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『魔法の力、鎧の力』

駐屯基地の正門に黒い鎧は立っていた。

鎧の威圧感は練度の低い共和国兵よりも高く、その存在は当に魔物であった。

その威圧感に拍車をかけたのは鎧が背中に担いでいた兵士から"鉄板"と呼ばれた大剣のせいもあり、鎧にしか振り回すことは出来なかった。

「あいつはあそこに置いといて良いんですか?邪魔くさい気もしますが...。」

「あれで良いんですよ。精々魔除けの置物程度にはなってもらわないと引き取った意味がないでしょ。」

鎧をわざわざ引き取った基地の司令官は既に興味を失っていたが、鎧はそれで良かった。

満足などしていない、しかしただ延々と鎖に縛られ座り続け誰とも知らない骸骨と顔を合わせ続けるよりは大分ましだった。


その時だった。

『ドーン!』という大きな音と共に兵舎から火の手が上がった。

「敵襲!!」

何も起こらないと思っていた司令官と兵士は焦りだした。

「賊は何人ですか!?」

「二人です!その内一人は魔法使い!」

「馬鹿な...!」

魔法使いは皇帝ジントの時代をピークにその死後から減少の一途を辿っており、共和国となった今では七騎士の一部程度しか生き残ってないとまで言われていた。

魔法使いは一騎当千の存在であったが、扱いづらい存在だった。

嘗て帝国に対抗して魔法使い部隊を作った国は制御の難しさ故の暴走により勝手に自壊したほどである。

そんな絶滅危惧種の危険な存在が基地に潜り込んだとなると焦るのも当然である。

「急いで対処なさい!アレがバレてはいけません!あんたもとっとと行きなさい!」

司令官が言い終わる前に鎧は走り出していた。


ーーーーー


レベッカは腰にぶら下げていた拳銃を持ち手当たり次第に撃ちまくっていた。

彼女の銃口から出ているのは普通の弾丸ではなく、引き金を引く度に銃全体が明るく光り、信じられない威力の魔力の塊を撃ち出す。

マリアはレベッカの下で踞って、レベッカに向けて大声で話し掛けた。

「やり過ぎないで下さいね!共和国の情報も欲しいですし、何よりも何処にいるかわかんないんですから!」

「大丈夫!大丈夫!ちゃんと広域調査の魔法も事前にかけて大体の位置は絞り混んでるんだから!非戦闘員はとりあえずしっかり頭下げときな!ヒャッハー!テンション上がってきたーー!!」

兵士達は手を子招いていた。

迂闊に飛び込めばそこらでバラバラになっている瓦礫と同じ末路を辿るし、何もしなければ司令官に大目玉を食らうという悲惨な状況で板挟みにあっていた。

そんな状況の中で"何か"が飛び込んできた。

それは鎧だった。


いきなりの展開に驚いたのはレベッカだった。

どんなに弱い兵士でも魔法使いが如何に恐ろしく強大な力を持っているかぐらいは知っている。

それを知りつつ飛び込んでくるのは余程の無知か命知らずだけのはずである。

しかもこの鎧には意思があるのかどうかも怪しい。

ただ命令に従うだけのマリオネットかとも思ったが、それにしては操っている当の本人の姿も見えない。

「どきな!それとも本当に死体になりたいの!?」

それでも鎧はどかなかった、いやそれどころか大剣を手に取り臨戦態勢に入っていた。

「あっそう...。そっちがその気なら...!」

「レベッカさん!」

「安心して、ちょっと痛い目にはあってもらうけど殺すつもりなんて更々ないから。」

そう言うとレベッカも臨戦態勢を取った。

最初に仕掛けたのはレベッカだった。

大剣を振るうとしたら普通の人間なら上から叩き落とすか横に凪ぎ払うかしか出来ない。

しかもこれほどの大剣なら攻撃の手段を決めて攻撃に移るのにもスパンが出ると考えた。

レベッカは揺さぶりをかけるため真正面から突っ込んだ。

狙いは的中した。

結果、上から大剣を叩き落とす途中で真正面からレベッカの魔法を食らいかなりの距離まで吹っ飛ばされた。

辺りには鎧が吹き飛ばされた際に起こった土煙が激しく起こり、兵士はおろかレベッカとマリアの視界を奪っていた。


「チェックメイト!マリア!正門近くの一番高い塔まで走って!すぐに追い付くから!」

「はい!」

この一瞬を鎧は逃さなかった。

激しい土煙の中から鎧の手が襲いかかってきた。

もしかしたら意図的にレベッカは魔法の殺傷力を下げていたのかもしれない。

しかし普通の人間なら重傷ではすまない状態でも鎧は殆ど無傷だった。

「嘘...!」

その時既にレベッカの喉に鎧の腕が伸びていた。

レベッカは威力を上げた状態で魔法を数発放ったが利き目はなく、彼女を持ち上げた鎧はそのまま彼女を地面に叩きつけた。

地面に叩きつけられたレベッカは「マリア...、逃げて...」と数回繰り返し気絶した。

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