いきなりな急展開
頭が痛い。
ここどこだ?
それが意識が戻る瞬間に感じたことだった。
痛みを感じた場所は後頭部。
手を伸ばし、触れてみれば大きなこぶが出来ている。
まあ当然か。
なんたって、僕の背中には堅い石の床がある。
でもその前に、気になることが……
「やだ、ちょっ。大丈夫なの!?」
僕をのぞき込む金髪碧眼美女のこと。
お互いの息が触れ合う程度の距離にあって、しかも彼女が僕の上に被さった状態とか、マジでなんなの、この状況。
正直なにがどーしてこなったのかさっぱりわからない。
金髪碧眼の美女に襲われるとか、あいつなら大歓迎なのかもしれないが、あいにく僕にそんな趣味はない。
いい匂いがするし、触れている箇所はやわらかくて……悪い気はしないが。
ってそうじゃなくて、この人誰だ?
「えー。ヘイキなので。とりあえず僕の上からどいて頂けませんでしょうか?」
「え?」
彼女の目が驚きに包まれる。
「ど、どうして敬語なの?」
「え?」
何かおかしなことを言ったかな。
「はじめて会う人に敬語はふつうな気がしますけど」
「!?」
今度は驚愕と表していいだろう。二の句が継げないとばかりにうろたえ始めた。
なにがどうしてそうなったのか、気になるところではあるけどさ。
でも、それを聞くより前に。
「……ごめんなさい。動けないので、早くどいてください」
あと、口には出せないけど、男的にいたたまれないから。
「あっ。ご、ごめんね。ダット」
僕の体をまたぐように覆っていた金髪碧眼の美女が、ようやく我に返ってくれた。
はぁ、と知らずに入っていた力がため息と同時に抜ける。
そしてズキズキと痛む頭を押さえながら起き上がった。が、流石に盛大に頭を打ち付けたせいか、頭がクラクラする。
「だ、大丈夫?」
再び彼女に心配の声をかけられた僕は「まぁ、なんとか」と正面に座り込んでいる美女を、見上げた。
……見上げた?
そんな必要はあるはずもないのに、感じた違和感に周囲を見渡せば。
「え、あれ?」
金髪碧眼の背後に見える机と椅子。そして食器が並んでいる棚。
それらすべてが僕が思うよりも大きい。
机はおそらく僕が立てば首より下が隠れるほど。食器が並んでいる棚の上部半分は手が届かないと思われた。
そして床には四角い石がたくさん。
金髪碧眼の美女にはサイズぴったりに見えるが、だとすると。
そこから想像したのはとある童話。
豆の木を登った先にあった場所。
確か。
「なにこれ。巨人の国?」
にしては、スケールが小さいけど。
思わず苦笑いが浮かぶが、実際のところ洒落にならない。
夢ならいいが、それにしたって後頭部の痛みは本物だ。
さらに追い打ちは。
「だ、ダット…… 本当に、大丈夫なの?」
慌てふためくを通り越して蒼白になった金髪碧眼の美女だ。
さっきからずっと、僕のことを【ダット】と呼ぶ彼女。
なんだか嫌な予感がするのは、気のせいじゃない。
「や、やっぱり頭を打ったのが原因よね。お、お医者さま。そう、先生を呼ばなくちゃ。あ、でもあの人にも伝えなくちゃいけないわよね。ど、どうしたらっ」
あっちをきょろきょろ、こっちをきょろきょろ、完全にパニックに陥っている。
なんにしろ、まず、この人を落ち着けるのが先だ。
「あの」
「あぁ、わたしがちゃんとしていなかったから!」
「ちょ、あの、落ち着いてください!」
今にでも泣き出しそうにうつむいている彼女が着ているワンピースを引っ張り、大声を出すと忘れていた頭の痛みが復活した。
が、それを気にしているどころではない。
「はっ、な、なにかしら」
僕も大混乱のまっただ中なんだけど、それよりも先に彼女がパニックを起こしてるおかげで幾分冷静でいられている。
だからこそ、これから聞くことはものすごく心が痛いのだが仕方ない。
「お姉さんは誰ですか?」
金髪碧眼の美女が固まった。
その後のことは……まあ、いろいろだ。
結論から言うと、医者を呼ばれ。
「君の名前は?」
「橋本誠也」
「…………年は?」
「二十歳」
「……………………出身地は?」
「日本だけど」
白衣は着ていなくとも医者らしい中年の小父さんに、ごく当たり前の質問をされたので返答。
そうしたら金髪碧眼の美女に泣かれました。
頭を抱えたいのは僕の方なんだけど。
2013.6/1 改稿
2016.6/13 改稿