『二人の女と一人の鎧』
クーデターから5年が経った。
世界の殆どを支配したヴァレイン帝国は皇帝ジントの死によって約100年の歴史に幕を閉じた。
そしてクーデターを率いたケインが新元首としてレヴィット共和国が建国され、更にジントに止めを刺した七人の貴族たちは民衆たちに"七騎士"と呼ばれる様になり各々が領地を持つこととなった。
本来この様な成り上がり領主は経営に関してはサッパリな筈であったが、彼らの領地経営能力は非常に高かった。
帝国が押さえ付けていた反動なのだろうか、それとも新元首・七騎士の意外な手腕であろうか、理由はどうあれ結果として世界に平和が訪れた。
この場合世界に平和が訪れてしまったというべきだろうか。
だが共和国は"平和の使者"ではなかった。
中には共和国に対して武力による抵抗を行うものたちも現れ始めた。
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ただ暗く冷たい場所だった...。
元々帝国の地下牢だった場所も、クーデターの一件で囚人は逃げ出したか、序でに殺されてしまっていた。
そんな中にたった一人鎖に繋がれている人がいた。
いや、人ではない。それは鎧だった。黒く禍々しくただ鎖に繋がれていた。
この"鎧"は生きていた。生きているというよりは死ねなかった。
食事を摂ることもなく、睡眠も取らず、意識だけは鎧に宿っていた。
『コツコツコツ...』
階段を降りてくる音と二人の兵士の話し声が静かに牢屋内に響く。
「もう死んでるんじゃないか?あのクーデター以前の代物だろ?」
「どうも死んでないらしいんだよ。なんでも『魔導生物』とからしくてよ...」
「本当かよ...。取って食われたりしないだろうな...。はぁ~~、うちの上官も物好きなもんだよ。」
二人の兵士がその鎧の前に立った。
「えぇー...。...名前は?」と兵士の一人が聞いた。
「......」その"鎧"はただ黙っていた。
その沈黙を遮るように「名前なんて必要ねぇよ!おい!化物!命令だ!俺たちについてきて巡回任務に着いて貰うぞ!」と兵士の片割れは言った。
"鎧"にとってはどうでもいいことだった。
ただ自分の自由を奪う鎖を外してくれるのならば...。
ーーーーー
共和国の駐屯基地...
共和国は他国に対して内政に干渉しない代わりとして基地を置くことを条件としていた。
その基地の中に巨大な荷馬車が入ってくる。
そして中から"鎧"とそれを連れてきた二人の兵士が出てきた。
彼らの前にはこの基地の最高責任者らしい偉そうな髭を生やした男がふんぞり返っていた。
「よく来たな、化物くん。君を大いに歓迎しよう。何でも実験の副作用で食事も睡眠も取らなくて良いそうだが本当かね?」と開口一番から面倒臭い質問が矢のように飛び出した。
「あの~、司令官殿。どうもこいつは喋れないみたいなんですよ...。」と兵士が言うと、途端に司令官の目から興味の光が消えていった。
「あっそ、じゃあどうでも良いや。お前たちこいつの面倒見てやれ。」
この男にとって"鎧"は役に立つ立たないではなく、一時の退屈しのぎ程度の存在でしかなかった。
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同じ日の夜...
基地近くの茂みから二人の女性が顔を出していた。
背が高くスタイルもよい年齢としては20才前半の女性と背が小さく年齢も12、3才程度の少女は基地内の様子を伺っているようだった。
「レベッカさん、そろそろやりましょうか。」
少女が女性に同意を求めると、「はいよ、じゃあ景気よく行きますか!マリア!」と二人とも勢いよく茂みから飛び出した。
レベッカと呼ばれた女性の背中には巨大なライフル銃と腰には二挺の拳銃がぶら下がっていた。
一方、マリアと呼ばれた少女は背中に巨大な十字架を担いでいた。
二人はそのまま先程"鎧"が入っていた基地内に警備が手薄な部分からマリアが担いでいる十字架が目立たないように侵入していった。