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第49話 命名は苦手




 空に浮かぶ、水の浮島にて。



「なかったなら、しょうがないのです」



 そう言って、戻って来たばかりでしょぼんとしたアオの頭を撫でる。


 そんなアオは海の中の木に果実が実っていないかを探してくれていた。


 結果はなかったが、別にアオが落ち込むことはない。どう声をかけようか迷っているとーー


 

「普通の木は、大地から栄養を受け取って実を宿すのよ。だから、まだなくても不思議じゃないよ。そのうち実るんじゃないかな」



 それを察したマリーの言葉で、アオは安心したみたいだ。


 こういう相手を一言で安心させるマリーの説明の仕方は見習いたい。


 相手が何を考えていて、どんな気持ちなのかを察するのは難しいものだ。

 

 そういうのは、マリーはとても得意だと思う。


 

「マリー! 何か食べるもの持ってないか?」


「リオンは海水でも飲んでればいいよ」



 うん。その力をもう少しリオンにも向けてほしいものなのです。


 二人のやりとりを見ながら、そんなことを思った。


 昼食をとりたいところだが、もう食料はなくなってしまった。


 そろそろ帰らなくてはいけない。


 寂しい気持ちを埋めるように、アオとのスキンシップをとっていると。



「この木にも、名前をつけるの?」



 マリーから質問が。まだ決めていないのは、私の反応でみんなに伝わったようだ。


 名前か。


 海の中の木だから、海っぽい名前がいいだらう。何かの由来に因むといいと言っていたが、何かあったかな?



 ポコポコと空気の泡が上がっていく姿がきれいだったな。

 酸を浄化し、酸素を生み出すからサンサンの木とか?

 超大木みたいに渾名をつけるといいかも。海中木、海底樹、海洋樹……海洋樹はいい感じかな?

 よしこれでどうだ!


 

「海洋樹ポコサンサン! どう?」


「い、いいんじゃない……かな?」

 


 なぜか微妙な表情のマリー。


 隣のアオを見ると、かわいい目を丸くさせている。


 ん? アオはどういう感情かな?



「ポコサンサン! だっせぇな!」


 

 耳を疑うような言葉が。


 声高らかに笑うリオンからだ。


 なにっ! これはダサいのか!

 いい名前だと思ったのに!


 リオンにダサいと言われるのは心外だ。


 

「リオン! ティアが一生懸命考えたのを馬鹿にしないでよね! ちょっとダサいぐらいがちょうどいいんだよ!」



 ぐはっ! マリー!

 その言葉のほうが刺さるのです!

 あ! そのニヤニヤした顔は!


 マリーのそれはいたずらなことを考えている時の顔だ。


 味方はいないのか!

 アオ! お前は分かってくれるよな!?


 アオに助けを求めると、初めて見る表情だ。喜ぶ顔なら知っているが、他の感情の時の顔は難しい。


 あれ?

 ということは、喜ぶ顔ではないから喜んではないのか?


 くっ! アオ!

 助けてなのです!


 

『ナノダスと おとのにてる なまえ いいとおもう』



 アオはナノダスに似てる名前がいいのか!

 

 確かに二本の木は、うまく環境に適応すれば有名な木となるかも知れない。


 そうなると、そこは何か関連性のある名にしてもいいかも。


 

「……サンダス」


 

 ふと思いついた言葉を声に出した。


 

「ティアごめんね。反応が面白いから、ついからかいたくなるのよ。……サンダス。いい名前だよ」


『サンダス! きにいった!』


 

 良かった。


 これで、なんとか名前をつけれそうだ。


 海の中、ひとつの木とは思えないほどの広がりを見せる大木。


 こうして、その大木は海洋樹サンダスと命名されたのであった。


 ーーリオンだけは、まだポコサンサンをいじってきていたが、マリーがお仕置きをしてくれるそうだから放っておくことにした。



 今回の転移では、大陸を創り、超大木ナノダスと海洋樹サンダスを創造した。


 生きものにとっては、まだ過酷すぎる環境だろう。


 アオのおかげで、力のあるものなら生きていけることは実証されたが。


 生命あふれる豊かな星となるには、まだまだ道のりは長いようだ。


 帰りは浮島ではなく、空を飛んで転移の陣へ向かうことになった。


 早く帰って食事をとりたいからだ。


 アオとは、しばしの別れの時間となる。



「アオ! また数ヶ月後に来るからね。寂しい思いをさせて、ごめんなのです」


『マーマ はやく あいにきて わたし まってる!』



 涙を流すアオ。


 それを見て、私も泣いてしまう。


 

「いい関係だな。なんだか色々思い出すぜ」


「あら、珍しいよね? リオンにそんな時があったかしら」


「昔すぎて、思い出せないだけだぞ? マリーも寂しくなったら、いつでも抱きついてきていいからな!」


「世界が終わろうとする時に、リオンしかいなかったらするかもね」



 軽くあしらわれたリオンがこっちに来た。



「アオ! ティアは、お前のことをいつも心配してるぞ。俺もお前は気に入った! 元気でいるんだぞ? また会おうな!」



 マリーも続く。



「アオ、また会いましょう。次はもっと珍しい食べ物を持ってきてあげるよ」



 話を聞いたアオは、その大きな頭をリオンとマリーに擦り付ける。


 別れる前に、アオの加護の力に付加能力を与えていこう。


 これは、ユタから教わった力だ。


 アオに与えた今の加護の力は、純粋に力が高まり危険から身を守る結界と、お互いに居場所が分かる力だ。


 それに、お互いの命の危機が迫った時が分かる力を付与する。


 これがあれば、アオに危険が訪れたとしたら助けに行くことができる。



「アオ、こっちにおいで。新しい力を与えておくのです」



 静かに目を閉じるアオ。そして、加護の力にそんな能力を追加で編み込んでいく。


 練習した成果もあり、問題もなく追加能力を付与することができた。


 アオとの間に、さらに強い絆を感じる。


 なんだか、とても嬉しい気持ちになった。


 目を開けたアオと目が合うと、自然と笑いが出た。


 アオも笑っている。


 きっと同じ気持ちのはずだ。



「じゃあ、アオ。新しい木たちと大地を……大地に名前をつけるのを忘れてたのです!」



 別れの挨拶をしようとしたら、そんなことを思い出した。


 私にとって、名付けは難しい。


 最初で慣れていないということもあるが、最初だからこそ特別な名前を与えてあげたいと思っている。


 しかし、大地につける名前は全く思い浮かんでこない。


 ポコサンサンの件もあるから、なんだか気軽に案を言うのも嫌だ。


 

「思いつかないなら、次の機会にすればいいよ。急がなくてもいいし、名無しの大地でも構わないんだから。……でも、名付けておくと、なぜかしらね。星から名前をもらったものは、いい意味でも悪い意味でも興味深い存在になることが多いよ」



 マリーの言葉の意味は、今はまだよく分からない。


 マリーの教えは、いつも先々を見透している。


 この言葉も、将来役に立つことだから教えてくれているのだろう。


 とりあえず、新しい大地の名前は今度来る時に決めることにした。


 アオにも、それまでにいくつか候補を考えておくように伝えておく。


 アオは言葉の練習もしたいようだ。


 一人の時に声を出す理由にもなると喜んでいた。


 改めての別れの時だ。


 アオの頭に抱きつき、再会の約束を告げる。


 マリーとリオンも挨拶は済んだようだ。


 浮島を消して、空を飛ぶ私たち。


 こうして、海洋樹サンダスにアオを残し、私たちはマリーの星エイトへの帰路につく。


 少し遅い昼下がり。


 遠のくアオの身体を何度も振り返り確認してしまう。


 アオの身体は、見えなくなるまで大きく揺れていた。まるで手を振っているかのように。

 



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