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頭を打ったら異世界でした。  作者: 小池らいか
第三幕 王都の冬
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観劇してはみたものの




「おまえ、おまえは……っ、自分が一体何をしたのかわかっているのか!」

 剣を持った男が一人、燃え盛る村を背景に高笑いする女に叫んでいた。

 魔物の咆哮、そして村人たちの悲鳴。

 それに心を締め付けられ、苦しんでいた。

 だが――

「あははははっ。あはははははははっ」

 女は高笑いをやめなかった。

 その瞳に涙を溜ながらも、苦しげに顔を歪めながらも、心底嬉しそうに笑っていたのである。

「本当に馬鹿な男ね、あなた。この村が、あたしに、そしてあの人にしたことを許せると思って? 忘れられるはずがないわ。この村は再び繰り返そうとした。あぁ、そう。そうよ。これは復讐。でもね、あたしがしたのは魔物の巣をちょっとつついただけ。それ以外はなにもしてないわ。愚かな選択をしたのはこの村」

 かつん、と女が一歩前に出た瞬間に炎が舞い上がる。

 女は魔法使い。

 それも半端な腕ではない。

「ライラ!」

 男は剣を構えたが、そこにはまだためらいがあった。

 なぜなら男は、彼女を愛していたからだ。

 しかし、女の手元から広がったのは復讐の証である炎だった。

「いい気味よ。この村も、あなたもね。ガロード!」

 本物の殺気のこもったその炎に、男は決断を下す以外の選択肢がもう、なかった。

「ねぇ、死んで?」

「くっ……」

 男は歯を食いしばり、女が放とうとした炎の中に飛び込む。

 そして――――女が倒れた。

「このっ、馬鹿がっ」

「ふふ……っ、どっちが、よ。さよなら、ガロー……」

 男の剣に胸を貫かれ、女が息絶える。

 村の炎も、村人の悲鳴も続いてるが、男はそこを動かない。

 否。動けない。

 たった今、彼は、愛しいと思った女をその手で、殺したのだ。

「なぜだ。どうしたら、どうしたらお前を救えていた? どうしたら、お前に復讐をさせずにすんだだろう。どうしたら……」

 男は過ぎた過去を悔やんだ。

 だが、過去にもしもはない。

「あぁ、そうだ。俺は自分の責務を果たさねばならない。この村を治める領主として、二度とお前のような者を出さぬために!」

 男が叫び、世界は暗転。

 そして。


「……これ絶対子供向けの劇じゃない」

 拍手喝采の劇場内で、僕はため息をついていた。

 過去に虐げられ、愛する男を村に殺された女魔法使いが村に復讐を遂げようとするも、その前に領主と恋に落ち、だが……という昼ドラの味付けがされた女性好みとしか言えない復讐劇。

 まぁ、微妙に活劇らしいアクションもあって、そこはちょっと注目して見てたけど。

 僕らの周囲の観客は女性ばかり。

 世界が違っても、女性の趣向はあまり違わなさそうだ。

 父さんとか身体大きすぎて、二人がいい雰囲気なときに見えない、邪魔だ、って言われて落ち込んでた。

 てか、王女様がこういうの好きっていうのは意外だった。

 最初会ったときとか男装とかしてたし、言葉遣いも女性的、というより、中性的な部分が多くあったし。

 でも嗜好とかはやっぱり女の人寄りなんだな。

 表情がめちゃくちゃ楽しそうだっし。

 役者たちが再び舞台に現れ、盛大な拍手が送られたあととかもうホント強引だった。

「さぁ、行こうか」

 上気した表情のまま率先して父さんの制止とか無視して劇場の奥に入って行っちゃうし、マリッサ様も戸惑いまくってるし、わけのわからないまま追いかける。

 雑多に置かれた舞台装置や道具箱、衣装箱をひょいひょい避けながら慣れた様子でどんどん進んでいく王女様。

 この子絶対常習犯だよ。

 確信したのは、まだ衣装を纏ったままの役者たちの前に出たときで。

「やあ、みんな。久しぶりだね」

 あまりにも気さくすぎる声かけと。

「あらやだ、クーちゃんじゃない」

「お、クー。久しぶりだな」

「ちょ、クーったらどうしたの。そんな女の子みたいな格好して」

 一斉にあがった役者たちのにこやかな声ときたら。

「「クー、ちゃん?」」

 あっけにとられたマリッサ嬢と僕がほぼ同時につぶやく。

 父さんなんてもう凍り付いたかのように動いてない。

「ふふ。ヒドいな、アリカ。わたしが女でなかったときなどあったかい?」

「あら、その物言いは健在なのね。けれど、女性らしいことは苦手じゃなかったかしら。もしかして……」

「お、ついにクーにも春が来たってことか? どこのどいつだ。俺に言え。しっかり見極めてやらぁ」

「ちょっと、ヴァルゴ。あんたみたいな馬鹿に見極められるような子をクーが選ぶはずないでしょ。この馬鹿!」

「あぁ? なんだとぉ。このあばずれが」

「なんですって、この唐変木!」

 うん、なんだ。

 非常に賑やかですね。

 一芝居終えたばかりの疲労など関係ないと言わんばかりの歓迎ぶりに、僕は王女様がどれだけ彼らに好かれているかを知った。

 というか、彼らは彼女が王女だと知ってるんだろうか。

 いや、それにしても。

「あたしら放置?」

「ははは」

 予想外の展開にマリッサ様も僕も苦笑いするしかない。

 いや、王女様お気に入りの劇団なわけだし実際はそうでもない、のかな。

 しばらくの間、彼らの再会の様子をただ見ていたわけだけど。

「で、クー。そろそろお連れさんを紹介してくれない?」

 栗色の髪の、主役の女魔法使いの格好をした女性が気を利かせてくれた。

 激情を秘めた主役を務めた割に、穏やかそうな女性だ。

 舞台では髪を振り乱してマジで怖かったけど。

「ああ、そうだね彼らはわたしの友人だ。赤毛の娘がマリッサ。隣の小さな子がユート。そして、この綺麗な顔をした少年がその……」

 王女様が一人ずつ、紹介していく。

 そんな中、僕を見てほんの少し言い淀んだその瞬間を抜け目なく察知した女性陣がいたことなど、僕には知るよしもない。

 何かを期待するような空気が生まれつつあるのもたぶん気のせいだ。

 うん、気のせい。

「ダッ……」

「オルガ!?」

 ん?

 僕の名前を言いかけた王女様の声に別の声が重なった。

 舞台裏だからなのか、彼の声が元から大きいのか、それはよく響き渡り、全員が目を丸くする。

 振り返った視線の先にいたのは黒髪青眼の日に焼けた肌をした男だ。

 特徴的に、明らかにこの国の人間じゃない。

 けど、この人……?

 どこか既視感を感じていると。

「オルガ・リオ・クォリ!?」

 彼は僕たちとは反対の方向を見つめ、鋭く叫んだ。

 そして、僕の知らない言葉を喋りながら、戸惑う劇団員たちをかき分けてこちらに突進してきたのだ。

 その手が伸びた先は……

「え、ちょっ」

「おい!?」

 泣く子をさらに泣かせること請け合いの顔面凶器を持つ、父だった。

 彼は父さんの両腕をつかみ、涙を浮かべ、ほっとしたような、それでいて苦悩に満ちた表情で語りかけている。

 何度も「オルガ」って言葉が出てくるから、たぶんこれ、名前だろうけど。

 なに、どゆこと?

 訳がわからないのは僕らだけじゃなくて、父さんもだったらしい。その表情から戸惑っていることがうかがえた。

「ちょ、ちょっと待て。落ち着け。お前、誰だ」

 父さんとしては当然の問いだったろう。

 しかし、それを聞いた男は愕然とし、さらに僕らにはわからない言葉で何かまくし立てた。

「おい、だからちょっと待て。部族の言葉で喋るな。言いたいことはわかるが、早口すぎて聞き取れん。もう少し落ち着け。あとお前さん、おそらくオレと同郷なんだろうが、だれかと勘違いしてないか?」

「!?」

 父さんの返答に、男の表情が次第に絶望に染まっていく。

「い、いや、だけど……あなたは」

 父さんに言われたせいか、今度はちゃんと聞き取れる言葉で喋りかけた男だったが。

「ちょっとイビク。あんたどうしたの。急に」

「そうだぞ。まぁ、髪の色やら肌の色やら見りゃ、そこの旦那の言うように同郷なんだろうが。知り合いか?」

「……っ!!」

 劇団員から声をかけられるとそれで我に返ったのか、苦悶の表情で駆け出した。

 けど、そこで僕は納得がいった。

 そうか、この既視感ってそういうことか。

「おい、イビク!」

 劇団員の一人がその後ろ姿に声をかけるが、彼は止まらず、その背中はすぐに荷の向こう側へ消えていった。

 一体なぜ、こうなったんだろうか。

 再び全員困惑顔で顔を見合わせる。

 ただ一人、険しい顔をしていたのは父さんだった。

 何か思うところがあったのか、

「悪いが、少し抜ける許可をもらえるか」

「ああ。かまわない」

 何かを悟ったような王女様の返事に、イビクという男の消えた方向へ歩き出した。

 その姿が荷の影に消えると、劇団員たちの口からため息が漏れだす。

「まったくもう。なんなの。イビクったら」

「アリカ。おちつけ。あと悪いな、クー。来た早々騒々しくなっちまった」

「いや、気にしなくていい。わたしも想定外だった。まさか彼があんな反応を示すとは」

「まぁなぁ」

 仲間からヴァルゴ、と呼ばれていた栗色の髪の男が頭を掻く。

「あいつの故郷はずっと南だし、同郷の人間なんぞ、そうそういるもんじゃねぇ。けどなぁ、あんな反応するとくりゃぁ、知り合いとしか考えられねぇんだが」

「確か彼、村を滅されたときまだ十四だった、って言ってたわよね。あの怖い人も生き残りだったりして」

「あー、その可能性もあるかもしれねぇが。それにしちゃぁあの旦那も知らねえ感じだったし…… おい、クー。あの旦那。どこで捕まえてきたんだ」

 半眼でヴァルゴさんから睨まれた王女様は「そうは言われてもね」と苦笑すると僕を見下ろした。

「ダット。何か知っているかい?」

「え」

 そこでこっちに回ってくるんだ。

 いや、まぁ、状況的にそれしかないけど。というか、全員こっち見て首傾げてるけど。

「知っている、というか。父さんから似たような話を聞いたことはありますが」

「そうなのか」

「はい。ただ、その」

 本当は父さんの口から喋るのが一番いいんだろうけど、ここは仕方ない。

「父のいた集落では、父だけしか生き残らなかった、と。だから同じ村の出身っていうわけではないと思います」

 それにあのオルガっていうのが名前だったら、父さんの名前とはまた違うし。

 それを聞いた王女様の瞳がわずかにだが揺れた。

「そうか。言いづらいことを聞いて悪かった」

「いえ」

 王女様は謝罪し、あっさり納得した面持ちになった。

 が。

「おいおいおい。今の聞いたか」

「父さん……って言ってたわよね」

「うぇぇ。マジか?」

「ちょっと。あり得なくない?」

 僕を凝視し、また父さんが消えていった方向を見てはざわめく劇団員の人たち。

 ああ、間違いない。この展開。これはいつものあれだ。

「えっと、あの。疑うのも分かるんですけど、正真正銘実父ですから」

 数秒の沈黙。

 そして鼓膜が破れなかっただけまし、な叫びが何重奏も響き渡り。

「そろそろこれも疲れたな」

 本気で父さんに似てこないかな、と無理なことを考えていた。


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