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頭を打ったら異世界でした。  作者: 小池らいか
第三幕 王都の冬
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市街地の攻防?



 とまぁ、気合いを入れたところで、すぐに魔力を理解できるわけでもなく。

 あれから数回、授業という名の指導を受けたけれど……うん。

 何も言うまい。

 シェリナ叔母さんにも手伝ってもらったよ。もちろん。

 でも、やっぱり、才能というのは残酷でした。

 日に日にダメなんじゃないか、と落ち込んでいく。そんな僕を見かねた王女様が提案したのは、屋敷の外に出ることだった。

 ちょうど、王女様お気に入りの劇団が王都に来ているらしい。

 そんなわけで現在。

 

 ――みょみょみょっ。あれはアルプの実だみょっ。クルス。我が輩に進呈するのみょっ。


「……やはりおいてくるべきだったかな」

「こういうとこに来るの、久々。あ、キト鳥の串焼き発見。あとで食べような。ユート」

「うんっ」

 社会見学もかねて、ということで、それぞれ一般市民の格好で市場を散策中。

 住宅街になると積もっている雪も、このあたりでは魔道具で積もらないようにしているのだろう。

 市場の中には見当たらない。

 そこに八百屋やら、屋台やら、服飾関係やらが大量に並んでいる光景は、圧巻だ。

 さすが王都。

 カーライルとは仕様も規模も全く違う。

 雑踏のざわめきと店舗の呼び込みと料理の香りが半端ない。

 結構荒々しい怒声も聞こえるから、元々は慣れてるだろうマリッサ嬢や、田舎育ちの僕、悠斗君はともかくとして、普通の格好っていっても、服の生地からしてどこかの貴族様がお忍びで来てる、程度には見える王女様がこんなところいいんだろうか。などと思ってしまう。

 ……すごい顔立ちが整ってるから、周囲の視線かなり集めてるし。

 まぁ、声をかけられたりはないんだけどね。

 つかず離れず、な位置にいる巨漢。

「なぜオレが護衛なんだ」

 こっそりため息ついてる父さんのおかげで。

 鎧は着けてなくても熊のような体格と、渋々という表情の父さんの顔は、非常に怖い。慣れてない一般の人にはものすごーく近寄りがたいのだろう。

 そのあたりを歩いている人があからさまにこそこそ避けていく。

 歩くだけでそれだから、護衛の腕前を別としても人除けとしてこれ以上ない人材に違いない。

 なんて父さんの顔を見てたら、目が合った。

「体調は平気か?」

「うん。今日は調子いいから平気。父さんこそ、大丈夫?」

 ヴィリア様から今日の外出について聞かされたときかなり渋い顔してたからなぁ。

 一応仕事の顔をしているけれど、尋ねればほんの少しだけ顔をゆがめた。

「……王族に関わって、ろくな目に遭った試しがないからな」

 傭兵時代のことを思い出したのか、ため息までついてきた。

 それでも。

「だが、王女はどうやら、噂に聞くよりまともそうだ」

 マリッサ嬢と楽しげに話す王女様を見る父さんの目は柔らかい。

「ダット、こっちに来てみるといい。これはなかなかおもしろいよ」

 いつもよりはしゃいで見えるのは、市場という雑踏と並んでいるものが珍しいからか。

 父さんと軽く視線を交わして、僕は王女様とマリッサ嬢、悠斗君が身を乗り出している露天をのぞき込む。

 そこには電動式玩具、としか言えないようなひとりで勝手に動き回る玩具の数々があった。

 二頭引きの馬車にくるくる回る風車小屋、カタカタ走るメイド人形等々、前世の世界が懐かしくなるようなものがいくつも棚に並んでいた。

 とはいえこれらは電池で動いているわけじゃない。

 電力、という概念がないこの世界で代わりに用いられるのは魔力なわけで。

 魔力で動かす、ということは魔法使いの素質を持つ子供たちにとっては訓練にもなるから需要は尽きない。

 魔晶石使ってるし、技術料も考えたらいい値段になるだろうけど。

 そんなわけで、興味津々だが冷やかししかできないような子供たちなんかがその露店に群がっていたりする。

「さぁ、魔力で動く人形たちの舞踏をご覧あれ」

 子供たちの目の前で、露天商のおじさんが動いていなかった兵士の人形に触れる。

 次の瞬間、兵士の足がカタカタと動き始めた。

「おーすっげぇ」

「動いた。動いたよ」

 槍を手に黙々と歩く兵士の姿に子供たちの歓声が上がった。

 露天商のおじさんは満足げにその姿を眺めている。

「ねぇおじさん、これ、オレにも動かせる?」

「さぁて、おまえさんに魔法を使える素質があるなら動かせるだろうね。そうでないときは、残念だけど無理だなぁ」

「えー、オレそんなのしらないよー」

「そうか。じゃ、魔力があるかどうか調べる魔道具があるとこに行って調べてもらうんだなぁ。サル=カリア教会あたりなら確実だろうさ」

 そら行った行った、と露天商が笑うと「行ってくる!」言われた子供は目を輝かせて去って行く。

 つられてまた数人があとを追いかける様を露天商はまぶしげに視線を送り、再び目の前の子供……に。

 あ、目が合った。

「おや、君は魔法が使えるのか」

 露天商の視点が僕の胸あたり――魔晶石丸出しの首飾り――に止まった。

「どうだい? このあたりがおすすめだけどね」

 露天商が勧めてきたのは精巧な鎧を着た兵士と、剣を掲げた兵士の人形。

「こっちの兵士は歩くだけだが……」

 露天商はそう言って鎧を着た兵士を歩かせ、剣を掲げた方の兵士に触れる。

「こいつは光る」

 宣言通り最初はじわりと弱い光。やがてまぶしいと感じるような光が剣に宿った。

 剣そのものが、光を放つ仕様になっているけど全体が光っていてムラがない。

 電球を使った日本の玩具では絶対に表現できないだろう代物だ。

「うわ、これどういう仕組みになって……」

 思わず感嘆の声をあげたところで。

「ダット。光源の魔道具の応用だよ」

「え」

 見上げた先で、王女様が微笑んでいた。

「剣の部位に光の魔晶石を使っているんだ。おそらくは魔道具などの加工後に出た魔晶石の小さな欠片をさらに加工したのだろう。貴族の屋敷などでは芸術品にこのような趣向を凝らした照明も少なくないよ。まあ、かの屋敷にはないようだけれど」

「ほう、そちらのお嬢様は詳しいね。ま、そういうことさ。こいつはちっとばかり小さいから、手元を照らすぐらいしかできないが。枕元に置いて、本を読むくらいは問題ないぞ」

「へぇ」

 魔法が使えるならば、欲しい仕様……と言える。

 が、しかし。いかんせんお金がない。

「そうだなぁ、銀貨十枚でどうだ」

「ごめんなさい」

「おいおい、判断早いなぁ」

 露天商のおじさんが苦笑する。

「あははは」

 大人一ヶ月の生活費をそんなにぽんと出せるわけないじゃん。

 無理無理。

 同じ苦笑いを返していると。

「店主、銀貨十枚でいいのかい?」

「ん? お嬢様が買うのかな?」

「ああ」

「は!?」

 王女様がごそごそと持っていたポシェットに手を突っ込んでいた。

「ちょ、まって、お……クルス様っ!?」

 流石にここで王女様って呼ぶのはまずい。

「ん?」

 あぁ、さわやかな笑顔で振り返ってくださった。

 嫌な予感がする。

「く、クルス様、これ欲しいんですか?」

 王女様なら、こんな市井の露店でなくても御用達のお店とかありそうなのに。

「いや、君に贈ろうと思ってね」

「!?」

「欲しそうな顔をしていたようだから」

 ……よく見ていらっしゃる。

 てか、違う!

 十歳の子供に即決であげるとか普通ないでしょ。

「こ、困りますっ」

「なぜだい?」

「こ、こんな高いもの……」

「安心していい。これはわたしが公務で(働いて)得た給金で買うのだから」

「いや、そういう問題じゃなくて」

 あぁ、なんて説明したらいいんだか。

 思わず頭を抱えていると、頭上から影が落ちた。

 そしてあがる、子供たちの悲鳴。

「おい。五枚にまからないのか」

 野太い声が周囲に響いた。

「ひっ!?」

 当然のことで露天商のおじさんも驚いたのだろう。しかめっ面の大男の登場に、顔が引きつる。

 だが、流石に商売慣れした商人というべきか。

 すぐに取り繕った笑顔を取り戻した。

「こ、こちらのお嬢様の護衛の方、ですか?」

「そうだ。ついでに言うなら、こっちの子の父親でもある」

 ごしごし、と父さんの手が僕の頭をなでる。

 露天商のおじさんの目がありありと信じられない、という感情を浮かべるけど、うん。事実です。

「そ、そうですか」

 あれ、敬語になった。

「で、どうなんだ。まけられるのか?」

「いえ。流石に五枚は……銀貨八枚と銅貨八十枚では?」

「……銀貨六枚と銅貨五十だ」

「では銀貨七枚と銅貨三十枚。これらの加工、魔導印……《紋章》を入れる手間を考えれば妥当だと思いますが」

「わかった。いいだろう」

 ぽかん、と僕や他の人たちが見守る中、値段交渉はあっさり終わった。

 父さんが腰に提げていた革袋からジードリクス銀貨を取り出していく。

 って、ちょっと待った。

「と、父さん。そんな大金どこから……」

「心配するな」

 いや、心配にもなるよ。

 この先の旅の資金とかあるし。

「大丈夫だ」

 ごしごしと再び頭をなでられる。

 そこにあるのは安心感を生む、力強い手と笑みだ。

 じゃあ、大丈夫かな。

「わたしは大丈夫ではないよ」

 横で王女様はがっくりと肩を落としていたけど……うん。

 とりあえず、これはこれでよし、かな。



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