第50話 帰還
マリーの星、エイト。
帰ってきてすぐの私たちは、ユタとケイローと共に夕食の場を囲んでいた。
私の星での出来事を報告がてらの食事会だ。
マリーがその大筋の説明をしてくれている。
アオと無事に再会できたこと。
酸の海と空気が澄んできていること。
大陸を魔力で作り出したこと。
二本の木を植えてきたこと。
マリーが端折って普通のことをしてきたように話しているのは、きっとユタが実物を見た時に驚かせたいのだろう。
マリーのあの顔はそうに違いない。
それを、ユタは無言の相槌を打ちながら聞いている。
まぁ、悪いことはしてないし、ユタから怒られることはないだろう。
私は、カリオペの運んでくる食事に手をつけながら、そんなことを考えていた。
「それでね。海の中の木を創造しようとした時にね、なんて言ったらいいかな? 星の力を覗いたって言ってたよね? ティアは意識を失いかけて、心ここに在らずって感じになったのよ」
「ティア、どういうことだ?」
ユタがこっちを向く。
そういえば、そんなこともあったな。
はっきりと覚えているのは、星の力の光の中を覗いた時までだ。その後は、よく覚えていない。
ありのまま、起こった出来事を説明する。
楽しい食事会のはずだったのに、みんなの頭を抱えさせてしまったようだ。
しばらく続いた無言の場を破ったのは、ケイローだった。
「大いなる意思の数少ない言い伝えに、こんな詩がありましたね」
ケイローの穏やかな声。
「新たな扉を開くもの、その光を見るなかれ、新たな世界はそこにない。
新たな世界を望むもの、その光を追いかけて、新たな世界を夢に見る。
新たな世界は求むもの、あの光はもういない、永く孤独に過ごす時。
新たな世界は諦めた、あの光にもう一度、次の願いは決めてある。
新たな扉を開くもの、その光を待つなかれ、新たな世界はそこにない」
まるで歌っているかのように聞こえる。
マリーとリオンが「光は星の力のことなのか」とコソコソ話を始めた、
ユタは腕を組んでの思案の後、こっちを見て言う。
「俺も星の力はよく観察したが、そんなことになったことはないがなぁ。ティアのことだから、何かありそうな気もするが」
「もしかして、今度は創造の力を使っちゃダメなのです?」
とりあえず、一番気になっていることを聞いておく。
もしも、使用禁止にされてしまったら、私の星育は観察だけになってしまう。いろいろ試していきたいのに、それはとても嫌だ。
「いや、それはティアには大きなストレスになりそうだからな。そもそもティアは未知の力を使うからな。分からないことが起こっても不思議ではない。何でも禁止にして嫌がらせをしたい訳ではないぞ? 俺たちはティアが心配なだけだ。それだけは覚えておいてくれると嬉しい」
ユタからは意外にも優しい言葉をもらえた。
もしも、禁止されたらユタには新しいアイデアは教えないようにしようと思っていたぐらい嫌だったから良かった。
その後、話題はリオンへ移る。
「えっと、目覚めずの星がティアで合ってるんだよな?」
全員が頷く。
それを見て戸惑うリオン。
「他の奴らに報せなくていいのか?」
「お前はどうしたら良いと思う?」
「え? みんなを招集すれば良いんじゃないか?」
「俺が言うのもなんだが、俺とティアが戦ったらティアが勝つ。ティアの力はそれほど強力だ。さて、どうなると思う?」
「ユタが面白い冗談を言ってるぜ! そんな訳ないじゃん! ……え? ないよな? マジなの?」
ユタの真剣な顔を見て、リオンから笑い顔が消えていく。
これには私もリオンと同じ気持ちだ。
誰かと戦うなんて考えたこともなかったし、もしもユタと戦うことになっても普通に負ける気がする。
ユタは何を言いたいのだろう。
「それが本当なら、古い星たちが騒ぎそうかな? それに、外のやつらもなんか良くないことを企んでるって噂になってるしなぁ」
少しの時間をおいて、リオンが珍しく真面目な顔で答えている。
「それだけではない。ティアの革新的な力は私たちもいずれ使えるようになる。マリーが新しい力を使えているのには気づいたか? あれもティアのおかげだ」
みんなの視線が私に向いている。
何か言っておかないと。
「お役に立てて良かったのです!」
数秒の静寂に、マリーが堪え切れずに笑い出した。
「そうだね。ティアには全く悪意がないからね。私たちのためになってくれて嬉しいよ」
マリーの一言で、また賑やかな食卓が戻ってきた。
それから、リオンへの詳しい説明が行われた。
本当にリオンには何も知らされていなかったのは驚いたが、それよりも余計な詮索はしない、誰にも言わないというのを、リオンが律儀に守っていたことにさらに驚いた。
私も、そんなリオンのように約束を守れる人になりたいと思ったりもした。
その後も話し合いは続き、次の星の儀とやらまでに、少しずつ私の存在を信用できるものに知らせていく方針になるようだ。
知らない名前や言葉が多くて、私にはあまり理解はできる話は少なかったが。
私が話し合いに興味をなくし、お腹も膨らんだところでマリーと目が合った。
「よく分からないことは、私たちに任せていればいいよ。もし思うことがあったら聞いてちょうだい。ティアの意思を尊重することは約束するよ」
とりあえず、言う通りにしておこうと元気よく返事をする。
次に私の星へ行くのは、また百日後ぐらいだそうだ。
待ち遠しいのです。
◇ ◇ ◇
それから毎日が慌ただしく過ぎていった。
ケイローの星についての授業は、教え方が上手なこともあって順調に進んでいる。
星たちの歴史や、ポロンの星系の星たちのことなど、新しい知識を獲得できていると思う。
星の規律については、実際の経験が少なすぎるのもあって、いまいち想像しづらく習得はやや遅れ気味かもしれないが。
それでも、ケイローは「覚えが早いですよ」と褒めてくれる。
ユタとの魔力の授業では、マリーやケイローもいるのはいつものことだが、リオンやカリオペ、巨人のドイルも一緒に参加して訓練をすることも増えてきた。
魔力を見ることができるのはかなりレアな力だったらしく、これを覚えるだけで飛躍的に力を伸ばし始めているそうだ。
新しい力を覚えたものはみな私に感謝をしてくれた。
そこにケイローの特性を見抜く能力が加わることによって、各自新しいスキルや魔法を考え出していく。
めきめきと実力をつけているのは、目に見えて分かるほどであり、誰かの役に立てることは、私にとって一番嬉しいことになり始めていた。
マリーとの授業は、エイトの各地を周り、生きものや植物など、気になったことをマリーに質問していくスタイルに変わっていた。
これは、マリーとのお散歩のようなものだ。
もちろん、新しい発見や疑問が次々に見つかるため、飽きる暇などはありはしなかった。
そんな忙しい日々のある日、不穏な情報がエイトに届く。
私たちの星系に、敵性の何かが侵入してきたそうだ。
ここ数百年はなかったことのようで、ユタとリオンは慌ただしく準備を整え、どこかに出かけて行った。
「星同士は争いを起こしたりすると教わったのです。ユタとリオンが心配なのです」
「ユタは私たち中で一番強いのよ? リオンもいるし、大丈夫だとは思うけどね」
私とマリーは二人の無事の帰還を祈る。
なぜ、みんなが星の力を攻撃的な使い方ばかりするのか。
今、その謎が解けようとしていた。




