還る記憶
掲載日:2026/02/22
夜の手でゆっくりと毛並みを撫でてくれた
大切にされた牛なんだ
朝日とともに
あのムチは震えながら 伴にゆこう
そんな優しさだから
また明日と頑張ってゆける
泥土の中を一歩一歩 耕し歩く
それは あの手が頬が
夜 肌まで伝わるあたたかさで撫でてくれたから
真っ直ぐな眼差しで 自分が休む時間を使って
自分は汚れたままでいいかのように
あのひとが横たわる柔らかな蒼白い輪郭に心和んだ
後ろから もう一度 体温を添わせた
真昼を労う 走馬灯
嵐には天を仰いで
全て流されるよう 叫びながらみた夢は
隠れ家にかえりゆく
これからも草臥れた時はふたり草陰で眠ろう
少しの火を焚いて あなたが 美味しそうに
晩御飯を食べている わたしをじっと見つめて
わたしも そのお茶碗一杯をおかわりするように
あなたが打った熱でしなる 藁を噛み締める
ふたりの咀嚼音だけで繋がる静かな夜
お疲れ様 また明日と
あなたの寝息とわたしの大きな寝息が重なり合い
波の音に誘われてゆく
瞑想のうちに眠りに落ちる感覚のままに
春の海に還る




