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第六話 BL誌サークル

 クリエイション総合学院、二度目の来訪。なに? 入学する前に見学ぐらいしろって? 忙しくてそれどころじゃなかったんだよ。


「とりあえず、ヒラ君が興味ありそうな場所案内しよっか!」

「OK。それで頼む」


 基本、この学院は本館・二号館・三号館とサークル棟・資料館・体育館の全六施設で構成される。

 咲良曰く、本館~三号館がクラスルームや講義部屋が集まる。サークル棟はそれぞれのサークルのサークル部屋がある。資料館はアニメや漫画、動画制作等の資料が集まる図書館の要素を兼ねた場所。体育館は言うまでもないだろう。


「それぞれの施設を使うには学生証を機械にピッてやらないとダメだから、学生証は無くさないよう気をつけてね」

「わかった。そんで、なんでサークル棟に向かってるんだ?」


 現在、俺は本館からサークル棟に繋がる渡り廊下を歩いていた。


「漫画関連のサークルはきっとヒラ君も興味あると思ってさ」

「サークルに入る予定はないんだけどな。ま、興味が無いと言えば嘘になる」


 サークル棟の入り口に到着。

 サークル棟はそこまで大きな建物じゃなかった。二階建ての横長の建物だ。一階も二階も廊下が一本中央に通ってて、左右にサークル部屋が並ぶ。

 サークル部屋は外観はどこも同じだが、透明ガラスから中を覗くと……内装はだいぶいじっているようだ。畳の部屋もあれば、フローリングもあるし、カーペットを敷いている部屋もあった。


「ここら辺が漫画関係のサークルだよ。全部で四つ!」

「多いな……漫画だけでそれだけあるのか」


 サークルの違いはほとんど描くジャンルの違いだった。

 少年誌サークル、成人誌(エロ系)サークル、BL誌サークル、GL誌サークル。


「面白い。普通の学校ならまず少年誌以外の三つ、成人誌、BL誌、GL誌は通らないだろうな」

「『自由な創作』が校風だからね。人数さえ揃えば無茶苦茶なサークルでも通るよ」


 それはそれでどうなのだろうか。

 さっき『特撮サークル』なんてものがあったが……サークル部屋の中に覆面とピッチリスーツを着たヒーローが五人(赤、青、黄、ピンク、緑)いたぞ。あんなの通っていいのか。ごっこ遊びにしか見えなかったぞ。


「へぇ。サークルだからってお遊びじゃないみたいだな。みんな真剣に描いてる。コミック系はガチだな」


 BL誌サークルには佐藤もいる。佐藤は俺に気づくと、スタイラスペン(液タブに使うペン。タッチペンとも呼ぶ)を置き、部室を出てきた。


「あ、来たんですね平良比さん」

「ああ、悪い。邪魔したか」

「いえいえ」


 佐藤は部室に半身を入れ、


「代表。ちょっとサークル外の人を入れてもいいですか?」


 代表と呼ばれたのは和服を着て、なぜか扇子を持っている大和なでしこ美人だ。


「よろしい」


 と言って、和服の女子は手に持っている扇子を開く。扇子には『男男恋聖域』と書いてある。いや、あれ男二つで一つの漢字にしているのか? 男男じゃなくて、男へんに男みたいな……多分造語だろうな。なにを意味するからはこのサークル的にアレだろう。


「どうぞ。入ってください」

「お邪魔します~!」

「失礼します」


 サークル部屋に入る。

 うん。この原稿の匂い。多数のPC起動音……懐かしいな。

 サークル部屋には俺と咲良を抜いて三人いた。

 一人は和服美人の代表とやら。一人は佐藤。そしてもう一人は――男だった。眼鏡を掛けた、黒髪短髪の筋肉質の男だ。


「……なにか気になることでも?」


 眼鏡の男はPCから目を離さずに聞いてくる。


「いや、悪い。BL誌のサークルだから女子しかいないもんだと……」

「男のBL好きもいる。偏見は良くないな」


 眼鏡の男は依然としてPCから目を離さず、俺に名刺のような物を差し出した。


服部(はっとり)十四郎(とおしろう)だ。二年、コミック学科」

「あ、ああ……」


 名刺を受け取る。名刺には服部の名前と所属サークル……そしてメアドやRing(リング)(メッセージアプリ)の個人QRコードが載っていた。


「勘違いするなよ」

「はい?」

「僕は二次元のBLには興味があるが、三次元のBLには興味が無い。三次元ならば普通に女子が好きだ」


 ホントかよ。


「じゃあ聞くが、男同士でヤッてる部屋と、男女でヤッてる部屋、もし覗けるならどっちを覗く?」

「男同士」

「もうちょい嘘は貫き通せよ」

「勘違いするなよ。資料として見ておきたいというだけだ」


 めんどくさいやつだな。


「平良比さん! ちょっとお願いしてもいいですか?」

「ん?」


 一つのデスクトップPCの前に、和服美人と佐藤と咲良が立っている。


「一ページだけ背景を描いてほしいのです」

「背景? いいのか? 俺みたいな部外者が手を入れて」

「私からも頼もう。ウチは背景技術が全体的に不足していてな、ぜひ参考にしたい」

「そういうことならやろうかな」


 絵を描くのは大好物だ。


「ちょっとヒラ君! もう一限まで30分もないよ!」

「む? それならやめておいた方がいいな。ここの背景は最低でも40分は――」

「大丈夫。20分で終わる」


 俺はPCの前に座る。


「うん。使ってるソフトも同じだし、問題なさそうだ。あ、でも何個かブラシは入れさせてもらうぞ」

「はい! ご自由にどうぞ」


 場面は男二人が高層マンションの最上階から夜景を見下ろすところ。東京の夜景を描く、それなりにハードな場面だ。とはいえ、すでにネームまでは終わっている。夜景の資料もあるし、全然余裕だな。

 俺は液タブを使い、背景を描いていく。


「すごいです……なんてスピード……」

「素人目でもわかるよ。めっちゃ上手い」

「恐ろしいな。スピードだけでなく、繊細だ。これだけ繊細なタッチをこんなに大胆な描き方で表現できるのか。プロ顔負け……否、プロ以上だ」


 背景技術は我ながら優れていると自覚している。

 ただ、背景だけ描けても仕方ないけどな。漫画家になれば背景はほとんどアシスタントに任せられるし。


「――終わり」


 液タブを置き、立ち上がる。


「これ、どうします代表。このページだけ背景上手すぎて他の背景が浮いちゃいますよ?」

「このクオリティに合わせて死力を尽くして他のページの背景も頑張るしかないだろう。これに至るまででなくとも、迫るレベルまで頑張ろう……」


 どよーん。とBL誌サークルの三人が沈んだ。


「あれ? なんでテンション下がってるの!?」

「背景の描き直しは人によっては苦行だからな……おっと、そろそろ時間か」


 俺は意気消沈するBL誌サークルをを去り、クラスルームへ向かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒラくん、アシスタントとしての才能がありすぎるという(笑)。 あれ? 有名漫画家のところでアシスタント経験に何か嫌な思い出がありそうなことが前に書かれてましたけど……。 そういえば、とあ…
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