『覚悟と迷い』
ゴートは再び教会に戻った。
「ミナー。もう出てきても大丈夫だ。」
そう言うと、ミナがパイプオルガンの下からひょこっと顔を出した。
「おじさん、怪我はない?」
「大丈夫、見ての通り頑丈に出来てる。ところでどうしてこんなとこで遊んでたんだ?」
「みんな兵隊を恐がって遊んでくれないの。お父さんとお母さんもいないから、誰も私に構ってくれない。」
「構ってくれないからわざわざ教会まで来たのか?」
「教会に来たらきっと誰かいると思って...。」
「とりあえず今回は助かったけど、あんまり変なことすんなよ。命ってのは一つしかないんだから、大切にしないと後悔するぞ。」
「...ごめんなさい。」
「わかったなら良いんだ。ところでさ...、俺達のことを町の人に紹介してくれないか?俺の仲間がちょっと色々あって大変なんだ。」
ミナは少し悩んだが、すぐに頷いてくれた。
「いやー!本当にミナが御世話になりました!」
ミナを敗残兵から救ったという知らせはすぐに町中を駆け巡った。
すぐに三人は町長のもとに呼ばれ、彼らの前には大量の食事が用意されていた。
「どうぞお腹一杯頂いて下さい。」
町長が言い終わる前から既にマリアとレベッカは手をつけはじめていた。
マリアはナイフとフォークを器用に使いながら食べていたが、レベッカに至ってはフォークだけを使い食べ物にかぶりついていた。
一方ゴートは食事や飲み物にも一切手をつけることなく、何か考え込んでいた。
マリアは食事を取りながら、帝国の敗残兵のことを町長に尋ねた。
どうやら彼らが現れ始めたのは数年前からで最初は旅人への被害も少なく適当にあしらっていたが、ここ数ヶ月間で急に町人・旅人関わらず金のための殺人を行ったり、建物を破壊したりと凶暴になったという話だった。
「お願いします!あなた方の力で町を救って頂けないだろうか?明日の夜に奴等は町の大金庫を襲うと言っている。彼処が襲われたらこの町は終わりだ。」
マリアはステーキを口に運びながら尋ねた。
「聞きたいことは二点です。一点目は、一般的に考えればこのオリビアはリビエイラの領地のはずです。ならば我々ではなくリビエイラの兵に頼むべきなのでは?」
「ごもっともです。既に我々はリビエイラにも助けを求めました。しかし何時まで経ってもリビエイラからの兵士は来ない...!なんでも『ここに割けるほどの兵力がない』という話らしく...。」
「なんと薄情な...。わかりました、それでは二点目。凶暴化した理由はわかりますか?」
「詳しくはわかりませんが、変な力を使う兵士が頭領になったようです。あれはもしかしたら魔法なのでは...。」
肉にかぶりついていたレベッカも表情を変えた。
「マリア、ここは...。」
「わかっています、もとからそのつもりですよ。ゴートさんも宜しいですか?...ゴートさん?」
「ああ、すまない。そうだな、協力すべきだろう。」
「町長さん、我々の力が役に立つのでしたら是非とも協力させてください。」
「本当ですか!ありがとうございます!ありがとうございます!」
レベッカは食事への手は止めなかったが、少しゴートの顔を覗いた。
ゴートは一人町の中央の広場のベンチに座っていた。
結局マリアが協力を申し出た後、食事会は宴会へと変わってしまった。
マリアは町長に掴まり「こんな小さいのに旅なんて大変だねー」の様なことを言われ続け、レベッカは見た目が良いためか町中の男達から飲みに誘われ何処かに行ってしまった。
「あんた、本当に眠らないんだねー。」
そう言いながら少し酔っ払ったレベッカがワインのボトルを数本抱えてゴートの横に座った。
「だいぶ飲んだようだな。」
「こんなもん飲んだうちに入んないわよ。結局、誘ってきた連中は全員寝てるか吐いてるかだし、飽きて戻ってきちゃった。」
レベッカはワインをらっぱ飲みしながら話しを続けた。
「あんたさっきは心ここにあらずだったけど、ちゃんと戦えるの?」
「共和国の基地を潰したときに覚悟はしてきたつもりだった。でも、今回の敵は化物でも共和国の兵士でもない。もとは同じ志をもった仲間みたいなもんだ。それを斬り殺す気にはなれなくてな...。」
レベッカはゴートにワインのボトルを差し出したが、ゴートは首を横にふって断った。
「確かにね。私も良い気持ちはしないし、マリアだって絶対に良い気持ちはしてない。でもさ、やっぱりどんな理由があったって罪のない人を殺しちゃうのは良くないのよ。そうなったら、大義名分があってもそれは人間じゃない、ただの化物よ。話をして変わってくれれば良いけど、きっと彼らはもう止まれない...。」
レベッカは静かにワインを傾けた。
ゴートはただ静かに前を見ていた、すると目の前の通りを誰かが通り過ぎた。
「ミナ...!」
ゴートはすぐに走り出した。
「え!?ちょっと待ちなさいよ!」
レベッカも足取りは怪しいが、ゴートを追い掛けた。