『歩く国』
「で、君達みたいな女性が一体何をしているんだ?」
元々基地だった瓦礫の山に腰掛けてゴートは二人に尋ねた。
司令官が早々に逃げていっては練度の低い兵士たちがまともに機能するはずもない。
結局、ゴートが大剣を振り回し目の前の物を粉々に砕いていくのを見ると、兵士は全員逃げ出してしまった。
連れ去られた女性たちを全員最寄りの町に送り届けた後、共和国の情報探査のために再び基地に戻ってきたのだった。
「私たちは旅をしています。国を取り戻す旅を...。」
「国ってのは帝国のことか...?あまりあの国に対して良いイメージはないのだが...。」
ゴートにとって帝国は"理由もなく鎖で縛り付けた国"というイメージが強かった。
「世間の方々が私たちに対して悪いイメージを持つのは当然です。それに今のかりそめの平和を味わえば誰もが帝国再興を謳う私たちの考えに同調などしないでしょうね。」
マリアは僅かに微笑みを浮かべて答えた。
「でも私にとっては今の共和国、いえ、共和国第一代大頭領ケインを許すわけにはいかないのです。帝国の再興は私たち自身の彼に対する復讐です...!」
こう語るマリアの瞳は再び強い意思を持ったものとなっていた。
「それに...」
レベッカが続いた。
「あんたも見たでしょ。あいつらの横暴な行動。こんなことするような連中を許すわけにはいかないでしょ。だから私たちは奴等に宣戦布告したのさ。」
それを聞くとゴートは突然笑いだした。
「宣戦布告ってのは国と国の争いの時に使うもんだ。二、三人程度じゃ只のテロリズムだ。」
するとマリアは十字架を脇に抱えて言った。
「いえ、ゴートさん。これは戦争ですよ。私たちは共和国にたった一国で対抗しようとする"国"なのです。」
「国?」
「ええ、私たち二人が国民であり、私たちが存在している今この場所が領土です。世界初の動く国です。そして貴方がその三人目の国民となります。」
「俺が三人目の仲間なのか?」
「さっきも言ったじゃないですか。一緒に記憶を作っていこうって。それに、ゴートさんがいればこれからの旅がもっと楽しくなりますよ。」
ゴートはまた笑いながら、
「全く...。正直に腕っぷしが強いから用心棒として仲間に入れてやると言えば良いものを...。」
「いえ...!そんなことは...!」
マリアは首をブンブンと振りながら否定した。
「いいさ、よろしく頼む。マリア、レベッカ。」
「よろしくお願いします!ゴートさん!」
「はいはい、よろしくねー。」
「でもさ、次にどこいくよ。」
レベッカは適当に其処らの瓦礫を退かして座り込んでいた。
「目的地は決まってます。」
そう言うとマリアは瓦礫の下から一枚の地図を取りだし、ゴートとレベッカの前に広げた。
「ここから西に20キロ離れたところに、そこそこ大きな町があります。そこで情報収集を行ってから次の町に向かいます。」
「基本は行き当たりばったりの旅って訳ね。本当に楽しくなりそうね。ところでゴート?」
「何だ?」
ゴートは自分が壊した瓦礫の中から何か使えそうなものを探していたが、綺麗に粉々になっており中々見つからなかった。
マリアは地図を仕舞い、出発の準備を始めた。
「あんたさ、うちの国の何大臣になりたい?」
「は?」
レベッカは瓦礫から立ち上がりお尻をパタパタとはたいた。
「だってさ、一応は国の訳じゃん。マリアは女帝で、私は総務大臣、当然あんたも何か決めるべきでしょ。」
「何かって元囚人みたいなもんだぞ。そんな簡単に...。」
「あら?良いじゃない。囚人から大臣なんて、大出世ここに極まれりって感じがするじゃん。」
「そりゃそうかもしれんが...。」
ゴートが真剣に大臣の話を考えている。
やはり剣術にはそこそこの自信が有るからシンプルに防衛大臣か、それとも虚をついて財務大臣とかか...なんてことを考えているうちにいつの間にか置いていかれていた。
「あれ?」
「ゴートさん!行きますよー!」
「早くしなよ、ゴート。」
少し離れたところで二人が手を振っている。
「すまない、今行くよ。」
ゴートはゆっくりと一歩一歩踏み締めるように歩き出した。
ここから一人の十字架を背負った女の子と、拳銃をぶら下げた女と、そして全身黒い鎧を身に付けた男という三人だけの国の旅が始まるのであった。