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頭を打ったら異世界でした。  作者: 小池らいか
第一幕 始まりの町カーライル
9/61

魔法の勉強をしてみた、の巻



 両親に自分の抱えていたものを話した翌日。


「最低でもあと三日間は安静に」


 往診に来た医者は僕の頭の包帯を巻き直すとそう言って去っていった。

 頭打ってるし、背中も打ってるしね。

 念のためにある程度痛みが取れるまでは、ってことみたい。

 なにより、下手に動くとお母さんに睨まれるし、やれることって言ったら本を読むくらいしかない。

 でも、この世界は紙の本がとても高価で一般人が手を出すには敷居が高い。

 大きな町だと図書館があって、そこで読めるくらいかな。

 この町(カーライル)で言うなら学校にある図書館になるけど。

 ただ、貸し出しは禁止。

 そこで読むしかなくて、唯一の例外は僕の手元にある【魔法基礎読本】だけ。

 カーライルの領主の方針で、この町の住人の魔法の適性がある人間に貸し出される。

 他の本と対応が違うのは、魔物に対する抑止力と身を守るための武器になるからってことみたい。

 内容は魔法に関する基礎知識と初歩的な魔法の概要。

 それらが挿絵つきで書かれていて、本当に初心者が最初に手に取る内容になっている。

 目次を飛ばして魔法を使うために必要なものが書いてある(ページ)を開けば、魔法を使うのに必要とされるものが絵付きで三つ書かれていた。


 一つ目は【魔力】。

 あたりまえだけど、これがないと魔法が使えない。

 【魔素】っていう目には見えない元素が空気中にあって、これを体内に取り込むことで魔力に変えるんだとか。

 魔法使いは全員その能力を持っている。

 適性がない場合、魔素を取り込んでもそのまま排出されるんだって。


 二つ目は【呪文】。

 定型となるものは存在するけど、基本的に「言葉に魔力を乗せる」とそれが呪文になるから人それぞれ同じ魔法でも呪文がちがう。

 呪文に乗せる魔力の量次第で威力も決まってくるから、大きな魔法になるほど呪文が長くなる傾向にある。

 あと、文字に魔力を込めることもできて、効果は限定されるけど魔法を補助する【魔導陣】やごく初歩的な魔法であれば魔力を込めただけで発動する【魔法陣】というものもある。


 三つ目は【魔導具】。

 魔素が結晶化した【魔晶石】に魔導陣を組み込んだもので、魔法を使いやすくするための補助具、って感じかな。

 本来魔法は魔力と呪文さえあれば発動するんだけど、変に制御を間違えてしまうと暴走や暴発を起こしてしまう。

 特に魔法を覚えたての初心者は危険で、魔法のさじ加減を間違えて危うく死にかけた、なんて話も聞いたことがある。

 それのせいで昔の魔法使い人口はいまよりもかなり少なかったみたい。

 この魔導具が発明されたことで、魔法の制御がしやすくなって魔法使い人口は大幅に増えた。


 でも、これが全部そろったからといって魔法が使えるかというとそうじゃない。

 魔法は魔力が扱えてこそ魔法になる。

 適性があっても魔力を扱える能力がないと魔法使いにはなれない。

 それで魔法を断念した人もいる。

 あくまでも適性は魔法を使える可能性がある人を指す言葉だから、実際に魔法使いになれる人はそう多くはないんだよね。

 まあ、一人その才能を開花させて爆走中な子がいるけど。

 一歳年上なだけなのに【魔法基礎読本】ほぼマスターとか天才もいいとこだ。

 そこまでとは言わずとも、


「……せめて身を守れるくらい使えるようになったらいいんだけど」


 基本中の基本が書かれたそのページから目を離す。

 シーツの上に無造作に置いてあった濃い茶色の首飾り型魔導具を持ち上げたところで。


「ダット。いい?」


 お母さんの僕を呼ぶ声と扉を叩く音が重なった。

 なんだろう。


「なに、お母さん」


 本を開いたまま返事をする。

 と、扉が開いてお母さんが少し困ったような顔を覗かせた。


「あのね。ライナちゃんとエイリクスくんがお見舞いに来てくれてるの」


 ……これは。

 それはダット()の幼馴染み兼友人の名前で、


「うわさをすれば、かな」


 思わず苦笑してしまったのは片方がいま思い出していた魔法の天才だったから。


「ダット……?」

「あ、ううん。なんでもない」

「……そう?」

 

 お母さんのいぶかしげな表情はすぐに消えたものの、不安なんだろうなあ。


「まだ具合が悪いから、って言って帰ってもらう?」


 僕の体調もだけど、記憶のこともあるし。

 聞いてきた内容からして、もう少し時間をおいた方がいいんじゃないか、って感じだ。

 たしかに以前の僕を知ってる人はいまの僕に戸惑うだろうし、お父さんが感じたように【魔物憑き】だと言われるかもしれない。

 それでも。

 この世界で生きると決めた以上、外に出ない選択肢はない。


「ううん。それはいいよ。会う」


 以前の僕ではなくても、いまの僕も僕。

 それを受け入れてもらわないと。


「でも……」


 お母さんはまだ迷っているみたいだけど、僕はもう覚悟を決めていた。


あのこと(、、、、)を話すのはさすがに難しいけど、あの二人ならきっと大丈夫だと思う。心配してくれてありがとう」


 お礼を言うと「無理しないでね」と抱きしめられた。


「うん」


 ふわりと薫る花のような匂いが、心を落ち着かせてくれる。


「じゃあ、行くわね」


 待ち人がいるからか、お母さんの抱擁はすぐに終わった。

 静かに扉が閉まり、僕は一つ深呼吸する。

 あとはもうなるようになれ。

 騒がしくなるだろうこの部屋の近い未来。

 それを思って僕は顔を引き締めた。



2016.6/29 改稿

2016.7/3 改稿

2016.7/10 改稿

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