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頭を打ったら異世界でした。  作者: 小池らいか
第一幕 始まりの町カーライル
10/61

幼馴染み、襲来



「よう、ダット。来てやったぞ!」


 相も変わらずにぎやかしい。

 格好つけ気味の少年の声と共にその扉は勢いよく開かれた。

 天井へ向けて真っ直ぐ向いた赤い髪が跳ねる。

 四方を白っぽいレンガに囲まれた室内が一気に鮮やかさを増し、続けてこれまた華やかな銀髪の癖っ毛の束が二つ色を添えた。


「ちょっ。このばかエリク! ダットは病人なんだから、静かにしないとだめなのよ!」


 赤と銀。その二つのうしろには金色が控えていて、彼女は苦笑すると「あまり騒がないようにね」と注意だけして去っていった。

 ……ごめんね、お母さん。

 この二人にそれは無理だと思うよ。


「ダット。あたま打ってきおくそーしつとか聞いたけどヘイキか?」


 赤い髪のエイリクス、通称エリクがベッドの上に乗り上げてくる。

 しかも自分で聞いておいて返事も聞かないうちに、


「お、ホータイまいてんの? どこ打ったって?」


 さらに質問を重ねてくる。

 それを咎めるのは銀の髪の少女ライナで、


「ちょっとエリク。病人のベッドに登らないの! ダットがゆっくり休めないでしょ」


 エリクの襟首を掴むとそのまま引っ張り、床に引きずり落とす。


「いでっ」


 鈍い音と共に、エリクがお尻から床に落ちた。

 一応マットを敷いてるけどその下は石だから、痛いだろうなぁ。


「な、なにすんだよ。このぼーりょく女!」

 

 お尻をさすりながらエリクがライナを睨みつける。


「あんたがダットのベッドに座るからでしょ。ダットは病人。ベッドの上で騒ぐなら帰んなさい」


 ぎろり、とライナもまた目を細くする。

 いつもの光景とは言え、お母さんがいなくなった途端にコレだもの。

 うるさくならないわけがない。

 僕は、僕を放り出して睨み合いを始めてしまった二人を見てこっそりため息を吐く。

 なんでいつもこうなるんだろう。

 顔を合わせると何かにつけて言い争いになる。

 言うなれば、犬猿の仲。

 でも喧嘩するほど仲がいいというかなんというか……変なところで気が合うのもまた事実。

 その喧嘩の種は大抵僕だ。


「別にいーだろ。それぐらい」

「よくない! あんたってばいっつもそうやってダットを振り回してるじゃない」

「あー? おまえだってそーだろー。ダットがおとなしいからってあねき風吹かせてさぁ。だからダットがつよくなれねーんだよ!」

「はぁ? なに言ってんのよ。ダットはエリクみたいにガキ大将じゃないの。あんたみたいになれるわけないでしょ」

「だからって女に守られるのがふつーじゃねぇだろっ。だーかーら、オレがきたえてやろうってしてるんじゃん」

「あんたの鍛えるは危ないのばっかでしょ。ダットにケガさせる気!?」

「ケガぐらいどーだっていいっての。父ちゃんが子どものうちはそれが男の勲章だって言ってたぞ」

「それはあんたの家の場合でしょ。ダットはねぇ、あんたみたいに丈夫じゃないんだから!」

「だから、丈夫になるためにいつもさそってやってんだ。男がひょろひょろじゃカッコつかねーだろ」

「あのね。男がみんなあんたみたいな人間なわけないじゃない。ダットはキーラおばさんに似て細いの。センサイなんだって、うちのお母さんが言ってたわ。だから」

「は? だからなんなわけ。おまえこそ女のくせにいっつも人をボコボコなぐりやがって」

「なっ。それはあんたがいっつも失礼なこと言うからでしょ!」

「バカ言うなっ。ホントのこと言ってるだけだろーが!」


 ……いつものことながら口を挟もうにもそんな間がない。

 そしていつも通りなら言うことがなくなれば自動的に止まる。

 でも今日のこれは……ちょっと駄目な気がする。

 二人ともがお互いに飛びかかりそうな雰囲気で。


「それが失礼だって言ってるのよ!」


 思った側からライナの腕が飛び跳ねた。

 あ、やば。

 取っ組み合いもめずらしくない二人だけど、いまは――


「ライナちゃん! エイリクスくん!」


 ノックなしで部屋の扉が勢いよく開いた。

 ほら、来ちゃった。

 扉が立てた大きな音に、エリクもライナもそして僕も、開け放たれた扉の向こう側を凝視した。

 エリクはライナの拳を受けようと腕を上げたまま、ライナは拳を振り上げたまま。

 仁王立ちの金髪碧眼美女(お母さん)を見上げていた。

 

「……あ。キーラ、おば、さん?」


 ライナ、完全に固まっちゃってる。

 ふだんと違うお母さんに驚いているんだろうなぁ。


「ふふふ。ライナちゃん。エイリクスくん」


 お母さんがにこりと笑う。ただし目は笑ってない。

 あ、これ昨日と同じだ。

 強面のお父さんでさえひるんだあの顔がそこにあった。

 ここにエフェクトがあったら、きっとお母さんの背後からは黒い何かがでてたと思う。

 視線が向けられていない息子の僕から見ても迫力ありすぎる。


「わたし、さっきなんて言ったかしら?」


 びくっ、と二人の肩が震える。


「ダットは今、ケガをしていて安静にしていなくちゃだめなのよ? だから……」


 お母さんが一歩、部屋の中に踏み入った瞬間だった。

 静かな室内。

 そこに響いた足音はまるで死刑宣告の前触れのようで。


「「ごっ……ごめんなさいぃぃぃっっっっ!!」」


 やっぱりこうなった。

 正義(?)の女神さまに少年少女は平伏するのでした。



2016.6/29 改稿

2016.7/3 改稿

2016.7/10 改稿

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