第6話【地上への案内人】
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───────針木研究所、地下15階の通路。
相も変わらず、警報の騒音と、パトランプの赤い景色一色。
鳶人は、地上へ向け逃走中である。
「どうやって地下へ出るか」……それが今の課題となっている。
「エレベーターに乗れば確実。カードキーを触れる端末は、内部に無かった。
しかし、あまりにもリスクが大きい。
もし研究所側でカゴを操作できるなら……そこで終わりだ。」
鳶人は考えた末、非常階段を探す。
しかし、ここのマップがない以上、しらみ潰しに走り回るしか他無い。
追っ手の研究員が背後にいないか確認をしつつ、檻の並ぶ通路を風のように走り抜ける。
「当てずっぽうってのは、この事だな。」
そして……
─────そう走ること……5分が経った頃。
鳶人は突然、一つの檻が目に入る。
その檻だけ、他のものより頑丈そうな素材になっている。
太く、鉄棒間の隙間も狭い……明らかに『警戒』されている独房。
鳶人はつい、近づいてしまう。
「どんなヤツが収容されているのか。」それが気になった。
中を覗くと、長い髪を後ろで縛った、若い男が座っている。
壁に背をもたれ、片膝に手を乗せた……20代程度の人物。
他の檻には暴れるヤツ、幻覚を見たようなヤツ、そして死んだようなヤツしか居なかった。
しかし、コイツは違う……そう確信する『何か』が、鳶人は感じた。
「─────おい、アンタ……生きてんのか?」
鳶人はつい、声をかけてしまう。
その他よりマトモそうな男は、ムクリと頭を上げ、コチラを睨む。
男は、透き通るような声で反応した。
「────ここから逃げんのか……。」
鳶人は頷く。「あぁ。」と、相槌を打つ。
それを聞いた男は立ち上がり、スタスタと鉄格子の方へ近づいてきた。
鳶人は警戒する。研究所の手先かもしれないという疑念はあった。
しかし、情報が無い現状、何か知っているかもしれない……そう思った。
男は鉄格子の間に顔を覗かせると、口を開く。
「ここから逃げんなら……俺を連れてかないか……?
俺ならここのマップがわかる。
『瞬間記憶』─────特技なんだ。」
鳶人は、男の言葉を即座に信じはしなかった。
瞬間記憶───そんな都合のいい特技を、こんな場所で簡単に口にする人間を、無条件で信用できるほど……
──────────今の鳶人は甘くない。
「……瞬間記憶、ねぇ。」
低く呟き、男の全身を見る。
同じオレンジ色の囚人服を着たその男の頭から脚までじっくりと。
痩せすぎてもいない。怯えすぎてもいない。
妙に落ち着いている。しかしそれが一番、不気味だった。
「─────それで……」
鳶人は、鉄格子から一歩距離を取る。
腕を組み、追っ手が来ていないか、確認を取りながら。
「お前さんを連れて行って、俺にメリットはあるのか。
もし追っ手で、途中で研究員にチクられたら……洒落にならねぇ。」
男は一瞬、目を細めた。
「やっぱりな」と言いたげな顔で、言葉を返す。
「んま、信用できねぇのは当然だわな。」
声は静かだった。
この状況で、無理に取り繕う様子がない。
冷静。沈着。まるで前職は探偵でしたと言わんばかりの、雰囲気がその男にあった。
「でもよ、ここに残ったら俺達は───『殺処分』だ。
本来、薬品投与後は記憶が無くなるのが『正常』……。
しかし俺らみたいに、記憶が残るままの『不良品』が出るってワケだ。」
鳶人は、無言で視線を逸らす──────。
男は話し続けた。訴えにも聞こえる。
「俺はまだ使えるヤツ……『在庫』って判断されてる。 だから、このブッてぇ檻だ。」
男が、異様に頑丈な鉄格子を指で軽く叩く。
コンッ────という、人でも殺せるような鈍い音。
「でもな……それも時間の問題だ。」
一拍、間を置き───男は、鳶人を真っ直ぐ見た。
救世主でも見るかのように、眼差しは明るい。
「アンタが騒ぎを起こした。 警報が鳴った……つまり、研究所は今、余裕がない。」
その言葉に、鳶人の眉がわずかに動く。
「────続けろ。」
男は、口の端を少しだけ上げた。
ニヤリ……策略家の笑み。
「地下15階から地上まで、非常階段は二系統。
一つはこの通路を戻って、三つ目の分岐を左。
もう一つは嫌がると思うが─────」
そこで、男は突然言葉を切った。
その理由は、遠くから聞こえる音にある。
────────ダッ……ダッ……ダッ……。
靴音。それも複数。警報に紛れても分かる、明確な足音。
鳶人は即座に振り返り、通路の奥を見る。
黒い人影……それだけはハッキリとしている。
「……しつけぇな。」
研究員……三人以上はいる。
ホルスターの金属音も、かすかに混じっている。
鳶人は、男を睨んだ。
「ご都合主義やしねぇか。」
男は、鉄格子の中で、ゆっくりと右手を持ち上げた。
「────だから言っただろ。
ほら、俺をさっさと出してくれ。
信用を得るには……『魅せる』しかねぇ。」
男はそう、淡々と話す。
鉄格子に手をかけ、痺れを切らしたように貧乏ゆすりを始める。
靴音は確実に、段々と近づいてくる。
鳶人がこうも迷っている内に、危機は迫っている。
怒鳴り声……研究員の、複数の声が耳に入る。
「居たぞ!!」
「止まれ!!! BORN ARMSゥ!!!」
鳶人は舌打ちし、小さく息を吐いた。
選択を、余儀なくされている。
「──────チッ。時間切れか。」
男は鉄格子の向こうで、肩をすくめる。
「はくしろよ」と急かし始める。
「そういうこった。
ここでモタついてりゃ、アンタも俺も────蜂の巣だ。」
鳶人は一歩、檻に近づいた。しかし、すぐには壊さない。
外骨格も出さない。ただ、低い声で告げる。
それはほぼ、脅迫にも近い。
「……ナニも勘違いすんなよ。」
男の目が、わずかに細まる。
しかし、その目は『やる気』に満ちていた。
「お前を助けるんじゃねぇ。
マジで『脱出の鍵になるか』……それを今から判断する。」
男は笑った。
胸を張り、「上等だ。」と一言だけ発する。
鳶人は、右拳に『メリケンサック』のような外骨格を、指に纏い始める。
グキグキと骨の擦れる音。物騒なほど、トゲトゲしい見た目をしている。
外骨格の高い硬度、それを活かし、太い鉄格子を─────殴りつける。
────────ガコンッ!!
鳶人は「オラァ!!」と殴りつけた。
拳は風を切り、鉄格子とぶつかれば金属音を響かせる。
瞬間、たちまちその鉄格子はひん曲がり、いとも容易く隙間が空いた。
男は微笑みながら、身体を乗り出して檻の外へ。
「感謝するぜ……おっさん。」
出てくるや否や、男は右手をゆっくりと掲げる。
輪ゴムを指で飛ばすような、手で銃のジェスチャーをするような手の形。
指鉄砲────構え……それはまるで、『拳銃』のようである。
「狙い……定めて……!!!」
瞬間、男の右手首の辺りで……何かが、ミシッと鳴った。
鳶人がその部位をよく見れば、異形の光景がそこにあった。
自分と同じように、『能力』を植え付けられている。
右手首を貫くように、黄ばんだ骨の円筒が形成される。
それはまるで─────『リボルバーのシリンダー』である。
その内部は、銃弾など入っていない。
鳶人の目が、僅かに見開かれる。
「─────歯?」
「いや、弾だ……六発。」
男は淡々と答えた。
手首のシリンダー、人差し指の先には、『銃口』を思わせる穴が空いている。
鳶人が観察する内に、男の二の腕の筋肉が異様に膨張する。
ググググ────赤く、血管が浮き上がり、風船のように肥大化している。
「こいつの身体は大丈夫なのか?」という疑問と心配が、鳶人の脳裏によぎる。
そして……指先が研究員へ狙いが定まる────その刹那。
────────バンッ!!
乾いた音。破裂音。
人差し指の銃口から、『歯の弾丸』が一発、射出される。
よく見ればその歯は、尖った『犬歯』だと分かる。
音速で歯が撃ち出される、異様な光景。
通路奥─────走ってきた研究員の一人が、急に喉を押さえて崩れ落ちた。
「なッ───────ッ!?」
残った足音が、慌てて停止される。
一人の死亡を見た他の研究員は、一目散に逃げていく。
まるで人の死を初めて見たかのような、そんな反応。
「あ、アイツ、殺しやがった!!!!」
「に、逃げろお前ら──────!!!!」
追っ手は消えた。
男は肩で息をしながら、鳶人を見る。
二の腕の膨張が治まっているようだが、どこか痛みに耐えた表情に見える。
「見ての通りだ。六発限り。
再び生やすには一本につき、測ってねぇが30分ってとこだな。」
鳶人は数秒、黙っていた。
そして、ゆっくりと、ひん曲がった檻の鉄格子に肘をかける。
「そんじゃあ……条件がある。」
右腕を下ろし、男は頷く。
「裏切ったら──────お前を殺すぞ。」
一瞬の沈黙。男は、はっきりと笑った。
無邪気な笑顔。先程の慌てたような表情はもう無い。
「ハハハ……信用されてねぇな。」
鳶人は改めて男を観察する。
身長は175センチと言ったところだろうか。少し鳶人より背が高い。
少しコンプレックスを抱きながらも、鳶人は男の背中を叩く。
「────俺は武良 鳶人……お前はナニモンだ『ガンマン』……。」
男は張り切り、腕を広げ言い放つ。
「俺の名は『出井加 蓮王』……27歳だ。
よろしくな、鳶人のおっさん。」
──────────警報の赤の中。
二人のBORN ARMSは、同じ通路に立った。
「行くぞ。」と、鳶人が言う。
鳶人は心に、少しばかり余裕が出来たような気がした。
「地上までの道、案内しろ。」
ぶっきらぼうなその言葉に、蓮王は返す。
「ああ。出口なら─────頭に全部、入ってる。」
読んでいただきありがとうございましたー!
絶賛連載中なので、次も読んでくれると嬉しいです!!




