王道的異世界転生 〜誕生・成長・選定〜
「オギャーオギャー」
ここはエルムスという町。王都とは比べかなりの田舎であり整備がなされていないところでは草木が生い茂っている。そうここはあやめという少年にとっては異世界である。そして先ほどの泣き声はあやめが生まれ変わった体での産声である。
(ここから意識があるのかよ、もうちょっと2、3歳あたりからおれの記憶とかが入ったりするのかなとか思ってたのに生まれたてからじゃねぇか。そういえばこれどういう原理で考え事ができてるんだ?確か自我が芽生えるのは2歳からとかだっけ?まあ自我が芽生える以前にこうやって他の赤ちゃんも考え・・・・・・いや、ここまでのことは絶対無理だな。というか俺って案外器用じゃね泣きながらこんなに考え事ができるんだぜってあ、待って流石にそれはアカン)
あやめは生まれた直後からどうでもいい事を考えまくっていると、授乳の時間となり慌てふためいた。何せ新しく生まれ変わったとは言え意識は無神あやめであり、この世界での名前、ルークとしての意識はないのである。それ故に大人の女性の胸を見るのはとても恥ずかしいのである。
(あーあ飲んじゃった。あ、でもなんか美味いわ身体が変わってるからかな?まあどうでもいいや。今後の方針を考えていこう。とりあえずこの世界の常識や言葉を学び大体15歳ぐらいになるまでは鍛えまくろう)
あやめは母乳を飲みながら今後のことについて考えることにしていた。
「ルークそろそろ離してくれるかな?もういっぱい飲んだでしょ」
「?」
(あっれー?なんで言葉わかるんだ。完全に日本語にしか聞こえないんだがもしかして、これ英語とかで言えばリスニング完璧だけどスペルとかはちんぷんかんぷんみたいな感じかなこれ。だったらもっと詳しく言ってくれよ女神様!俺てっきり日本人にとっての英語みたいに最初からなに言ってるのかわかんねえみたいな状況になるかと思って覚悟してたのに。まあでもこれの方が良かったのか、まあだったら書く方も出来るようにしてほしかったなとは思うけどね)
「お、生まれたのかい」
「ええそうよアル、ルークが生まれたの。見て可愛いでしょ」
「ああ、君に似ていてなんて可愛らしい顔なんだ」
(おお、この人が俺の父親か。結構がっしりしてるな。周りを見ても結構装飾が豪華だしもしかして高い身分の家なのかな?)
あやめが周りを見渡すと、家の中はかなり綺麗でありそこそこ豪華な品物が見える。
「そう言えば名前は俺たちの名前の一部分を使ったんだよね」
「ええそうよアルフォンスとクレアでルとク、そしてそれだけじゃ味気ないと思ったから伸ばしてみたの」
「そうなのか。ルーク。いい名前だな」
(ルークって確かチェスの駒にあったような。確か将棋で言う香車みたいなやつだっけ。あんまりチェスとか将棋やらないからわからないんだよね〜と言うかなんでルとクなんだ?アとクとかでも良かったんじゃね)
「そうよ。いい名前でしょ」
あやめの悩みを他所に夫婦たちは2人で微笑みあっていた。
「おとうさまー」
「おおルーク。どうしたんだい?」
「ううんただおとうさまをよんだだけー」
「そうかそうか」
ルークが生まれてから5年ほど経ったある日。今までは恥ずかしがっていた幼い少年のような喋り方も板についてきたあやめは、朝から鍛錬の途中である父、アルフォンスを揶揄っていた。
「そういえばおとうさまはなにをされているのですか」
「ん?ああいつも通り剣の素振りさ。こうやって毎日振り続けないと、いざとなった時にお前らを守らないからな」
「そーなん、じゃなくてそーなのですね。すごいですおとうさま」
あやめは危う前世のような喋りかなりなりかけたがすぐさま直した。
「ほんといつ見ても綺麗な剣技ね」
あやめ達が談笑していると母であるクレアがやってきた。クレアは籠を持ち中には服やタオルなどが入っていた。ちょうど洗濯物が乾いたからだろう、それをメイドと一緒に運んでいた。
「あ、おかあさまとりーりゃ」
りーりゃ、もといリーリヤはこの家のメイドでありクレアが冒険者として活躍していた頃に助けておりその恩で彼女達のメイドとして働いている。ちなみにあやめがりーりゃと呼んでいるのは単純に舌足らずなためである。
「今日も元気そうなルーク」
「ええとても元気でよろしいと思いますルーク様」
あやめが元気でいることに喜んでいる2人は、このまま何事もなく過ごしていけるようと心から願っていた。
「お、そうだ。ルークお前も剣を振ってみないか」
「何言っているのアル。ルークはそろそろ学校へ行かなきゃいけない年なのよ」
「そうか、そうだったな。ルークはもう5歳か。年月が経つのは早いものだな」
「何おじいさんみたいなこと言ってるの。あなたまだ30でしょ」
2人は、30歳になろうともいまだに人前でイチャイチャしている仲であり、リーリヤとあやめはそれを側から見る。そんな光景がいつもの日常であるが、流石にあやめとリーリヤはうんざりしてきている。
(2人とも本当に仲良すぎるだろ。俺の前世の親でもここまでではないぞ)
あやめの前世の家族は古い家柄ではあるが考え方は現代よりになっており漫画にあるような古い家みたいなことは全然なく男尊女卑は全くない。今の時代なら当たり前だとは思うが、しかしながらそう言った考えをしている人は少なからずいるのだ。妻にだけ家事をやらせて自分はただふんぞり返っているだけの関白宣言などが。まあそんな者は今の時代にはほんの一握りぐらいだろう。
「あ、オホン。そうだなとりあえずは勉強に専念した方がいいだろう。将来何か働くとしても知識はどんな者でも大事だからな」
アルフォンスはあやめ達が呆れた目で見ているのに気づき咳払いをして話をした。
「まあアルの場合、学園で勉強せずに今や剣を振るだけしか脳のない男になってるからね」
(えぇ〜まじか)
あやめはクレアの話を聞いてジト目でアルフォンスを見た。
「うぐっ。と、とりあえずだ、勉強は必要なのはわかったかなルーク」
「はーいおとうさまみたいにならないようにきをつけまーす」
時は少したちその日の夜。今日は勇者祭、勇者を讃え敬う祭りだ。現代日本のような屋台とかは出ているわけではないが有志で集まり料理を作ったりして、それを商品にしている。そしてこの勇者祭の醍醐味といえば、そう。
「今日もやってきたか選定の儀」
選定の儀は台座にある勇者の剣を参加者を募り抜いていく。とは言ってもこれはお試しコーナーの一つとされている。一部の者を除けば剣を引き抜けると思っている者など誰1人としておらず大半が剣を触ってみたいと思っている者たちである。
「ほんと懐かしいわね」
「そうですね、クレア様」
アルフォンスの言葉にクレアとリーリヤは反応した。
「アルったら実はあの剣を引き抜いたことがあるのよ。力だけで」
「・・・・・・」
(まじかよ)
あやめはクレアの言葉に絶句した。神から力を得たためか、あやめはあの剣が本当に勇者しか抜けないのを理解できた。故にそれをただの腕力だけで引き抜くのは普通におかしいのである。
「ははっ、懐かしいな。あの剣魔法で封印されてるせいか結構固かったよな」
「待ってくださいアルフォンス様。普通魔法がかかっているものを力だけでどうにかするのは異常です。それにあの剣魔法とはまた違う何かで封じられているのでそれを抜くのはなおさら不可能でございますよ」
リーリヤはアルフォンスの言葉ににドン引きしながら言った。
(俺が思っていることを言ってくれてありがとうリーリヤ。でもそれは引きすぎだと思うんだ。物理的に)
そうリーリヤは物理的にも離れているのだが、その距離6メートルほど。人と会話が出来る距離の2倍はあるのだが、それでも何故かリーリヤの声は普通に聞こえる。なぜなのかとあやめが疑問に思っていると。
「おいおい魔法まで使ってそんな距離離れるのか。少し傷つくぞ」
「知りませんわアルフォンス様。それとルーク様、何故私の声がこの距離で聞こえているのか、それは魔法を使って声を飛ばしているのです」
(そこまでするのかよ!)
あやめはアルフォンスにもドン引いているが、リーリヤにも少し引いている。どこまでやばいのか、それは勇者の力を持っているあやめ自身がよく理解しているが、そんな魔法を使ってまで離れなくても良いのではないかと思っている。
「まあまあアルもリーリヤもそんなに離れていると会話が成り立たないでしょ」
「かしこまりましたクレア様」
「うん偉い偉い」
クレアはリーリヤの頭を撫でリーリヤはそれに少し顔を赤らめている。
(微笑ましい光景だなーほんと母さんもリーリヤも30代とは思えないほど若く見えるな)
「さて始まってまいりました!勇者祭のメインイベント、選定の儀。これを引き抜く勇者は現れるのか」
あやめ達がほのぼのとしていると突然大きな声が聞こえてきた。
(おそらくだけどリーリヤがさっき使っていた魔法をもっと大きく聞こえるように調節されているやつを使ってるんだな)
実際距離としては結構奥の方で話しているようであり、目を凝らさないと剣が見えないほどである。
「もう始まるのか。ルーク、一回やってみたらどうだ?」
司会の声を聞き、アルフォンスはあやめに選定の儀をやらないかと聞いてきた。
「そうね、やるだけなら無料だしね」
「まあアルフォンス様みたいなことをしでかさなければ大丈夫だと思われます」
続いてクレアとリーリヤもやらないかと促してきた。
(まあ実際子供としてはやってみたくはあるな)
「うんいくよ」
あやめの言葉を聞いた3人は早速選定の儀の会場に行くのであった。
「さあさあ今日で30人やっているがまだ抜けていないぞ〜これでは世界が魔王に滅ぼされてしまうぞ!」
司会が煽りを入れながら参加者を捌いていた。あやめ達は大体40人目と言ったところあたりにいる。
「しっかし全然抜けなさそうだなあれ」
「そもそも勇者の力無くしてアレを引き抜くことはできませんよアルフォンス様」
アルフォンスが呑気に言っており、リーリヤはそれにジト目で返していた。
「まあまあいいじゃないこういったものは楽しんだ物勝ちだしね」
「そうだなクレアの言うとうりだな」
「さすがクレア様素晴らしいお言葉です」
(やっぱり思ったんだがリーリヤってやっぱり母さんのことが好きだな。まあ俺はいいとは思うよ、家庭崩壊とかしない限りは)
実はリーリヤはアルフォンスのことはクレアを奪ったライバルとしてしか見ておらず、クレアのことは自分の一生を持って尽くしたい相手だと思っている。リーリヤは昔親に捨てられ1人で生きてきたが、ある日命に関わるほどの重症となっているところをクレアに助けられた。そのためクレアに恩を感じ今はメイドとして働いている。そしていつの間にか無意識のうちにリーリヤはクレアの事を恋愛感情を抱き始めていたのだ。
「おっとそんなこんなのうちにもうルークの番か」
アルフォンス達がくだらないことを駄弁りながら待っているととうとうあやめの番になったのだ。
「よし行ってこい」
「無理に引き抜こうとしなくていいのよ」
「アルフォンス様のようなバカな行為はなさらないようお願い致します」
3人中2人がアルフォンスのやらかしに関して言っている状況にあやめは苦笑いしか出なくなっていた。
「次の挑戦者は〜げっ、アルフォンスの馬鹿野郎の息子だ〜」
(おいおいおとうさまよ〜めっちゃ人気者じゃ〜ん。悪い意味でな)
「まあそれはいいとしてーさあ幼き挑戦者よ名前をどうぞ」
「る、るーくです。よろしくおねがいします」
「あら〜アルフォンスとは違って可愛らしいですね〜お母さんにでしょうか」
アルフォンスは本当に人気者であった。悪い意味で。
「では早速やっていきましょうか。ルークくんお願いします」
司会者の言葉にあやめは反応して剣の柄の部分を持つ。そして。
シャキン
そんな音だっただろうか、あやめにはあまり言い表せなかったが、言えることは一つ。
「ぬけた」
そしてその後の周りの反応は言わずもがな。
「「「ええー!」」」
大絶叫となった。