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『ゴートの覚悟、レベッカの覚悟』

そこは昼間に一悶着あった教会だった。

教会まで灯りになるものはなかったが、月明かりが灯り代わりとなり酔っ払い連れでも迷うことなく教会に来ることが出来た。

ミナはそのまま教会の裏手の墓地に向かっていった。

ゴートも跡を追おうとしたが、レベッカに手を掴まれた。

「どうした?」

レベッカは震えていた。

「...まさか、お前怖いのか?」

「違うわよ!...飲みすぎたから御手洗いに行きたいだけよ!」

ゴートは身近な人間から出た苦しすぎる言い訳の反応に困ってしまった。

「...怖いんなら帰れば良かっただろ。」

「だってあんたがいきなり走り出したから...!」

ゴートはレベッカの口許に手を当てた。


ミナは質素な墓の前に座り込み、話始めた。

「今日ね、大きな鎧の旅人さんに助けてもらったの。最初は怖い人かと思ったけど、凄く良い人なんだよ。しかもその人が兵隊をこらしめてくれるんだって。だから安心して眠って、パパ、ママ...。」

ゴートは静かに見守っていた。

さっきまで騒いでいたレベッカも黙ってワインを煽っていた。

するとワインの中から鳴った『ちゃぽん』という音が静かな辺り一面に響いた。

その音に「あ...!」っとレベッカが反応してしまった。

「誰かいるんですか!?」

ミナは声の方に向かって問いかけた。

流石に観念したのかゴートとレベッカが顔を出した。

「あ、さっきのおじさん!」

「あー、すまん、ミナ。このお姉さんが馬鹿なことをして...。」

ゴートは肘で軽くレベッカのお腹を小突いた。

「あはは...。ごめんなさい、覗き見るつもりはなかったの。でも少し気になっちゃって...。」

「もしかしてさっきの御話も聞いてた...?」

「聞くつもりはなかったんだけど...。本当にすまない!」

「ううん、別に気にしてないよ。」

ミナは微笑を浮かべながら答えた。

「私のお父さんとお母さんは兵隊に殺されちゃったの。私が友達の家に遊びに行った間に...。」

「だからお父さんとお母さんはいないって言ってたのか。」

「でも町長さんがね、『ミナがおばあちゃんになったらまた会える』って言ってくれたんだ。だから私全然寂しくないの。」

ゴートとレベッカはただ静かにミナの話を聞いていた。

「でも時々どうしてもパパとママに会いたくなるの...。だから今日も教会に来てたの...。そしたらまた会いたくなるの、パパとママに...。私、独りぼっちでおばあちゃんになりたくないよ...!どうしてパパとママに会えないの...!?」

ミナは泣き出した。

ゴートはそっと近づいて頭に手を置いた。

彼に出来る彼女への最大限の優しさはそれしかなかった。


襲撃予定日の夜を迎えた。

マリアはゴートとレベッカの前に腰掛けて話した。

「二人とも準備は良いですか。ゴートさんは前衛として敵を蹴散らして下さい。レベッカは魔導ライフルで援護して下さい。...私には二人の無事を祈ることしか出来ません。だから必ず帰って来て下さい!」

「安心してくれ、こんなところじゃ止まれない。」

「大丈夫だって、マリアはマリアの役目を果たしてね。」

ゴートとレベッカはそう言うと、町の中央地点に移動した。

ゴートはそのままそこで待機し、レベッカは全体が見渡せる建物の頂上に移動した。

そんな準備が終わるとすぐに、ぞろぞろと兵隊が入ってきた。

数としては約50人程だろうか、全員本来帝国から支給されていた揃いの武器ではなく、各々略奪した武器を装備していた。

その一番後列に噂の魔法使いがいた。

彼だけは他の兵士と違って杖とローブを身に纏っていた。

「我が名はレックス!!宣告通りに大金庫の中身を貰いに来た!!抵抗しなければ命までは取らん!!だが!抵抗すれば町の人間、女子供関係なく皆殺しにする!!」

「言いたいことはそれだけか、レックス。」

ゴートは彼らの前に立ち塞がった。

「レックス!奴だ!アイツがやりやがったんだ!」

「お前が例の奴か...。」

「その例の奴だったらどうする?諦めてこの町から手を退いてくれるのか?」

「残念ながらそれはない。どうも大金庫はくれそうにないらしい...。残念だ...、余りにも残念だ...。だから...死ね!!」

そのレックスの掛け声と共にゴートに襲いかかってきた。

ゴートは昨日までと明らかに違った。

背中の剣を抜き、向かってくる敵を斬り倒していた。

迷いがないと言ったら嘘になるだろうが、それでもゴートの覚悟は迷いを凌駕した。

獣の様な叫び声をあげ襲い掛かるゴートの威圧感は凄まじく、兵士は身動ぎした。

その身動ぎした兵士を容赦なくレベッカの魔導ライフルは狙いうった。

レベッカの銃のコントロールは凄まじかった。

彼女の腕なら急所を避けて狙うことも可能だったが、彼女自身もゴートの覚悟に応える手段は"殺意"をもって他になかった。

「レックス!早く魔法を打ってくれ!もう堪えきれない、限界だ!」

「黙れ!何なんだ...、コイツらは...。」

戦いは余りにも一方的だった。

最初は敗残兵から攻めてきたはずだったが、10分もかからずに半数以上に減らされていた。

敗残兵にとってはゴートの存在は脅威だった。

彼らの武器は殆ど弾かれ、距離を詰めればゴートの剣の餌食になり、距離を取れば何者かに狙い撃たれる。

既に勝利を諦めた何人かは逃げ出していた。

「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ...!」

「現実逃避もそこまでだ、クソ野郎!」

「ひぃ!」

「せめてあの世で殺した罪なき人たちに謝り続けろ。」

ゴートが剣を降り下ろそうとした時だった。

「まだだ!俺には皇帝がついてんだよ!」

レックスはローブの中から白い欠片を取り出し、それを天高く掲げた。

掲げた右手から眩しい程の光が溢れだした。

しかしその光に優しさも神々しさもなく、ただ眩しいだけの光が辺りを照らし出した。

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