聖女?来訪
ある日の昼下がり。先日のような祭りの喧騒はなくなり各々の日常へと帰っていく中、とある少女がこの町へ来るのだった。
「すーはー……よし、ようやくやってこれました。これで主の啓示に沿って動くことができます。」
金色の髪に青い目、そして服装は教会のシスターの正装である。
彼女の名はエルフィス、カリナ教のシスターであり、聖女を目指すために様々な修行などをしている。今回は勇者の剣を引き抜いたとされる少年に会いにきたのだが、本来それはエルフィスの仕事ではない。
勇者の剣を引き抜いたのであればそれは、魔王を討伐するために選ばれたのであり、ならばそれについていくとしても、経験を積み力としてもかなり上位である聖女が、行くべきであるが残念ながら今は動ける聖女が誰一人としておらず、唯一動けて尚且つ聖女に近い力を持った者であるエルフィスが選ばれたのだった。
「一先ずは町の人に選定の剣を抜いた方が誰かを聞かなければ――」
ドカン
とそんな音が聞こえてきた。音的に爆発系の魔法でも使用されたのだろう、とエルフィスは思いすぐさま音の方向へと走り出して行った。
(拝啓、前世のお父様お母様お元気ですか、私が亡くなって、転生してから5年とちょっとが経っています。そちらとの時間の差はあるのかはわかりませんがこちらとの時間の流れが一緒だと仮定すると、そちらはもう2029年と言うことになりますが、日本は無事でしょうか。西日本でのいつか来るだろうとされる大きな地震のことや、もしかすると日本は他の国に買われているかもしれません。まあそんなことはこちらからではわからないですが、今の私と言えば何をしているのかと言うと……)
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「おいおいもうばてたのか?まだ1時間だぞ」
「もう1時間じゃねえか馬鹿野郎」
「わずか数日でとうとうそんなことまで言って、お父さん悲しい」
「息子に対して死ぬ一歩手前の訓練させておいてよく言うぜ、と言うかやっぱこれ訓練じゃねえだろ、こんなん虐待だよ虐待」
「大丈夫よルーク、リーリヤが回復してくれるからね」
「そうです、なのでもっと頑張ってくださいませルーク様」
「悪魔かな俺の親とメイドは」
視点は変わりルークは今、勇者として相応しくなるために訓練を行なっている。
そしてルークが幼児のような喋り方ではなく前世でも喋っていたような喋り方であるのかは理由がある。それは、剣を引き抜いた当時にある。
「「「……」」」
「えーま、まさかまさかの剣が抜け、え?抜けたの」
司会者は驚きのあまりあまり上手く声を発しきれていない。
「えーとこれぬけたのですけどどうすればいいですか?」
あやめは一先ずこの唖然とした状況をなんとかしようとし、声を発した。
「ルーク、ちょっとこっちへ来なさい」
アルフォンスが声をかけてきたのでとりあえず行くことにした。
「まさか、お前」
その言葉にあやめは緊張が走る。
何か不味いことをしたのではないかと思っているし、場合によっては逃げるのも考えにあるほどだ。
「俺のように引き抜いたのかすごいなー」
「へ?」
先ほどまでは怒られるのではないかと思っていたりましたが、唐突に見当違いなことを言われて驚いてしまった。
しかしあやめはアルフォンスの言葉を聞き怒りが迸った。
それもそうだ、なんせ自分をゴリラ扱いされたのだから怒って当然だ。故にあやめの次の行動は。
「いやー流石俺の、ヴッ」
アルフォンスが喋っているのもお構いなしにあやめは、剣の柄の部分でアルフォンスの腹に一撃かました。
「だれがごりらだ」
「ルーク様流石にこの脳筋はゴリラとは言っていませんが、流石です、良くやりました」
次にリーリヤが復活し、あやめがアルフォンスを殴ったことを褒めている。
「こーら、ルークお父さんを殴ってはいけません。殴っていいのは私かリーリヤだけよ」
(いやあんたらもダメだろ)
あやめはまたもや見当違いの言葉だったので母親にはジト目で返しておいた。
「一先ず、その剣はルークが持っておけ。この際だから学校の件も無しで俺たちが付きっきりで鍛錬だな」
(復活はや!鳩尾あたりに当てたからもうちょっと倒れててもおかしくないだろ)
鳩尾は打ち込まれたアルフォンスはものの数分で復活を果たした。
そんな事実にあやめはドン引きしてしまったがクレアとリーリヤはさも当然の如く会話を続けた。
「ええそうね、それはルークが持っているといいわ。だってその剣を持っていると力が湧いてきたりしてるでしょ」
そう言っているクレアの目はいつもの翡翠のような色をした目ではなく水色に変わっていた。
その理由は魔眼である。
クレアは自分の眼の中に魔眼を入れており、これによって魔力や力などを見ることが出来る。
「ああ、確かにこれは強そうな感じが肌で伝わってくるよ。それからルーク」
「ん?っ!」
アルフォンスはあやめに対し呼びかけると突然切り掛かってきた。そしてそんな光景をクレアとリーリヤは黙っていていた、
「お前は転生者と言うわけだな」
「なっ」
なんでそれを知っているんだ。そう聞こうとしたがそれよりも前にアルフォンスの力が強くなる。
「と言う事は本来のルークを乗っ取っているわけだろ、なあ!」
あやめの持つ剣の刃が目の前まで迫ってくる、しかし
「いいえ、乗っ取ってなんかいませんよ」
(この声って、まさか!)
声が聞こえた。
その声は5年ほど前に聞いた声だった。
全員が声のする方向へ向いてみるとそこには真っ白なドレスに白い髪、魅了されてしまいそうな程の美しい顔。
どれも5年前と変わらない姿であやめを転生させた女神が現れた。
「どうもアルフォンスさん、クレアさん、リーリヤさん、私はカリナという名の女神です。そして彼を転生させた張本人なのです!」
女神、いやカリナは腰に手を当てドヤ顔で話した。
(めっちゃドヤ顔じゃん、でもそれ火に油注いでるような気がするのだが)
「そうか、なら女神カリナ。そこにいる男は本来ルークが入るところをあいつを入れたのか」
アルフォンスは殺気を出しつつカリナに聞いた。
「いえ、私たちのところでは輪廻転生、生まれ変わる際はランダムに浄化した魂を入れているのです。そしてルーク君改め無神あやめ君は輪廻転生の輪に入れて選ばれたのが貴方達のところです」
(輪廻転生という仕組みはそうやっていたのかならもしかすると俺は王族として生まれる可能性や他の一般家庭とかにいく可能性もあったんだな)
「なるほど。だったら彼は正真正銘ルークであるというわけか」
「ええ、偽物や乗っ取りなどではなく正真正銘ルーク君です」
「そうなのか」
そう言いながらアルフォンスはあやめに近づき抱きしめた。
「すまないルーク、いやあやめ。いきなり切り掛かったりして」
「ううん別に構わないよ。実際息子が別の奴に乗っ取られてたとか思ったりしたら疑ったりもするだろうしね。それとルークでいいよ俺は貴方達の息子なんだから」
「そうか、わかったよルーク。今後ともよろしく」
「うん、よろしく」
あやめとアルフォンスは握手を交わした。
「よろしいでしょうか」
「「「「?」」」」
女神が咳払いをし4人に話を進めようとしていた。
「ルーク君のことについて二つほど言っておかなければならないことがあるのです」
「なんでしょう?」
女神の言葉にあやめは反応を示した。
(言わなければならない事?なんだろう実は魔王はいませんでしたとか?いやそれは無いな父さん達も魔王を倒したとか言ってるし他の人たちも、嘘は言ってない感じだよな。もしくはチートが機能していないとか?でも父さんはかなりの実力者で力も相当、そんな攻撃を割とギリギリとはいえ受け止められたんだ、これで無かったらちょっとこの体に恐怖するわ)
「それはですね、魔王を倒す為に必要な存在が一人いるのですそれは─」
「それは聖女のことよルーク」
クレアが食い気味に言った。
(いや言わしてやれよなんで奪ったんだよセリフを)
聖女と言うのは聖職者が自分の信仰する神に直接才能があると認められ力を与えられたものの総称であり基本は女性が多いとのことだがごくたまに男も選ばれることもありその場合でも聖女と呼ばれている。
そして聖女の力の中に魔王限定での強力な封印術があり、魔王の侵攻から守る為や魔王討伐のために利用するので勇者のパーティには聖女が必須となるのが当たり前なのである。
「……えぇそうです。私のことを信仰する者の中に一際強力な力を持った聖女がいたのでその方に勇者が現れればその者の力となるようにと言ったのです」
「なるほど、ちなみに他の仲間はどうするんだい。俺たちは魔王討伐時にクレアとだけで行ったがそんなバカな真似はさせないよな?」
「えっ」
(何?俺の親2人は必須アイテムなしで魔王討伐したの、馬鹿じゃねぇの。何故そんな縛りプレイを)
「あらルーク。あなた、なんで私たち2人だけで行ったんだ、聖女は連れて無かったのかって思ってるでしょう」
「え、うん」
「それは簡単な話よルーク。それはね、偵察を兼ねて魔王の城まで突撃したら勢いで魔王を倒しちゃったの、しかも」
「まだ完全に魔王として覚醒していなかったためか聖女がいなくても倒せてしまったんだ」
「えっ」
(馬鹿じゃねえの俺の親たちは、偵察で魔王倒すとか、偵察の意味を理解してらっしゃらない?)
あやめは二人の馬鹿さ加減に呆れかえるとともに覚醒前の魔王とはいえそれをたった二人で倒す力を持っていることに少しだけ尊敬をした。
「……」
女神も女神で二人の強さに結構ドン引いている。
それもそのはず、アルフォンスたちが倒した魔王は事故によりあやめと同じ世界の人間が記憶を保持したままこちらの世界の魔族として生まれてしまった男である。
そして彼は運がよくとても才能があったためこちらの世界でも上位の強さに上がれた。
そのため前の魔王はこちらの世界の人間では倒せないと思っていたカリナはあやめを転生させようと準備をしていたところ転生させるちょうどその時に魔王が倒されてしまっていたのである。
本来は女神の加護などのチート級なものを用意しないと対処出来ないはずなのに、それを現地民が倒してしまったのでカリナ含めたその他の神は彼らの力の強さに驚いていたのだ。
「……はっ、ええ当たり前です。私の信者の方から戦士が一名を派遣いたします。そして資金のほうもある程度融通できるようにいたします、なのでそれを使い誰かを一人雇ってもらう形となります」
「ずいぶん好待遇だな、それほどまでに今の魔王は強いのか」
アルフォンスは驚きと疑問交じりに女神に問いかけた。
「歴代最強と言えるほどには」
「……そうか」
暫し静寂。今アルフォンスが何を考えているのかはあやめにはわからない、もしかすると最強の魔王に対してワクワクしているのか恐れているのか。
「一ついいか」
「えぇ」
「魔王を倒しに行くのは今からなのか」
(言われてみれば確かにそうだ、今から行くのか数年の猶予がもらえるのかそれによっては俺の力が変わると思うしな)
「いいえ、流石に何も修業ができていない状態では、彼自身に与えた力を十分に発揮できませんし、ある程度身体の成長をさせなければ、いくら強くとも何かしらの弊害がありますから」
「そうかそれならよかった」
「そうよね~ルークにはまだ旅に出すのにも不安はあったしね~」
女神の言葉にアルフォンスとクレアは安堵の表情を出しながら反応した。
「一先ずは仲間のことは置いておいて次のことです」
「「「「次?」」」」
「はい、これはルーク君についてのことです」
「ルークの事?ルークは転生者で俺たちの子供だろう。それ以外に何があるんだ?」
アルフォンスは女神に疑問を呈した。
「それはで─」
──ぱきん
「「「「え?」」」」
突然何かが割れる音がした、それと同時に女神は姿を消した。そして四人は音の出所を見てみると……
「お、折れてるー!」
叫んだのはルークだった。
剣はアルフォンスとの鍔迫り合いをしていた部分であった。剣自体はそこらへんの物よりはるかに耐久があるものではあったが、やはり何千年と使用されろくな整備もおこなれていないままさらには、以前のアルフォンスの無理やりな剣の引き抜き事件。最後にアルフォンスとルークの鍔迫り合い。これで壊れないほうがおかしいレベルである。
「マジか……」
「あらあら」
「まさか折れてしまうとは」
アルフォンス、クレア、リーリヤの順に反応した。
「え、これどうしよ。え、ほんとにどうしよ」
「お、落ち着きましょうルーク様一先ず私の修復魔法で」
「無理だろ」
「無理じゃないかな」
「なんで二人はそんな冷静なの!」
ルークとリーリヤは慌てふためきアルフォンスとクレアは冷静でいた。何故アルフォンスたちは冷静かというと単純に他二人が慌てているため落ち着けているのである。
そして補足しておくと剣はどんなことをしたとしても治ることはない。
「まあ折れちまったものは仕方ねぇ。とりあえず俺の冒険者時代に使っていたやつをやる。それで修行して魔王を倒せるようになろう」
「……うん」
そうしてルークは修行を始めることになるのであった。
「はぁはぁ……」
そして現在ルークたちは修行を行っている。内容としては基礎的な訓練、弾幕から逃げる回避訓練、魔法の使用訓練など様々なことを行っている。さらには世界の常識などを学んでいる。
「本当に死にそう」
「おう、お疲れルーク」
「それでは治していきますねルーク様」
ルークは疲れ切っており地面に這いつくばっている。そんな中リーリヤは回復の魔法をかけている。
「あの、ここら辺で爆発がありましたが大丈夫でしたか」
ルーク達が休息をしていると聞き覚えのない声が聞こえた。全員が振り返ると、そこにはシスターの服を着ており手には杖をもつ金髪で青い目をした少女がいた。
「ん?まさかカリナ教のシスターか。だが何故聖女じゃないんだ?あの女神からは聖女が来ると言われていたが」
「はい、それはですね今私たちのところにいる聖女は近々起こる魔王軍との抗争において全ての聖女が出て行ってしまっています。なので一時的ですがこの私、エルフィスが参りました」
エルフィスは少しだけ胸を張り話していた。その間ルークはと言うと。
(めっちゃ可愛い)
見惚れていた。エルフィスの特徴は金髪に青目そして身長は120cmほど、おそらく年齢は少し上ぐらいだろう。さらに童顔で髪の長さは肩に付くか付かないかぐらいであり、胸はそこまでない。そんな少女にルークは惚れてしまっていた。
「そうか、ならよろしくなエルフィスちゃん」
「そうね、よろしくお願いねエルフィスちゃん」
アルフォンスとクレアがエルフィスの言葉に反応した。その後は一先ず訓練を終わり家あと帰るのであった。