『浴室』
レベッカは町を離れる準備をしていた。
これ以上居てはオリビアの人々に迷惑がかかるのと、早いところリビエイラに到着したいという思いがマリアにあったのだろう、町をあげての大宴会が催されるなかマリアは町長に伝え、町長もそれに了承した。
準備と言ったって、荷物を作っても仕方がないということでレックスを討伐した報奨金と少しの食料だけを小さな鞄に詰め込んだ。
ある程度、準備が終わると、誰かがドアをノックした。
「レベッカいますか?私です、マリアです。」
レベッカはドアを開けた。
「どったの?」
「実はゴートさんを探してるんです。例の遺骨の話もしておきたいですし...」
「ゴートねぇ...。あいつの部屋って隣よね?」
「それがノックしても返事がないんです...」
レベッカは部屋を出ると、隣室のドアを勢いよくノックした。
「ゴート!いるんなら返事しなさい!」
ドアノブを捻ると鍵は掛かっていなかった。
不審に思ったレベッカは魔導銃を片手に握るとゆっくりとドアを開けた。
部屋を荒らされた形跡はなかったが、浴室から何やら物音が聞こえた。
レベッカはマリアを部屋の前の廊下に待機させ、浴室に踏み込んだ。
「動くな!」
そこにはバスタブに嵌まって動けなくなっていたゴートがいた。
「...あんた何してんの?」
「いや、実は風呂に浸かろうとしたのだが...」
そこにマリアも入ってきた。
「どうしたんですか、ゴートさん!?」
「わかった...。あんた自分の鎧の重さも考えずに風呂に浸かったね。」
ゴートは否定しなかった。
「とりあえず...。助けてくれないか?」
何故かレベッカは浴室でゴートの鎧を洗ってやっていた。
二人がかりでゴートを浴室から救出したが、ゴートは執拗に風呂に拘り続けた。
最初はマリアが洗濯ならぬ"洗鎧"をかって出た。
しかし一国の姫君に汚ならしい鎧を洗わせるわけにはいかないと結局レベッカが鎧を洗うことになった。
「自分でそれぐらいしなさいよ...!」
レベッカは背中を力一杯磨きながら言った。
「自分でやりたいのは山々なんだが、なんせ呪いの鎧なんで脱げないんだよ。」
「だったら辛抱しなさいよ...!風呂に入りたがる呪いの騎士なんて聞いたことないわよ...!ほら、次は手出して!」
レベッカはスリットが入ったロングスカートと袖口を託しあげていた。
「だいたい普通なら女の子に背を流されたら少しは興奮するもんでしょうが...!何なのこいつは...!」
「朴念人とでも言いたげだな。ここでお前に興奮しても困るだろ。」
「それはそうだけど...。ええい!次は反対の手!...ってあれ?」
レベッカはもう一方の手を取ろうとバランスを崩してしまった。
「危ない!」
それを支えようとゴートはレベッカを抱き抱える体勢になってしまった。
「ちょっと...!何してんのよ...!」
そこにマリアが入ってきた。
「ゴートさん、お湯加減どう...」
マリアが見たのは、浴室でゴートがレベッカを抱き抱えているという誤解されても仕方がない状況だった。
「すいません、気がつかずに!私部屋に戻ります!」
「ちょっとマリア!勘違いしないでよね!」
「いえ!やはり年頃の男女ですもんね!こういうこともありますもんね!」
「違うんだ!たまたまレベッカがバランスを崩したのを俺が支えて!」
結局、ゴートとレベッカのオリビアの最終日はマリアの誤解を解くことに費やされていった。