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『魔導生物』

光の中でレックスは確かにある人物の姿を見た。

それは5年前に殺されたはずの皇帝ジントの姿であった。

「そんな...!どうして貴方様が...!」

レックスは膝まづいたが、ジントはレックスの姿勢に目もくれなかった。

「貴様が誰だろうと構わん...。戦い続けろ...。命散らすまで...。」

ジントは杖をレックスの肩の上に置いた。

元帝国軍のしかも一兵卒にとっては皇帝直々の命令はどんなものにも勝る名誉であった。

「あぁ...、有り難き御言葉...。」

レックスが光の中で見たものは本物のジントだったのかなど、別段どうでも彼にとってはどうでも良かったのかもしれない。

ただ自分の窮地を助けてくれる何かにすがり付いたら、それが皇帝の形をしていたという奇跡はレックスから人間性を奪い去っていた。

ジントの杖から放たれたこの世の者ではない何かはレックスの身体を覆い尽くした。


「何だってんだ...!」

いくら冑を被っているとはいえ、突然の光にゴートは後退りした。

その瞬間だった。

ゴートは謎の手によって掴まれ、光の中からレックスが、いや嘗てレックスだったものが現れた。

その姿は蛇と人間をごちゃ混ぜにしたような形で、その者から発せられる怪しい眼光は明らかに人のそれではなかった。

ゴートを掴んだのはその右手であり、大きさもゴートを掴める程度には巨大化していた。

「ゴート!!」

レベッカは叫び、ゴートを掴んだレックスの腕を狙い撃ったが、固い鱗は魔力でエンチャントされた弾丸を弾いていた。

レベッカの叫びに気づいたマリアもまさかと思い、町民の反対を押しきり町の中心地点に向かった。

「何だコイツは...!」

徐々にゴートの目がちゃんと見えてくると、よりその異形の姿の禍々しさに驚かされた。

「化物...がー...!」

ゴートは手を払い除けようと力を込めたが、その手を振りほどくことは出来なかった。

逆にレックスはゴートをレベッカが隠れている方向に投げつけた。

レベッカの隠れていた建物には命中したが、ちょうどレベッカの真下の階の外面にゴートはぶつかった。


レベッカはすぐにゴートのいる階に走った。

そこには両腕とも向くはずのない方向に向いてしまっており、剣を握れる状態ではないゴートがいた。

レベッカはゴートの側に駆け寄るとすぐに回復魔法の詠唱を始めた。

「ゴート!このままじゃあんたが死んじゃう!早く逃げないと...!」

「この程度問題はない...。"呪いの騎士"の力を見せてやる...!」

そう言うとゴートは立ち上がった。

鎧から軋むような音がなると、ゴートの絶叫と共に折れた両腕が元に戻った。

しかし彼の足元にはおぞましい血溜まりが出来ていた。

「え...?」

「これが魔導生物ゴートの力だ。どんな重傷でも装着者の意思に関わらず鎧が戦える状態に直してくれる。手足が折れれば、折れた箇所を鎧が無理矢理支える。内蔵が無くなれば鎧がその代わりの機能を果たす。出血多量で気絶しそうになれば脳に直接働きかけて無理矢理覚醒させる。...便利な鎧だろ?」

そう言うと、ゴートは建物から飛び降りて落ちていた大剣を拾った。

「ここからが本番だぞ、ヘビ野郎。」

レックスは何か叫びゴートに向かって突進して来たが、それは最早人間の言葉ではなかった。

「何言ってるかわかんねぇんだよ...!」

ゴートは大剣をレックスの頭に向かって降り下ろしたが、レックスはその剣を二本の腕で弾き返して、そのままゴートを地面に押し倒した。

レックスはそのまま嘗ては足だったであろう尻尾でゴートを締め上げた。


「レベッカ!!」

茫然自失となっていたレベッカにマリアの声が響いた。

目の前には肩で呼吸しているマリアがいた。

「大変なの!このままじゃゴートさんが殺られちゃう!」

レベッカはすぐに気がつき、魔導ライフルでに弾を込めた。

しかしレックスはそれに気がついてしまった。

レックスは大きく口を開けると、

口内から吐瀉物をレベッカとマリアの方に向かってぶちまけた。

「危ない!」

狙撃体勢に入っていたレベッカを庇おうとマリアは背中の十字架を盾に見立てレベッカを隠した。

レックスが吐き出したものは彼の胃液であり、強烈な刺激臭と共にそれが付着したものは溶け始めた。

十字架には予めレベッカによる守護のエンチャントが施されていたが、所々跳ねた液体はマリアの服や皮膚を溶かし始めていた。

「うっ...!」

マリアは苦悶の表情を浮かべたが、レベッカは狙撃体勢を崩さなかった。

もしここで反応してしまえば、マリアが作ってくれた大事なチャンスを捨ててしまうようなものだった。

レベッカはレックスのただ一点を狙っていた。

そしてレックスの注意が自分たちから掴まえているゴートに移った瞬間を逃さずに引き金を引いた。

レベッカが放った弾丸はただ真っ直ぐに狙いに向かって跳んでいく、それは固い鱗に覆われていない唯一の場所"目"だった。


レックスの目をレベッカの弾丸が抉った瞬間、レックスの顔から突然火の手が上がった。

「ファイアエンチャントバレット...。身体の中から燃えていきな...。さあ!ゴート!止めはあんたに任せたよ!」

今まで尻尾に掴まれたまま大した抵抗もしなかったゴートが、レベッカの威勢の良い掛け声と共に尻尾を振り払った。

「あとは任せろ!」

そう返したゴートは大剣を背中に担ぎ直して燃え盛るレックスの顔を掴んだ。

「今度はこっちの番だな...!」

そう言うとレックスの口に手を突っ込んで無理矢理抉じ開けた。

レックスは抉じ開けられた口から胃液を吐き出そうとしたが、その前にゴートが大剣を口内に突き刺した。

「今度こそ地獄に堕ちろ!レックス!!」

そのまま大剣を捩じ込むと、ゴートはレックスの血と胃液まみれになっていた。

レックスも最期の力を振り絞り、ゴートを掴み投げ飛ばしたが、既に力の大半を失っていた。

結局、レックスは口から剣が刺さった状態で絶命した。

しかし彼の死体は残ることなく、最後にその場に残ったのはゴートの大剣とまだ人間だったレックスが天高く掲げた白い骨の欠片だけだった。

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