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アニメイト様主催の、ブックフェア2023宣伝隊長特別キャンペーン『相棒とつむぐ物語』コンテスト応募作品です。
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「ローズ! 君との婚約を破棄する!」
宮殿の広間にて、皇太子のジョシュアが私に宣言した。
ジョシュアの隣では、可憐なシャーロットが不安気に佇んでいる。
そして、広間にいる貴族方の視線は一斉に私に集まった。
──私は静かに呟く。
「……確かに、貴女の言った通りになったわね。ミツキ」
すると、私の頭の中で声がした。
"でしょ? これであたしの言ったこと信じてくれた?"
「そうね。ミツキの言うことを信じるしかないようですわね……」
そう言いながら私は思案する。
まさか、私の運命を知る女性が私に憑依するだなんて思ってもみなかった。
私に取り憑いたミツキによると、私はシャーロット殺害未遂の罪で投獄される運命にあるらしい。
何でも私は"悪役令嬢"なのだとか。
「ふっ。いいでしょう。私が悪役令嬢だと言うのなら、その役目、きっちり果たさせていただきましょう。
気高き悪の華を咲かせ、不遇な運命など、私の前にひれ伏せて見せますわ!」
そう、これは、私が運命を変える物語──。
*
時間は、二時間前に遡る──。
私は宮殿に向かう馬車の中にいた。
「はぁ。また舞踏会。公爵家に生まれた者の務めとはいえ、飽き飽きするわね……」
そう私が呟いた時だった。
突然、馬車はガクンと止まり、私は反動で車内の壁に頭をぶつけた。
「痛!」
すると、御者のチャーリーが慌てた様子で声を上げた。
「申し訳ありませんお嬢様! 突然、猫が飛び出して参りまして」
私は落ち着いて。
「いいのよチャーリー。さほど痛くなかったわ。気にしないでね」
「ありがとうございます。では馬車を動かします」
「ええ、お願い」
そんな、気に留めることもない日常の一幕。
けれど──。
"あれー? これ、どうなってんの?"
私の頭の中でそう声がした。
「ん? 何の声?」
"あれれ? あたしドレスを着てる? おや、窓の外は古いヨーロッパみたい!"
気のせいかと思ったけれど、あまりにはっきり聞こえるので私は焦った。
「ちょっと、どなたですの!? 何処にいるの!?」
"え、あたしに言ってる?"
「そうよ、貴女は何者ですの?」
"うーん、できればそっちから名乗ってくれないかなー"
「いいですわ。私は、ローズ・ブラッドレッド。ブラッドレッド家の長女ですわ」
"え、その名前って、『ノブレス・オブリージュ〜ピュア・マイ・ラブ〜』の推しの名前と一緒じゃん!"
「は? 何を仰っているの?」
"もしかしてあたし、乙女ゲームの世界に来ちゃった?
あれ、でも、転生でも転移でもない。
もしかしたら夢を見てるのかも知れない"
「さっきから、訳の分からないことをごちゃごちゃと。分かるように説明なさい」
"あー、あたしは望月美月。乙女ゲームと合気道を愛する日本の女子高生だよ!"
「オトメゲーム? アイキドウ? 何を言っているかさっぱりわからないわ」
"あーそっか。まー、ミツキって呼んでよ。美しい月と書いてミツキ"
「ミツキね。で、結局、あなたは何者なの?」
"うーん、何て言えばいいかなー。あたしはこの世界を見てた存在。あなたの未来も知ってるよ"
「な!? では、貴女は神様なのですか?」
"んー。まあそんな感じ。今はローズに取り憑いちゃったみたいだね"
「何と、憑依とは! 私、どうすればいいのかしら」
"まあ、面白そうだし深く考えなくていいんじゃん? それはともかく、今は何処へ向かってるの?"
「え、はあ……。私は今、宮殿に向かっています。ジョシュア──この国の皇太子であり私の婚約者──が、舞踏会を開かれるので」
"えっ! まずい。まずいよローズ! 舞踏会に行っちゃったらあなた、捕まっちゃうよ!"
「は? 何を仰っているの?」
"あなた、シャーロットをいじめてたでしょ? その事が皇太子にバレて捕まっちゃうよ!"
「な!? シャーロットとは子爵家の? 確かにちょっと嫌味は言ってしまったけれど、捕まるほどでは……」
"あなた、シャーロットを毒殺しようとしたでしょ!"
「は!? してないわ! そんなこと!」
"え? そうなの? でもシナリオではあなたがシャーロットを妬んで毒殺を企てたことになってた。
そして舞踏会で皇太子から婚約破棄を言い渡されるの。
あなたは悪役令嬢って立場なのよ!"
「な、何かの間違いですわ!」
"もしかしたら何か裏があるのかも知れない。
だってあたしも、あなたのルートはまだクリア出来てないから"
「よく分かりませんわ」
"ああ、こんなことなら攻略サイトを見とくべきだった。
まあ、ネタバレでラスボスは知ってるんだけどね"
「ラスボス?」
"皇后だよ。つまり皇太子のお母さん? が、悪女でいろいろ謀略を巡らせてるんだよね"
「皇后様が?」
"うん。副宰相を使って悪いことしてた"
「副宰相……。私の父は宰相ですわ。なるほど、少し話が見えて来ましたわね」
"まあ、とにかく引き返した方がいいよ。このまま舞踏会に行ったらあなた捕まっちゃう"
「それは出来ないわ」
"何でよ、最後は牢獄に入れられちゃうんだよ!?"
「私は誇り高きブラッドレッド家の一員。皇族に呼ばれたなら、馳せ参じるのが公爵家の責務」
"ばっかじゃないの? そんなプライドのせいで捕まっちゃうんだよ?
そもそも皇太子なんてあなたに見合うような男じゃないんだからね!"
「ジョシュアは許嫁ですわ。見合う見合わないの問題ではありません」
"皇太子が愛しているのはシャーロットだし、あいつは重度のマザコン──母親の言いなり──なんだよ?"
「それは……知っていました」
"お願い、考え直して。あなただって他に好きな人がいるはずでしょ?"
「なぜ、それを知っているの?」
"あなたはあたしのお気に入りだから。あなたは隣国の王子様が好きなんでしょ?"
「確かに……。私は幼い頃、隣国で過ごしていました。その時、ノア王子は私に好きと言ってくれました。けれど……」
"隣国に逃げちゃいなよ。ノアに言えば保護してくれるよ"
「いいえ。やはり、逃げることは出来ません」
"何でよ!?"
「この生き方が私の矜持だから」
"ローズ……"
「確かに私は、プライドが高いですわ。そのせいで他人から嫌われることもある。
けれど、私は自分の生き方を曲げません。
誰かの陰謀に屈して逃げるなんて生き方は私には似合いませんわ!」
"そっか……。ふふ。かっこいいじゃん。いいね。あなたのそういうとこ、あたし好きだよ。分かった。じゃあ、あたしに出来ることある?"
「貴女の知っている情報を全て教えて下さい。何か手を考えますわ」
"よっし、じゃあ一緒に戦おう! ローズ"
「ええ、お願いするわ。ミツキ!」
こうして私達の戦いが始まった。