、そう言う事になるかしらね……それにね、今回の布団代と衝立代で五万円ね、前の十万も足して十五万を特異体質の身体で返して頂くので、よろしくね! ……おやすみ……」


「なーーっ!!」


 枕に顔を押し付け叫ぶしかないアキラだった。


 わかばの魔女の言葉が蘇った。……マメ……奈美の望む好きな事をしてあげるのがマメと結論づけた自分。奈美の好きなのは金儲け、ならば、これも仕方のない事なのか……。

初めて特異体質を信じてくれた、アパートに住まわせてくれた、褒めてくれくれた。

守銭奴で性格がきつい奈美だけど、やっぱり大好きだからやらなければと思うのだった。


けれど、気配は感じるが姿は見えないこの状況は淋しくて、布団を足の間に挟んで紛らわしたアキラだったが人間の温もりには程遠く、バイト代が入ったら一番先に綿の沢山詰まった抱き枕を買おうと思いながら眠りにつくのだった。



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