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突然の婚約破棄されるアレクシス嬢

「──よってここにアレクシス・バトレとの婚約を破棄する」


 新婦アレクシス・バトレは、この世で誰よりも何よりも愛する人カルロスの言葉がまるで耳に入ってこなかった。


「……はあ……なんてことでしょう」


 日傘も差さずに真夏の太陽の日差しを浴びたようによろめいてしまう。


「弁明があるなら聞こう。破棄したとはいえ一度は結婚の契りは結んだよしみだ」


 愛する人の見たこともない侮蔑した怒りの顔に胸が苦しくなりながらも婚約破棄された旧新婦アレクシス・バトレはかろうじて言葉を紡ぐ。


「……私の旦那様、怒った顔も素敵すぎません?」


 初めて拝むレア顔に面食いはときめかずにはいられなかった。


「たった今、婚約破棄したばかりんだが!? 人の話を聞いていなかったのか!?」

「え、婚約破棄? なんのことです? 私たち永遠の仲を誓ったではありませんか? 聞こえませんあーあー」

「まさかしらばっくれるつもりか!? どこまで図々しい女なんだ君は!?」

「まあ図々しいなんて……お上手なんですから、もう」

「褒めたつもり一切ないんだが!? 図々しいを誉め言葉として受け取る人間初めて見たよ……」

「ええ、そうでしょう。誉め言葉として受け取るのは私くらいでしょうね。図々しい。よいではありませんか。図々しくなければ庶民生まれの私が王族であるカルロス様と結婚できるはずがありませんのよ! おーっほっほっほ!」


 お決まりの高笑いを決めるとカルロスは頭に走る激痛に顔を歪める。


「まあ、苦痛に歪むお顔も素敵……じゃなかったですわ! 大丈夫ですか、カルロス様!」

「く、突然頭痛が……いったいどうして……」

「決まっています! アレクシス様の高笑いが耳障りだからです!」


 アレクシスよりも先にカルロスの脇に可憐な少女が駆け寄ってコップを手渡す。


「お水です。これを飲めばすぐに落ち着きますよ」


 彼はそれを受け取りぐいっと飲み干すと、


「ふう、なんて澄んだ水だ……痛みだけでなく悩みも吹き飛んだようだ……」


 途端に汗が引き始めた。頭が空っぽにできる魔法の水だった。


「ありがとう、マリア……おかげで助かったよ」

「お礼なんていりません、カルロス様。当然のことをしたまでです」


 手を取り合い微笑みあう二人。仲睦まじいとはまさにこのこと。

 そよ風に揺らぐ小花のようにずっと眺めていたい見ている者の心を温めるような光景だったが異を唱える者が一人。


「誰ですかあああああその女はああああああああああ!!?」


 ほかでもない、アレクシス。紙に穴が開きそうなほどの大音量で叫んだ。


「誰って、僕の幼馴染のマリアなんだが?」

「おさおさお幼馴染とおっしゃいましたか!? カルロス様と幼馴染!? なんてうらやまけしからん! いやそうじゃくて幼馴染ですか!?」

「そうだ、何度か紹介したはずだが、君は人の顔も覚えられないのか?」


 信じられない顔でアレクシスを見るカルロス。

 マリアは残念そうに首を横に振る。


「仕方ありません。アレクシス様はカルロス様しか眼中になかったご様子でしたので」


 これについてアレクシスは否定はしなかった。


「カルロス様に近寄る女はたかるハエ程度にしか認識していませんでしたが……そんな……幼馴染がいたなんて……ありえませんわ……っていうか、さっきからなにやら親しげなんですけど!? 近すぎじゃありませんこと!?」


 肩をくっつけて離さない。恋人繋ぎまでして人目憚らずイチャイチャし始める。


「別にこれくらい普通では?」

「なにせ私たち、夫婦になりますので」

「へえ、夫婦に………………………………夫婦!!!???」


 婚約破棄の次は新たな婚約発表。


「ああ、そうさ……僕は真の愛に気づいたんだ」


 二人は同時に手の甲を見せる。

 どちらの左薬指にも愛の証である宝石がはめ込まれた指輪がきらりと輝いていた。

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