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イケメンに婚約破棄されましたが面食いなのでぜってえ復縁してみせますわ!  作者: 田村ケンタッキー
【第3章】盗賊退治も淑女の仕事ですわ! ちょっと寄り道ソボク村

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歓迎されないアレクシス嬢

「ありがとうございます! ありがとうございます! 目を離したらいつも一人でうろちょろしてしまって……!」

「あ、あの、お母さま、もうお気持ちは大変わかりましたので……アナベルさんをヘドバンさせるのはやめてくださいまし」


 少女の名前はアナベル。天真爛漫で無邪気、母親の手が余るほどの元気いっぱいの子だったが今は母親に頭をがっつりと掴まれて何度も頭を下げさせられていた。スッキリしたあとにあまりスッキリしない光景。本人はけろりとしているが見ようによっては虐待もの。


「お召し物を見るからに高貴な貴族様とお見受けいたします! お礼をしようにもうちは生活はカツカツで……」

「お礼なんてとんでもありません。おトイレを貸していただいただけで充分ですわ。おかげで淑女の体面を保つことができましたわ。アナベル嬢は命の恩人ならぬ淑女の恩人ですわ! おーほっほっほ!」


 突然の高笑いに母親は面食らってしまう。


「おっほほほ!」


 少女は面白がって真似をする。


「こら! 無礼でしょう!」


 母親は顔の小じわを増やして慌てて叱った。


「お気になさらずに、お母さま。どんどん真似してほしいですわ。おーほっほっほ!」

「おほほほ!」

「いい線いってますわ! ですが、もっと腹から声を出すとよりよくなりますわよ! こうですわ、おーほっほっほ!」

「おーほっほっほ!」

「お上手ですわー!」

「おーほっほっほ!」


 母親は娘が楽しそうにしてる姿を微笑みながらも、どこか落ち着かない様子。


「ちなみにお嬢様は、この後のご予定は……」

「今すぐにでも村を出たいところなのですが、馬を休ませなくて行けません。私も少々休憩したいところですし」


 するとアナベルは手を叩いた。


「じゃあさ、お姉ちゃん! うちにお泊りすればいいよ!」

「駄目に決まってるでしょう、アナベル!」


 母親は即答した後に、


「あ、すみません、お嬢様を嫌っているわけではないのです! アナベルを助けていただいたことには感謝しております! してはいるのですが」

「何か訳ありのご様子ですわね」

「……ええ、そうなのです……詳しくはお話しできませんが、本当はこうして家に招き入れているのもまずいのです……」


 すると玄関から大きな物音。


「帰ったぞ! 飯!」


 聞くからに横柄(おうへい)な態度の男の声。


「いけない、主人が帰ってきてしまいましたわ……! いつもはどこか寄り道してもっと遅い時間に帰ってくるのに!」

「おい、家の前にいるあの白い毛の馬はなんだ! 見るからに貴族様が乗りそうな馬じゃねえか!」

「ああ、なるほどそういうことですか……」


 裏口からこっそりと逃げる手もあった。しかしそれは淑女のすることではない。

 アレクシスはあえて主人に挨拶へと行った。


「ぐぬぬ、やはり、貴族が入り込んでいやがったか……!」


 アレクシスはスカートを摘み上げ、腰を下ろす。


「主人の留守中、許しを得ずに上がり込んでしまい申し訳ありません。私の名前はアレ──」

「この家に何しに来た! 金を無心にでもきたか!?」


 挨拶しようにも通じない。怒りに我を忘れている。


「あんた! アナベルを助けてくれた恩人に、なんだい、その口は!」

「お前もお前だ! 貴族は一歩たりとも入れるなと何度も言ったはずだ! この家は俺の物だぞ!」

「ふん、なにが、俺の物さ! 出稼ぎした息子が仕送りしてくれなきゃ、こんなボロ家とっくにつぶれてるよ!」

「ボボボ、ボロ家だと!? ここは代々続くソボク村の村長の家だぞ!」

「ああ、どうりでね! あんたがしゃきっとしないからこの村までどんどんボロくなっちまってるんだよ!」

「なにをー!? もう一回言っていろ、豚女!」

「何度だって言ってやるよ、骨男!」


 売り言葉に買い言葉。取っ組み合いにまでヒートアップしそうになっていた。


「ストップ、ストップですわ! お互いに落ち着いてくださいまし! 子供の前ですよ、二人とも!」


 両親が目の前で喧嘩。さぞつらい思いをしているだろうなと思いきや、


「ねえ、お姉ちゃん! 遊ぼう! 裏庭にはね、いっぱいお花咲いてるの! 花冠つくってあげるぅ」


 喜ぶべきか悲しむべきか、アナベルは我関せずとけろっとしていた。


「お父さま、お母さま。ご安心ください。もうまもなく村を出るようにしますわ」

「え、さっきは休むって仰っていたではありませんか」

「えー、お姉ちゃん、もう行っちゃうのー? もっと遊びたいー! おっほっほっほしたい!」


 アレクシスは膝を曲げ、ぐずりそうになるアナベルと目線の高さを合わせ、彼女の手を取った。


「本当にごめんなさい、アナベル。お姉ちゃんももっと一緒にいてあげたいけど……急がなくてはなりませんの」

「そんな~……」


 我慢できずにぐずってしまうアナベル。


「……あの人見知りの娘が懐くってことは、川で助けたって噂は嘘じゃないようだな」


 父親の言葉から棘が抜けた。落ち着きを取り戻したようだった。


「まあ私ってばもう噂になってしまっていますの、お恥ずかしい限りですわぁ」

「それとすぐに村を出るってのはよしたほうがいい」

「それはなぜでしょう?」

「北の街道で賊が出た。さっき着ぐるみ剥がされた胡散臭い顔した商人がやってきたんだよ。かなり近いらしい」

「まあ、また盗賊が……!」


 その情報にアレクシスの眉はぴくりと動く。


「お待ちになってください、盗賊が出没されているのですか? それは一体いつから?」

「はは、羨ましいね、貴族のお嬢様は。盗賊とは無縁の生活を送られて」

「あんた! なんだい、その口は!」

「だってそうだろ? 王都はなんだ、王子が結婚するとかで貴族たちはこぞって三日三晩パーティーをしてる話だろ? そのパーティーの金だってもとは俺たちの金だ! 俺たち貧乏人から取れるだけ金を取って、自分たちは贅沢三昧だぜ!」

「あ、あんた、それはそうだけど、目の前のお嬢さんには関係ない、だろうさ……!」


 心を揺さぶられながらもアレクシスの味方をしてくれている。


「お母さま、よろしいのです。お父さまの仰ることは至極当然だと思います」

「お、おう……」


 お嬢様のまさかの態度に小娘と侮っていた父親は驚いてしまう。


「それで一体いつからなのでしょう? 差し支えがなければお教え願います」

「も、もう一年になるよ!」

「一年……一年にもなるのですか? イバン様、見損ないましたわ……!」

「ああ、違う違う、嬢ちゃん、違うよ」


 父親は手を振って否定する。


「確かにこの村は南の城のが近いが、伝統的に飛び地にはなるが北の街の領主、今はアルフォンスのぼっちゃんの領地さ」

「……アルフォンス様、ですか……」


 アレクシスは頭を悩ます。


「……嬢ちゃん、微妙にこの地理が苦手なようだね。さてはここの人間ではないな? もしかしたら本当は服だけは貴族で中身は盗賊だったりしないだろうな?」

「あんた! ほんとさっきから失礼だね!」

「いいのです、お母さま。何度も庇ってくださりありがとうございます。ですが貴族とはお召し物やアクセサリーで高貴さを証明するものではありません。在り方で証明するものです。もしもお父さまに私が貴族に見えないのでしたら、それは私が至らないからですわ。私もまだまだですわ。もっと精進しませんと」

「……チッ。生意気な女だぜ」


 舌打ちをして家の奥へと向かう。


「……娘を助けてくれたお礼に一晩泊まらせてやる。ただし馬小屋だがな」

「ありがとうございます。雨風凌げるだけで充分ですわ」


 嘘偽りのない心からのお礼を述べる。


「……ふん!」


 面白くなさそうに父親は去って行った。

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