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頭を打ったら異世界でした。  作者: 小池らいか
第二幕 帝国への旅立ち
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霧の伝承




「戻れない?」


 この世界に来れるのであれば、その逆もありそうなのにないのか。

 想定内と言えば想定内。予想しなかったわけじゃない返答。

 それなのにけっこうショックを受けるって……

 無意識でもやっぱりそれなりに期待してたのか、僕は。


「ああ。そのあたりも含めてもう少し話すか」


 お前も無関係じゃないからな。とお父さん。


「ここからは伝承……ある種の昔話も含まれてくる。【霧の伝承】ってやつだな」

「霧の、伝承?」

「ああ。実体のない霧の魔物【幻の霧魔(むま)】が人を異界から攫い、また連れてくる。その魔物によって連れてこられた人間が霧幻人(むげんびと)と呼ばれている。実際にさっきもずいぶんと濃い霧が出ていたからな……あの子どもはおそらくその時に連れてこられたんだろう」


 どういうことだろう。

 普通の魔物なら遭遇したら対抗手段なきゃ命はないっていうのが常識なんだけど、魔物が人を違う世界に連れてくって有りなの?


「言っておくが、これはあくまでも伝承だからな。便宜上そう呼んでいるだけで、実際は魔物でない可能性もなくはない。中には転移魔法の類などという輩もいるが、こちらも証明はされていない。そもそも転移魔法は魔法使いの間では禁忌とされているからな……」

「禁忌ってどんな?」

「使用すると悲惨な最期を遂げるらしい」

「なにそれ怖い」

「そこに関してオレは噂ぐらいしか知らん。詳しく知りたければシェリナに聞くんだな」

「……うん」


 お父さんは魔法使えないからね。

 魔法に関してはシェリナ叔母さんの管轄だ。


「と、話が逸れたな。だが、昔から【霧の伝承】そのものが魔法的ななにかが関わっているのではないかとは言われている。霧幻人は霧と魔素の濃い場所(、、、、、、、、、)から現れる。魔力が魔素に変換されることを思えば当然の帰結だろう。とはいえ、その場所は一定じゃない。ジードリクス王国の山脈より南の国々。西の半島にある砂漠の魔法大国ジルヴェスタ。その隣に荒野と乾いた山脈を持つギア・ノーティス。ギア・ノーティスの北東に広大な草原の国シャンタナ。その南に豊かな山脈と森を有するバルフェルド王国。有名どころの国だとだいたいこの四国が【幻の霧魔】の縄張り…………つまり霧幻人の出現する範囲だと言う説が主流だな」


 ちなみにジードリクスの山脈を越えた先にある国が草原の国であるシャンタナにあたる。

 お父さんの言葉通りなら、ジードリクス王国は本来霧幻人が現れる場所じゃないってことか。


「あぁ、だからそんなに心配いらないって……」

「そうだ。それもあるが、そもそも霧幻人にはいつどこに現れるかの予兆なんてものがないからな。どちらかと言えば【幻の霧魔】に連れて行かれたという噂を耳にするほうが多い」

「そっか。いきなり現れた人間が異世界から来た!って言うよりはそっちの方が信じやすいよね」

「魔物に喰われて死んだと思うより、異世界へ連れ去られても生きていると思った方が希望も持てるし、気が楽なんだろう」

「あー……なんかわかる気がする」


 前世でも似たような話があったからなぁ。

 あの町の言い伝えは確か。


 【霧の神隠し】


 霧に導かれて桃源郷に行く話だったはず。

 しかも実際、何年かに一度必ず行方不明者がでた、って大騒ぎになってたっけ。

 霧が出てた日が大半で、そのたびに言い伝えの話が話題に上ってたのを覚えてる。

 しかも警察出てきても結局行方不明者は行方不明のまま。

 何年も見つからず、結局死亡扱いになったってケースも聞いたこと、がある。


「…………あれ?」


 魔物が人を攫う【霧の伝承】と、霧によって桃源郷に導かれる【霧の神隠し】。

 現世(いま)の世界と前世(まえ)の世界。

 これ、もしかしなくても(おんな)じ現象じゃない?


「え、えっと。お父さん」

「どうした?」


 思い至ったことをお父さんにそのまま話したら、顔が思いっきり引き攣ってた。

 だよね。そうなるよね。

 僕も同じ気持ちです。


「ま、待て。いろいろと気になる部分はあるんだが。お前がいた世界ではそんな正確に行方不明者がわかるのか……?」

「わかるよ。個人の情報が戸籍なんかでしっかり管理されてる社会だったから一人でも行方不明になったら大騒ぎになるね」


 誰かがいなくなればよほどのことがない限りすぐに警察に届けられて町全体で捜索が始まる。

 対して、こちらの世界は一応戸籍みたいなのはあるけど身分証とかそんなのはない。

 すべてが自己申告で自己責任だ。


「こっちでいう自警団、みたいな人たちが総出で探すし、掲示板みたいなので即日国中にそれが伝わるし」

「………………どんな国なんだ。それは」

「あはははは。まあ、実際に見ないとわからないと思うけど、たぶん文化とか技術とかはこっちの世界よりある意味進んでるかなぁ」


 わー。お父さんが今まで見たことないくらい困惑して頭抱えてるー。

 情報社会だとかテレビだとかニュースだとか言っても伝わらないだろうからぼかして言ったけど、どんな世界を想像してるやら。


「ただ、僕にもわからないんだけど、行方不明になる人の話は聞くのに、誰かが突然現れたって話は聞かなかったのが不思議なんだよね」


 お父さんの話からして、こっち側の人間も向こうに行っていると思うんだけど。

 日本人の町に、顔の濃い人とかこの国の服みたいなのを着てる人がいたら目立つだろうし話題にもなるはずなのになぁ。

 あ、いやでも霧原町って外国人けっこう住んでた気がする。

 一応観光地だし、留学生もいたりするし。

 そのなかに混ざっていたりとか……?


「は、話を聞く限り随分と統制が取れている場所のようだから、国やなにかの組織が保護、あるいは隠蔽している可能性もあるんじゃないか」

「あー……どうだろ。僕はそのあたりにいる普通の一般人(大学生)だったし」


 ぶっちゃけ超常現象系は詳しくないし、秘密裏に動くような組織とかそんなものがあったとしてもわかるはずもない。


「でもそっか。元凶の霧がどこに現れるのかわかんないんじゃ、帰りたくても帰れないよね」


 ふたつの世界にまたがる霧の言い伝えはどこまでも似ている。

 そして、地図を確認したらすぐにわかることだけど、【幻の霧魔】が出るとされている範囲はとてつもなく広い。

 あの子が帰れるための手段。

 それは二度目の奇跡でも起きない限りあり得ない。

 例え奇跡が起きたとしてもそれがいつのことになるのかわからない。

 明日か、明後日か、一月後か、半年後か、一年後?

 十年後、二十年後、あるいはもっと先か――――


 お父さんが戻れないって言うわけだよ。

 あの子、大丈夫かな。



2020.7/7 改稿

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