第26.5話 ゾートロープ
#第26.5話 ゾートロープ
飴を口の中で転がしながら、
俺は、ナオの背を追うように歩いていた。
頬に当たる風は、少しだけ冷たい。
さっきまでの熱が、嘘みてぇに消えていく。
――あいつ、あんな顔するんだな。
ナオのことだ。
意味なんか、分かってなかったくせに。
いや、分かってなかったから、あの顔だったのか。
ああいう“知らないふり”が、一番たち悪い。
分かってないのに、ちゃんと届いてる。
……そういうの、マジで苦手なんだよ。
「嘘つくとき、喉の左を撫でる癖がある」
そう言ったときのナオの顔が、やけに印象に残ってる。
あれ、俺のこと言ってんだって、バレてたか?
……別に、いいけどな。
俺は、嘘が好きだ。
本音なんか吐いたところで、碌なもんにならない。
誰かを守りたきゃ、騙すくらいでちょうどいい。
優しさも、怒りも、悲しみも――
見せたら負けだ。
そんなこと、とうの昔に分かってた。
……たぶん、親父も、そうだったんだろうな。
でもさ。
今日のセンパイ見てて、
ああ、似てんなって思ったんだよ。
あいつも、本音と嘘の間でずっと泳いでる。
あれだけ隠してるのに、
左手が喉に行くのは、止められなかった。
……わかるわ。
隠したいけど、隠しきれない。
バレてもいいと思ってるわけじゃない。
ただ――見てほしい相手がいるだけだ。
俺にも、いるんだよ。
“見抜いてほしい”と思ってる相手が。
でも、そいつが全部見抜いてきたら――
たぶん俺、ぶっ壊れる。
だから、全部は見抜かせないようにしてる。
適度に嘘ついて、適度に転がして、
適度に隙を見せて――
それで、なんとか一緒に歩けてる。
あぁ、ほんと、
めんどくせぇな、俺って。
でも、いい顔してたんだよ。
ナオ。
あいつの“分かってねぇのに伝わってる”あの顔。
……嫌いじゃねぇ。
飴をコロ、と転がした。
まだ甘い。けど、すぐ溶けちまう。
でも、噛んだら終わるから、俺は舐めてる。
嘘もそうだ。
ずっとは持たない。
けど――持たせるために、俺は今日も飴を舐める。
嘘が、ばれねぇように。
本音が、零れねぇように。
それだけのことだ。
足音が夜に吸い込まれていく。
このまま、帰るのも悪くない。
……さて。
明日も“うまい嘘”をつけるように、
ちゃんと、歯は磨いとくか。
俺の“癖”が、見破られねぇようにな。




