第51話 敵とは
ユタとリオンが出かけた日の夜。
いつもの星空にはない光景が見られた。
それは、ピカピカと強い光の点滅だった。
「戦いになったのかもだよ。ちょっと心配だね」
マリーも空を見上げながら、不安そうな表情で呟く。
それを見て、無性に落ち着かない気持ちになる。
ユタとリオンは大丈夫なのだろうか。
いったい何と戦ってるのだろう。
でも、今の私にできることはないようだ。
そういえばと、ケイローから教わった星たちの歴史を思い出す。
星の歴史の時間軸はあやふやだ。
永すぎる時を生きる星たちの時間感覚など適当なのである。
余程の大事でない限り、正確な年月など覚えているものはいないという。そんな余程の大事のなかに、星たちの争いの歴史があった。
古き星と呼ばれる旧世代の星たちの時代から、星系外からの侵略と争いの歴史が残っており、私はそれを学んだ。
外の星々との争いの歴史は、いつから始まったのかを覚えているものは少ない。
おおよそ八千万年前に、私たちのポロン星系の星たちは目覚めの時を迎えたという。
この頃に目覚めた星たちを旧世代の星、古き星などと呼んでいる。
現在もポロンの十二列星に名を連ねる天王星カイル、土星クロトンの二星はその古き星だという。
古来よりポロン星系の近隣には、危険な星がいくつもあったという。そんな星らは横暴に振る舞い、約束を守ることは少ない。他の星を奴隷として支配下におくことも当たり前の時代だったらしい。
ポロン星系の古き星たちは、そんな外敵たちと勇敢に戦ったという。
外敵とは、星系外の星たちと、その星たちが生み出した生きものたちだ。
今、ユタとリオンが戦っているのはそんなものたちなのだろうか。
無事に戻ってきたら、話を聞かないとだ。
この広大な宇宙から見れば、私たち星も小さな星屑のようなものだ。
たくさんのものが集まれば、考えの方の違いなどの些細な理由でも争いが起こってしまうのは当然のことだと思う。
問題は、星同士の争いとなると規模が大きすぎるということだろうか。
星同士での争いで最も有名な伝承は、およそ千二百万年前。ユタが率いる星たちと古き星たちでの大きな戦争があったらしい。
争いの理由は複雑だそうで、ユタにそのことを聞いた時に「互いに好きで戦ったわけではない。戦うしか道が残っていなかったんだ」と、難しい顔をしていたのを覚えている。
その戦争によって、いくつもの星が消滅したという。
ユタはその戦いに勝利して、現代の十二列星の第二位となっている。これは太陽ポロンが第一位のため実質のトップといっていい。
ケイローは、それまでの星の序列は強さが全てだと言っていた。強きものが常に正しいことになり、弱きものは従うしかないらしい。
弱肉強食の仕組みは、宇宙に規模を変えても当てはまってるのだ。
いつかは、私も誰かと戦わなければいけない時が来るのだろうか。
はるか先に見える、輝いては消えていく光たちを見上げながら、そんなことになったら嫌だなと思うのであった。
マリーの家の中庭。
眠る気にはなれず、マリーの手のひらに包まれ星空を眺めていた。
「終わったみたいだよ」
「ユタとリオンは無事なのです!?」
まだ光の点滅は続いていたが、マリーはにこりと微笑む。
「心配いらないって言ったじゃない?」
いや、心配だよって言ってたと思ったけど。
とりあえず、二人が無事なのは間違いないみたいだ。
安心して身体から力が抜けていくのが自分でも分かる。
「良かったのです。本当に」
どうやらマリーは何かの力を使っていたみたいだ。
マリーが気配を察する力に長けているのは知っている。
「あんなに遠い場所のことでも分かるのはすごいのです」
「こういう力の使い方は得意なんだよね」
嬉しそうなマリー。
マリーがどんな魔力の使い方をしてるのかを見ることも考えられなかった。
二人を心配していて気が回らなかったのかとーー
「ユタたちを心配してくれて、ありがと」
その正確な読心術には、たびたび驚かさせられる。
いや、読心術だけではない。高い探索能力もそうだ。予知めいた発言も当たることが多いと思う。
どんな魔力の使い方をしているのかは、そのうち教えてもらおう。
みんなは私をすごいと褒めてくれるが、私からすると学ぶことのほうが圧倒的に多い、みんなの方がすごいと思っている。
「こちらこそ、いつもありがとなのです! ユタとリオン、早く帰ってくるといいね!」
微笑んだマリーは頭を撫でてくれた。
◇
夜更けに、無事に帰還したユタとリオン。
疲れを癒すため、二人は昼まで休んでいた。
私たちは詳細は後回しに、まずは二人に休息を第一にと強引に休ませていた。
そんな時、訪問者が来たとひと騒ぎが起こってしまった。
対応はマリーが。
私はオルローフと静かに家で過ごすように言われ、それを守った。
マリーが戻ってきたのは、陽が沈んだあとであった。
「大変だったよ。明日からしばらくはティアは家から出れないかもだよ。我慢できそう?」
「しばらくって、どれくらいなのです?」
「数日かな? オルローフと何かやることでも見つけてくれるといいけど」
じっとしているのは、性に合わないのは見透かされているようだ。
この機会に、日常で有効な魔力の使い方でも探そうかなと考えていると、マリーに釘を刺されてしまう。
「大きな力を使うのはダメだよ。力を探れる人も来ているからね。目立たないことを探してよ?」
制限をかけられても、出来ることはあると思う。
元気良く分かったの返答をしておいた。
「で、誰が来ているのです?」
「私たちの星の関係者たちだね。儀式以外のことでこんなに集まるのは珍しい事だけどね。ここ数百年は、外敵からの攻撃はなかったから興味津々って感じだったよ」
会ってみたいと思ったが、ダメだと言われるのは目に見えているので我慢をする。
「ユタとリオンは大丈夫なのです?」
「もちろんだよ。リオンはともかく、ユタがいるんだからね」
「良かったのです」
ユタはずいぶん信頼されてるようだ。
長い時間を共に過ごしからこそ出る言葉だろう。
そして、マリーから今回の戦いについての話も聞かせてもらった。
星系外からの脅威は、最も外周に位置する海王星ダンという星が防いでくれると教わっていた。
今回の敵襲は、そのダンの警戒網を抜けて、突然ユタの星の近くに現れたらしい。
このようなことは今までなかったという。
転移の力を自在に操れるものがいるかもしれないと話題に上がっているそうだ。
かなり手強い相手だったようだ。
「ユタもリオンも言ってたよ。ティアとの特訓のおかげで、なんとかなったようなものだってね」
ユタとリオンは被害もなく完封したそうだが、私も貢献できていたと知れたのは嬉しかった。
でも、攻撃的な力の使い方ってそれほどやらなかったような。少しは役に立てていたのなら良かったけど。
それにしても、転移の陣を作らずに転移できたとしたら、とても便利だ。
転移の陣の魔力構造は、かなり複雑だ。
自力の魔法陣で発動させるのは、課題が多すぎるため試そうとは思わなかったが、いつか研究してみてもいいかもしれない。
こうして、ティアのやりたいことリストにまた項目が増えていったのだった。
◇
それから数日、私はマリーの家でマリーが帰ってくるまではオルローフと過ごした。
きちんと大人しくできたと思う。
「ティア様は今日も静かでしたよ。たくさんのお話を聞かせてくださいますし、私の食事も気に入ってくれているみたいで、私も嬉しいんです」
毎日、帰宅したマリーはオルローフの報告を聞いて、ほんとかなぁと疑っていたのには少しむかっと来たが。
しかし、時間ができたおかげでやりたいことリストの優先順位も整理することができた。
オルローフはマリーの創造した生きもの。人間とは違い、力を持った人型種族ニュンペーという種族らしい。
オルローフに、現在の一般文字を教わりながら書き出したのはいいアイデアだったと思う。
ひとつアイデアを書くごとに、オルローフの反応が良かったのも飽きずにいられた大きな理由だ。
綺麗な女性の驚く表情もいいが、何より星ではない生きものの視点から質問がくることが特に勉強になった。
例えば、オルローフは魔力はあまり得意ではない、と思っていた。
初歩の魔法は操れるみたいだが、魔力のほとんどは長命のために使われており、身体能力の強化、特に病気に強いだとか怪我が治りやすいといった能力がある程度だ。
「いえいえ、ティア様。これでも私はとても恵まれているほうですよ。星の力を使えるものなど限られた種だけですもの。私の役目はマリー様の役に立つことです。美味しい食事や清潔な寝床、衣服を準備することなどですね。マリー様への危険はリオン様が払ってくださいますし、そもそもマリー様を害しようとなど考える者は稀でございます」
星たちの普通は、生きものたちには普通ではない。
そんな視点からの意見は、考えさせられることが多い。
空気が薄いから空気を作ってしまえばいいと書いた時は、空気が薄くても生存できるように適応するのが生きものだと。
食べ物がないから食べ物を創造しようと書いた時は、全てを無償で与えてはいけないと。与えられることに慣れてしまったものたちは堕落してしまう。努力の末に手に入る構造にするべきですと。
主に生きものに関するテーマには、オルローフは自分の実体験を例に挙げて意見をくれたのであった。
「私はマリー様にたくさんのものを貰いすぎているのです。これが当たり前だと思ってしまったらいけないと、いつも自分に言い聞かせていますよ。お返しになっているかは分かりませんが、少しでもお役に立てることが、私の最大の喜びですね」
オルローフのマリーへの忠誠心は相当なものだ。マリーもオルローフを大切にしているのは分かる。
これが星と生きもの関係としては、いい関係なのだろうと感じた。
そんなこんなで、これまでの体験を思い出しながら、やるべきことの優先順位を決めていった。
休憩をとっている間の雑談で、歌についての話題が出たのだった。
芸術の分野だ。
そこから服装や、絵画、彫刻など、美についての話題に変わり、何が美しいのか、醜いのかという話に花が咲いた。
そんな話も楽しく、美的センスは少し良くなったような気もする。
「シロモナリエにカリオペ様と姉妹たちがいますよね? 彼女たちは芸術などの美についてはとても詳しいですので、機会があれば」
カリオペに姉妹がいたのは知らなかった。
会える機会が来れば、いろいろ質問しよう。
こうして数日を過ごし、久しぶりにシロモナリエへ行ける日が来たのであった。




