第27.5話 スモークスクリーン
#第27.5話 スモークスクリーン
カジノへ向かう裏道、人気のない夜の路地。
足音が響く中、ふと足を止めたのは――臣だった。
「……着く前に、火ぃ入れさせろ。」
そう呟き、ジャケットの内ポケットからくしゃくしゃの煙草箱を取り出す。
ライターの火が灯り、ふっと、夜の空気に煙が混じった。
「……吸うか?」
臣が箱をルカとナオに向ける。
「吸わねぇ。」
ナオが即答した。
視線は夜景に向いたまま。
「……俺は、久しぶりに貰おうかな。」
ルカが手を伸ばし、指先で一本抜き取る。
軽く笑って、付け加えた。
「……意外だな。知らなかった。」
「ま、昔はたまに嗜むくらいにね。……ナオは?ここでデビューする?」
ナオは一拍置いて、少しだけ眉をひそめた。
「俺も昔は吸ってた。……けど、今は別に。」
ルカはわずかに目を細めたが、それ以上は何も言わなかった。
パチン、と音がして、臣が火を点ける。
二本の煙が、ゆらゆらと夜空に溶けていく。
「……それにしても、センパイ。
今回の軍資金、なかなか太っ腹じゃん。」
ルカが煙を横目に笑うと、臣はあっさりと答えた。
「兄貴の金庫から拝借した。」
「……は?」
ナオの眉がぴくりと動く。
「拝借って……絶対、許可取ってねぇよな?」
「あとで正論で言い訳すんのが、俺のスタイルなんで。」
くつくつと笑いながら、煙草をくわえ直す。
「……まぁ、また兄貴の胃薬の消費が増えるかもな。」
沈黙。
「……あんた、よくそれで、ヘリオスでやってこれたな。」
ナオがぼそりと呟いた。
「自由だねぇ。さすがに俺も、そこまでは出来ねぇ。ナオがカワイソウ。」
「絶対すんな。」
ナオが睨み、ルカが肩を竦める。
臣は笑ったまま、煙をふうと吐き出した。
「……必要経費だ。金は使わなきゃ、価値がねぇ。」
火の匂いが、夜風に溶けていく。
遠く、煌都のネオンが滲んでいた。
一拍、間を置いて――
「……さて。」
ルカが煙草の火をもみ消し、コートの裾を払う。
「お仕事に行きますか。」
「……あぁ。」
ナオも静かに立ち上がる。
「きちんと演じきれよ?“主役”さんよ。」
「ああ、ちゃんと踊ってやるよ。」
ルカがべっと舌を出し、一歩を踏み出す。
進む先は、“煌びやかな地獄”への入り口だった。




