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イケメンに婚約破棄されましたが面食いなのでぜってえ復縁してみせますわ!  作者: 田村ケンタッキー
【第2章】物理的に飛ばされて未開の地。再会あり、バイオレンスあり、ロマンスあり

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まさかの再会を果たすアレクシス嬢

「川ですわ~! これでドレスの泥を洗い落とせますわ!」


 歩いて数刻。遠く離れた水の流れる音を聞き取り、無事に川を発見する。

 ヒールを脱いで足まで浸かる。足先まで頑丈な身体のため、ハイキングに不相応なヒールで歩いていても靴擦れも起きていない。


「つめたい! きもちいい!」


 自然の恵みを堪能した後にハンカチを湿らせて汚れた箇所をふき取った。


「危険な森と聞いてましたが、このような美しいスポットもあるのですね」


 きれいな渓流だった。暗くて魚は見えないが、きっと立派に育っているだろう。

 せせらぎを聞くと喉が渇いてることに気づく。


「飲みたいのは山々ですがお腹を壊しそうなので今回はパスですわ」


 また淑女として外で粗相はできない。必ず然るべき場所で然るべき処置をしなくてはいけない。それが淑女である。

 しかし、


「汗……かきましたわね……」


 目の前には清流。浴びればそれだけで若返りそうな気持ちよさそうな冷たい清らかな水。

 婚約破棄されたり鉄檻に幽閉されたまま空を飛ばされたり不時着したりされながらもピンピンしているように見えるがこれでも心も身体も乙女。どちらにも疲労が溜まっていた。この川で汚れと一緒に疲れも洗い流してしまいたくもなる。


「辺りに誰もいませんわよね……? せいぜいクマかイノシシでしょうか? それなら魔法を使わずとも仕留められますわね」


 クマかイノシシなら脅威にすらならない。ワンパンで終わらせられる。。


「人間なら力加減と角度さえ間違えなければいい感じに記憶が飛ぶ……じゃありませんわ! 罪のない人様に暴力を振るうのは淑女のすることじゃありません!」


 もしも人間に見られたら穏便に、事が済んだらどこに隠れていようと魔法で記憶を消すことに決めた。


「まあこのような場所に、こんな夜遅い時間に人が来るわけがありませんわよね~」


 などとアレクシスは油断してしまう。

 ここはフラッグモーリー森。

 まさかの出来事が起きる場所。


「さてさっさと水浴びを済ませるとしましょう」


 コルセットを外そうと手にかけた瞬間だった。


「動くな!」


 背後より男の声。


「まあ、誰ですの、淑女の着替えを覗くなんて」


 振り返ろうとすると再び警告。


「動くなと言っているだろう! 俺はすでに弓を構えている! 変な動きをすればすぐさま脳天に風穴があくぞ!」

「まあ物騒ですわ。怖い怖い、どこのどなたが存じませんが、ひとまずは言うことを聞くとしましょう」


 すると男の反応に変化が現れる。


「ん、その声……もしや……いや、そんなはずはないか……女。ゆっくりと手を挙げ、ゆっくりとこっちを向け」


 アレクシスにも変化が訪れる。


(あれ、もしかして、この声は……)


 まさかとは思いつつも、ゆっくりと振り返る。

 向き合う二人。それに合わせるかのように上空の分厚い雲に穴が開き、月明かりが降り注ぐ。

 そしてお互いに顔を確かめる。そして予想だにしない再会を果たす。


「まさかとは思っていたが……アレクシス。アレクシス・バトレじゃないか」


 警戒を解き、番えた弓を下す。


「やはり……南部にいるとは知っておりましたが……よもや、こんなところでお会いするとは」


 アレクシスはドレスのスカートをつまみ、男に対して腰を低くしてお辞儀する。


「お久しぶりでございます、イバン・アルセンシオ様。お元気そうでなによりです」


 男の名前はイバン・アルセンシオ。かつては王都で暮らしていた由緒ある貴族の一人。王子のカルロスとは幼少期から交流があり、兄貴分としての一面もあった。

 そしてアレクシス・バトレの、かつての許婚であった。

 許婚といえど二人の父親が政略のため、安定した生活を送るために本人たちの同意も得ずに勝手に取り付けた契約だった。アレクシス、イバンの二人にとっては恋愛感情はなく良い迷惑だった……というのは当初の話。


『アレクシス・バトレ……俺と結婚してくれ』


 いつしかイバンはアレクシスに本気に惚れ込み、気持ちを誤魔化せずにいた。

 イバンは我の強い俺様系ワイルドイケメンだった。女性からの人気も高く好意を寄せ者も多かったがしかし彼の気持ちは彼女には届かなかった。顔が好みではなかったからではない。面食いのアレクシスも「王道とは違うが、これはこれで最高」と趣向からずれているものの評価も高い。

 それでは何故か。

 答えは簡単であり、すでに彼女の心は別の男を向いていたからだ。




 アレクシスはぷくりと頬を膨らます。


「会った時から失礼な方とは思っていましたが、まさか水浴びを覗こうとする方とは思っていませんでしたわ」

「悪いがこればっかりは不可抗力だ……会った時のことは……すまん、あの時の俺はまだまだ未熟でな」


 貴族同士なら礼儀正しく作法に則って名乗りあい、親しい関係を築き上げるよう心掛けるもの。


「今でも鮮明と覚えてますよ。イバン様ってば『なんだぁ、この磯臭い田舎者は! 髪の毛に塩がこびりついているぜ!』と公衆の面前で、それはもう大きな声で、とてもユニークな御冗談をおっしゃってましたものね、おほほ」


 壊滅的な下手な物まねを交えながら、空気を明るくしようと試みるアレクシス嬢。

 しかしそれはまるで逆効果で、


「すまない、本当に……どう詫びたらいいか」


 本気で凹むイバン。かつての彼ならとっくに手をあげていただろう。女であろうと手出ししていたが今ではすっかり丸くなっていた。


「あ、こちらこそ、すみません。意地悪が過ぎましたわ。いけませんね、いつまでも過去の過ちをネチネチ言うのは。せっかく川でお会いしましたのですし水に流しましょう、なんて、おーほっほっほっほ!」

「その鼓膜を突き破るような高笑いも久しぶりだな……お詫びといってはなんだが食事にでもするか」


 矢を背の筒に戻す。彼は剣術もそうだったが弓の技術も高かった。森に行き動物を発見させすれば必ず射貫いてみせた。そしてもっとも射貫いた獲物は──、


「そしてそこでじっくりと、どうしてここにお前がいるのか聞かせてもらおうか」


 イバンは茶目っ気たっぷりにウィンクを見せた。

 もっとも射貫いた獲物は、人間の女性だったという。

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